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“王朝もの”の第二集。芸術と道徳の相剋・矛盾という芥川のもっとも切実な問題を、「宇治拾遺物語」中の絵師良秀をモデルに追及し、古今襴にも似た典雅な色彩と線、迫力ある筆で描いた「地獄変」は、芥川の一代表作である。ほかに、羅生門に群がる盗賊の凄惨な世界に愛のさまざまな姿を浮彫りにした「偸盗」、斬新な構想で作者の懐疑的な人生観を語る「薮の中」など6編を収録する。(解説・吉田精一)
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Posted by ブクログ
6話からなる短編集で、どれも『今昔物語』や『宇治拾遺物語』をベースにしている。 古典的な言い回しや語彙が使われているにもかかわらず、非常に引き込まれる内容で素晴らしかった。 どの話も情景が鮮やかに浮かび上がる。 悪や憎しみの中に芽生える愛、芸術と狂気、神仏への信仰、そして虚しさを抱えた人生など、どの...続きを読むテーマも強烈で、読んでいて圧倒される。 他の作品もぜひ読んでみたいと思った。
藪の中と地獄変は久々に読んだが、やはり藪の中は面白かった。地獄変はところどころ記憶と違うなと思うところがあったがまあ良かった。所々曖昧な描写は考察のしがいがある。 他の短編も短いものが多くて気楽に読めた。 往生絵巻とか短いしオチとしては好きかも。竜のオチは途中予想できてしまったが、面白かった。今昔物...続きを読む語のオチとは違うらしい。姫君の話はまあ普通くらい。偸盗はそんな好きじゃなかった。
『地獄変』は中学生くらいの頃に読んだんだけど今回読み直したら思ってたのと違った…多分『宇治拾遺』とごっちゃにしちゃってたんだな〜 解説に 『地獄変』の良秀は、他の思う通りの傑作を完成したが、しかしそのためには最愛の娘の生命を犠牲にするという残酷な所業をあえてした。絵を完成したのち、一たん道徳的な...続きを読む気もちに立ちかえると、くびれ死なざるを得なかったというところに、芥川の芸術家としての、また同時に人間としての、生き方なり、立脚地なりがあった。 って書いてあって、宇治拾遺の方も『地獄変』も「芸術と道徳の相剋・矛盾」が語られるイメージがあるんだけど『地獄変』はちょっと違う気がする。 確かに良秀は芸術第一の変人だろうけど、娘を愛していたのは確かなのにその娘を檳榔毛の車の中に鎖で繋いで火を放ったのは堀川の大殿で、しかも火にかけようと思いついたのは手篭めにしようとして失敗したからでしょう? 良秀が見たものしか描けないって大殿に言った時の「悦しそうな御景色」「まるで良秀のもの狂いに御染みなすったのかと思う程、唯ならなかった」とかさ〜〜この時に自分の思い通りにならなかったことへの意趣返しとして娘を燃やすことを思いついて顔に出ちゃったんでしょ?外道だよコイツ こいつはくせえッー!ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッーーーーッ!!って感じ。 燃える娘と車を見ながら あのさつきまで地獄の責苦に悩んでいたような良秀は、今は云いようのない輝きを、さながら恍惚とした法悦の輝きを、だらけな満面に浮べながら、(…)両腕をしっかり胸に組んで、佇んでいるではございませんか。それがどうもあの男の眼の中には、娘の死ぬ有様が映っていないようなのでございます。唯美しい火焔の色と、その中に苦しむ女人の姿とが、限りなく、心を悦ばせるーそう云う景色に見えました ってあるけどさ〜悦んでるんじゃなくて限界を越えて心が壊れちゃった様子としか思えない。辛い。 八で語られる良秀の変人エピソードの中に 「誰だと思ったらーーうん、貴様だな。己も貴様だろうと思っていた。なに、迎えに来たと?だから来い。奈落へ来い。奈落にはーー奈落には己の娘が待っている」 っていうこの物語のオチを仄めかすような独り言を言ってる場面があったけど、これも語り手が直接見たことじゃなくて伝聞した話だし…この語り手って明らか大殿の肩を持っていて、乱れた服装で転び出てきた娘を見て「性徳愚かな私には、分りすぎている程分っている事の外は、生憎何一つ飲みこめません」とかどういうこと?? 