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Posted by ブクログ
文庫になるのを待っていました!冒頭から広がる一條次郎ワールド。相変わらず一條氏のセンスは面白いです。
馴染みやすいポップな切り口でユーモラスに軽快に終末世界を描き、強烈な皮肉とチクチクと刺してくる何かがある一條氏の文章の中に今回は喪失に対する哀愁が濃く見えた。利便性と引き換えに消滅、淘汰される文化は勿論あり、それは大きな時間の中で見れば当たり前に存在してきた流れなのだろうが、その文化に愛着や良さを感じていた人の寂しさみたいなものをヒョーを通して感じていた。発売日を楽しみにしていたCDをわざわざ買いに行き、歌詞カードを眺めながらCDプレイヤーで聴いていた頃を思い出す。今やもっと利便性の高いものに置き換われあの時間は失われつつあるため、ヒョーの気持ちをより身近に受け取れる気がした。
子憎らしさの中に赤子みたいな真っ白で純な感情が見え隠れしどこか憎めないヒョーがとても愛らしく、言葉には表さなくともチェレンコフを慕うヒョーの気持ちに最後の方は胸が締め付けられる。
解説でも言及されている一條氏の「ただ面白いことを書きたいだけ」というスタンスが好きだしそれがこの独特な世界観に繋がっているのだろうな。今作、色々とお気に入りの文章はあったが、チェレンコフの「動物といっしょに暮らすってのは、ひょっとすると虚心にだれかの目をのぞきこむだの口実なのかもしれないとおもうことがあるよ」という文が特に好き。次回作も楽しみだ…!
Posted by ブクログ
なんだろう不可思議な世界。頭で理解しようと努めても全く捉えどころがない。理性を使わずただ世界観を楽しむという純粋な読書を久しぶりに味わったという満足感が残った。
星新一のような不可思議な世界かと思ったら急に環境問題に類する表現が重ねて出てきて、問題提起の小説だったのか?と思うがどうも捉えどころがない。
ずっと不思議なままだけど、登場人物たちが魅力的で柔らかい気持ちのまま読み進めてしまう。アザラシのヒョーやマフィアのチェレンコフ、プロデューサーの座座座テレパス。
地名や店名などのネーミングも面白く、ともすればウケ狙いが透けて見えて冷めかねないのに、なぜかこの作品ではセンスの良さだけを感じて淡々と読めた。著者が淡々と書いているからなんだろうか?
とにかくずっと不思議で、読み終わったら面白かったなーという気持ちだけが残る、昨今珍しい「小説のための小説」という感じで好ましかった。最近のメッセージ性の強い小説では問題提起とともに読者の意識を変えようという作者の思惑を感じてしまい物語には入れ込めないことが多いから…。
クセになるので、作者のほかの作品も読んでみたくなった。ミステリー賞の選考で伊坂幸太郎に「ミステリーがどうかどうでもいいくらい気に入ってる」という趣旨のことを言わしめた『レプリカたちの夜』はぜひ読みたい。
この作品の中ではコインランドリーでヒョーが回りながら現れているシーンが一番好きだったなぁ。
Posted by ブクログ
〈「映画なんてどうでもいいさ。百年後だって見れるんだからな。その気になればいつでもだ。人類が滅亡してものこってるんじゃないのか。あんなのはただの人工的な光の明滅だ。わざわざ見る気もせんよ。だが、おまえは世界だ。人間たちは世界を見ずにスクリーンばかり見てるがな。真の世界が映ってるとでもおもわされてるんだろうな」〉
悪名高きマフィアのボス、シベリアーリョ・ヘヘヘノヴィチ・チェレンコフは殺された。武装警官隊の銃弾を全身に浴びて。オウムガイの密漁が原因だ。生き延びたペット、アザラシのヒョーはチェレンコフの亡霊(?)の言葉に従うように、誕生日にボスから貰ったアザラシ専用座席のあるゴルフカートに乗り、レストランを目指す。
……というなんだか不思議な導入ではじまる本作は、アザラシが世界と対峙する作品です。強烈なブラックバイト、聞こえるオウムガイの呪詛、生き別れの兄弟、迫りくる世界の変容。枠組みから逸れたようにはじまる物語は、枠組みの中に入ることなく、どんどん枠組みから遠くへ離れていく。この物語は、この世界は、私をどこへ連れて行ってくれるのだろう、とわくわくしてしまう物語です。不条理な会話はコミカルなのに、なんだか心を抉ってくる。そんな素敵な作品です。
Posted by ブクログ
表紙の可愛らしさと帯にある江國香織の「なんでチャーミングな一冊。」という言葉に惹かれて買ってしまったけれど、私にはちょっと…でした。いわゆる玄人受けする作品なんだと思う…
飼い主のマフィアが暗殺されたので暮らしていた屋敷を出てゆくヒョウアザラシのヒョー。街は放射能で汚染され海はゴミだらけ、食べ物も飲み物も今とはまるで違ってしまった世界(三葉虫とか食べるのよ!)をヒョーが流離う不条理小説。
あらすじを説明するだけでも訳がわからないんだけど読んでても訳がわからない。世界の汚染具合、暴力や生物の死の軽さ、ふざけているのか真面目なのかわからない筆致など、とにかく何もかもがしっくりこなくて掻痒感がある。解説を読むとプロの作家さんたちは皆絶賛なのだけれど、私は思い切り素人なので具合が悪くなりそうだった。
ただ一つ言えるのが世界観や作風が唯一無二であるということ。
そして生と死の曖昧さや、食べ物として登場する三葉虫などのグロテスクな喋る生物、暴力の軽々しさ、破壊され尽くした世界のディストピア感など、何が自分の地雷なのかをまざまざと考えさせられた。ここまで面白く読めなかった作品には最近出会ってないので貴重な体験でした…
Posted by ブクログ
この著者の名前は知らなかったけど評者の名を見てひさしぶりに書店でジャケ買い。
マフィアのペットとして可愛がられていたヒョウアザラシの〈ヒョー〉は、飼い主であったチェレンコフの亡霊に促されて、外の世界に足を踏み出すことに。オウムガイを屠殺する奴隷労働や、音楽も絵もすべてをカネに換算する資本家たちの手から逃げ出し、マイクロプラスチックのために死体すら海に沈むことのない荒廃しきった世界を彷徨いながら、ヒョーはしだいに、自分こそがすべての死の原因ではないのかという思いに囚われていく。だが剥製にされたチーターの〈ヒョー〉に海の向こうにある故郷に誘われても、動物園で生まれたアザラシの〈ヒョー〉には帰るべき自然はないのだ。できることといえば欲と放射能にまみれたこの世界をぶざまに這い転げまわることだけ。死体だけが耳を傾ける歌をうたいながら…
終末観あふれる物語ながら語り口は一貫して童話のようでさらりと読める。もっともすでに北野勇作のようなSF作家もいるのだから個人的にはもっと毒があってもいいような気もしましたが。
それにしても解説を読んでうんざりさせられたのは小説が社会問題を扱うことに対する文壇の自己検閲だ。山本賞選考委員の今野敏が環境問題への意識が鼻につくと述べてたり、解説の大森望がいやあくまで環境問題は背景でみたいな擁護を述べたりとか、ほんとに馬鹿げてる。世界がここまで壊れてるというのに、「箱入り娘」のお坊ちゃんアザラシはどっちかしらね。
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小説・文芸
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