生前の出来事を語ることは死者の鎮魂となり得るはずけど、大殿の従者であろう語り手が、お上に逆らえない状況で多少なりとも良秀に同情を寄せていたのかどうなのか。個人的には良秀と娘が可哀想すぎて同情していて欲しいと思ってたけど、八のエピソードから語り手の存在も含めザ・作り物語って感じなんだけど、大殿のゲスさや娘を燃やされた良秀の描写は作りモノにしてはあまりにも凄まじい 追記 女が自分の思い通りにならなかったら殺すってノートルダムの鐘のフロロー判事じゃないか>堀川の大殿
主に地獄変の感想となります。 モデルとなる宇治拾遺物語は何となく知っている程度です。それを元に描かれた画師・良秀の芸術と狂気の紙一重の描写が重く思えました。 作品を生み出すため自身の愛情を込めた人物が犠牲となった際の良秀の情景描写で、人としての良心と芸術家としてのエゴが相反し、複雑に混ざりながら葛...続きを読む藤している様子が痛いほど伝わります。 その後、事象を経て描いている良秀の様子は忘我の状態と表現すべきか、神懸かり的な様子で描写されていました。その場面は読んでいて、ついに作品を生み出すために犠牲を厭わなく思ったのかと怖さを抱きました。その一方で、常人では到達できない所に辿り着いたのかとも思いました。 読んでいて気になった所が、良秀については悪く(醜くというべきか)表現されているのに対し、作品を描かせるように仕向けた大殿は良く書かれており対比されるようになっていた所です。その対比は物語の最後まで続いていますが、果たしてこの視点は公平なのでしょうか?そして良秀が迎えた結末は本当に呵責に耐えられなくなったからなのでしょうか?違う視点を持って読み直すとまた、違う感想を抱くのではないかと思いました。 偸盗に関しては作中の情景描写から平安時代、別作品の羅生門の頃の物語なのかと思いました。しかし羅生門とは違い登場する人物が多く、愛憎が交錯した描写や物語の視点が変わる事が多く今どちらの視点なのか?と混乱する感覚がありました。
この作品には以下の6編が収録されている 「偸盗」、「地獄変」、「竜」、「往生絵巻」、「藪の中」、「六の宮の姫君」 個人的に一番印象に残ったのは「偸盗」かなー。芥川が放つ独特の世界観と物語が折り重なっているような気がした。出てくる登場人物たちはどこか歪んでいる人が多いのだけれど、時折見せる人間味も...続きを読む垣間見えて全員を憎むことはできない。 最後は、兄弟の絆かそれとも愛をとるのかという選択を読者に見せつけてくれた気がして、とても感慨深かった。
肉迫の筆致とドラマティックな展開による物語でどれも読者の善悪の価値観に訴えかける力を持つ芥川龍之介による短編集。
天才は狂気、なるか。自殺者 芥川龍之介 「地獄変」はおぞましい。こういうストーリーで自分を追い込み服毒自殺?皆々さまお気をつけ召され
地獄変を読みたくて。 地獄変だけ読んだ感想です。 平安時代かぁ…。 私は大昔に思いを馳せる時、きっとこの時代、一部の特別な人をのぞき人の命は道端の石ころのようなものだったんだろうと思う。 今のような人はみな平等という考え方は一切ないし、気に入らなければ殺される。病気も治す術はないかったのではないか...続きを読む。死体が道端に転がっていたような時代。 絵師良秀は、大殿様から地獄編の屏風を描くように指示され、地獄の様子を描くために弟子を縛りあげたり、鳥に襲わせたりする。路端に転がってる皆が目を背ける死体にも近づいて行って具に観察したりする、奇人変人だ。 そんな良秀は一人娘のことは可愛がっていて、大殿様のもとで下女として使える娘を取り戻したいと直談判するほどだった。 良秀がどうしても描けない、炎の中で燃える車に女がいる場面。殿様に相談したところ、その場面を見せてやると言われ…。 …あとは、有名なラストです。 猿が飛び込んだことは忘れてた。 猿ね、猿は何のためにいたんだろう。 この猿は、なにかの象徴? それとも、それだけこの娘が心清らかで美しい娘だったんだよっていうことを伝えるための猿だったのだろうか。 私の中で、地獄変って娘が焼け死ぬところを望んで描いたものだと誤解してた(何なら、良秀が娘に火をつけたとまで誤解してた…)けど、殿様が自分に靡かない娘とその父親への嫌がらせとして画策したことだったか。 思い込みって、おそろしい。 稀代の絵師良秀も、娘を愛するひとりの父親であったということか。娘の最期、良秀自身もまさに命をかけて描き上げたのでしょう。 この地獄変の屏風、殿様を呪い殺してほしいな(こういうこと思いつく自分が、俗っぽくて嫌だわ…)。 しかしどうやらそういう描写はないから、どんなに魂のこもった絵でも、絵は絵。 怖い話としてなら、良秀なんて、死んだら化けて出るくらいの執念ありそうだけど。 死んだ人や絵の、呪い、祟りがないというのは、芥川の価値観なんだろうか。 地獄という概念はよく登場するから、死んでも魂はどこかにあるという考え方なのかな?と思ってたけど。 現世と死後の世界を明確に区別して、死んだら現世にはとどまれないという生死感なのだろうか。 この話のなかで、殿様は、娘を焼いたのは、そうまでして絵を描こうとする良秀を咎めるためと言ったそうな。いやそんなわけないだろ…!と思う一方、結局人を罰することができるのは、生きている人だけ、ということなのか…。あぁ無情。
再読。回数不明。王朝物。 毎度、偸盗が面白いと思う。作者が駄作としていることは残念である。他の作品にはないような躍動感、メロドロマっぽさ。その他、地獄変と藪の中がお気に入り。
前回読んだ「蜘蛛の糸・杜子春」とはうって変わる世界観 うひゃーたまりません! 完全にこちらが好み♪ ■偸盗 偸盗…盗人団 京の都が荒れ果てていた頃、二人の男兄弟がおりました 兄の太郎は疑い深く斜に構えたような卑屈な性格 見たくれは痘痕で片目の潰れた醜い男 一方の弟、次郎は優しく目鼻立ちの整った好青...続きを読む年 以前は仲の良かった兄弟が一人の偸盗の頭である女に翻弄され、盗人仲間に加わるのでした そして女は兄弟ともに関係を持っているため、当然ながら兄弟はお互いを探り合い、妬み合い、ギクシャクし出すのでございます そんな異常な美しさを持った娘は平気で嘘をつき、殺しも行い、多くの男に身を任せるような悪女でございます 身を任せた男は太郎、次郎はもちろん、義理父の猪熊の爺までも…もちろん他にも… この娘の母親はひきがえるのような卑しげな猪熊の婆と言いまして、昔々、身分違いの男との間にできた子が沙金という、トンビが鷹を産んだ…と言われるような美しい娘なのでした さて猪熊の婆の夫は酒肥の禿頭、猪熊の爺と申しまして、その昔、猪熊の婆に恋をするのでございますが、猪熊の婆は姿を消してしまうのです そして15年後に再会すると、娘の沙金が昔の婆の姿を連想させ、沙金目当てに婆を妻に娶るのでした そしてこの家の居候、阿濃(あこぎ)がおります これは孤児で身寄りもなく白痴でございます 沙金に拾われ、沙金や猪熊の婆たちの家で手伝いをして暮らしたおりますが、家のものからは虐げられております ただ唯一優しい次郎に心を寄せて暮らしておりました 阿濃は臨月でして父親は不明(予測はできます) 本人は次郎が父親だと信じております とまぁ、そんな個性豊かな畜生達の面々 兄弟は沙金という女のせいでお互いを殺してしまいそうなほど精神的に追い詰められ、猪熊の婆は遠い昔を偲びつつも心も荒んできている 爺の方は酒肥りがひどく心が腐りかけている そして阿濃は出産間近 夏の暑さで腐敗した京の町から異臭が漂う 湿度があるのに埃立つこのザラっとした感じ 何かが起こる予感をさせる描写… そしてある屋敷に窃盗を仕掛けるのだが、事態は展開する 猪熊の婆が爺を助けようとするシーンは飛猿の如くカッコいい 畜生過ぎる猪熊の爺も最期には阿濃の産んだ子に微笑を浮かべる 阿濃は生まれて初めて幸せを知っただろう 太郎と次郎は沙金かはたまた肉親かどちらを選ぶのか… この決断の結果に最後感動さえしてしまう 一番の悪作とご本人が自嘲している作品らしい上、巻末の解説にも、「まぁ読み物として一応興味はある」 …随分である 個人的には今まで読んだ芥川作品の中で一番面白かったのだけどなぁ… 京の荒れた下町風情で繰り広げられる、醜さと美しさと不幸と幸せが織りなす喜劇観がなんとも良いのですが… ■地獄変 語り手は堀川の大殿様に二十年来奉仕する者 この語り口調の柔らかさと良秀のアクの強さやこの作品の暗雲立ち込める雰囲気とのアンバランスさが巧妙 右に出るものはいないほどの高名な絵師良秀という老人 しかし見た目の卑しさだけでなく、吝嗇で、恥知らずで、怠け者で、強欲で、横柄で、傲慢…… そう、誰にでも嫌われ、とかく不評な男である その良秀には十五になる一人娘がいる 娘は大殿様の御邸で小女房として仕えていたが思いやりがあり、利口で良く気がつくため皆に可愛がられていた 良秀の娘とは思えない真逆のキャラクター この一人娘を気狂のように可愛がっていたことが唯一無二の良秀のまともなところ リアルさを追求するためなら弟子を縛り上げモデルにさせたり、腐敗した死体に向かい絵筆を動かすことを厭わない 仕事に対する没頭ぶりは狂気を感じるほどだ 大殿様から地獄変の屏風を描くように依頼がくる 地獄変の屏風にのめり込む良秀 見たものしか描けない! 炎の中の地獄を描きたい 大殿様に訴える そして大殿様は良秀の望みを叶える それは…… うーむ予想通りの展開になる このクライマックスの良秀の心境が刻一刻と変化する描写が素晴らしい 受け入れ難い現実を知った驚愕さ 深い嘆きと悲しみ 抑えられない芸術欲と溢れ出す情熱 炎と良秀の心の燃焼が相まって激しく狂おしく、そして美さえ感じてしまう… そうそう猿の登場でどうやら以前読んだことがあることに気づいた 全く忘れてきたので敢えてあらすじを残すことにした この猿が作品のスパイスになっていてよい挿入歌のような役割を果たしており、個人的にもこの猿クンお気に入りだ しかし大殿様はなかなかの人柄であると描写されていたのに…なぜ? 最後までわからない ■藪の中 藪の中でとある男の死骸が発見される 関係者らに検非違使による事情聴取が行われる 事情聴取を受けた各人物の告白で展開するが当事者に近づくにつれ、それぞれが異なる話をするのである 当事者は死骸である男、この男の妻、盗人の3人である 誰が真実を語っているのか… サスペンス仕立ての物語である 構成も凝っているし、ミステリーとしてのスリリングさを味わうこともできる ついついそれぞれの言い分を間に受けてしまい、完全に振り回された良質な読者になってしまった そしてこの夫婦の心情が…ねぇ、なかなか尾を引く… と本書では上記の3作品がとても気に入った 他は簡単に… ■竜 これどうやって終わらせるのか…と不安になったが… ウソから出たマコト そう来たか! ■往生絵巻 脚本のような各登場人物のセリフだけで成立しているのだが、点と点を移動している何か繋がりみたいなものがきちんと見えるのだ! 見事な描写 ■六の宮の姫君 救いのない悲しい姫君のお話し 極楽も地獄も知らぬ不甲斐ない女の魂 ああ、切なさと不条理が後を引く… 前回読んだ「蜘蛛の糸・杜子春」は教訓めいたものが多くてちょっと好みじゃなかったのだが、こちらは打って変わって純粋に楽しめた シュールで丸裸の人間の世界観が最高である 全ての作品において共通するのは 人間を赤裸々に描いて見事に暴露しちゃってる(笑)感じ 強欲さや醜さに見え隠れする慈悲深い心 嘘で固められた中に潜む真実 どうしようもなく揺れる心 ああ、人間て本当に矛盾だらけで不安定で小さくて汚くて… それと同時に尊くて温かい… 複雑で単純で…何のかんの愛おしいではないか そんなふうに感じる作品たちであった そうそう、今昔物語をベースにした作品が多い …ん? ということは私は芥川作品が気に入ったのではなく今昔物語が気に入ったということ…⁉︎ これは分析しなくてはいけない どーせ前々から今昔物語は気にはなっていたので挑戦したい(たぶんビギナーズクラシックスにお世話になるだろうけど) そして、芥川ももう1冊読んでみるしかない…
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地獄変・偸盗(新潮文庫)
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