あらすじ
“王朝もの”の第二集。芸術と道徳の相剋・矛盾という芥川のもっとも切実な問題を、「宇治拾遺物語」中の絵師良秀をモデルに追及し、古今襴にも似た典雅な色彩と線、迫力ある筆で描いた「地獄変」は、芥川の一代表作である。ほかに、羅生門に群がる盗賊の凄惨な世界に愛のさまざまな姿を浮彫りにした「偸盗」、斬新な構想で作者の懐疑的な人生観を語る「薮の中」など6編を収録する。(解説・吉田精一)
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Posted by ブクログ
6話からなる短編集で、どれも『今昔物語』や『宇治拾遺物語』をベースにしている。
古典的な言い回しや語彙が使われているにもかかわらず、非常に引き込まれる内容で素晴らしかった。
どの話も情景が鮮やかに浮かび上がる。
悪や憎しみの中に芽生える愛、芸術と狂気、神仏への信仰、そして虚しさを抱えた人生など、どのテーマも強烈で、読んでいて圧倒される。
他の作品もぜひ読んでみたいと思った。
Posted by ブクログ
これこそまさに地獄。正真正銘の地獄。こんなエグい話をよくも書けたな、と驚くと共に溜め息が出た。ストーリーも秀逸だが、文章が凄くて、地獄変の屏風絵が私の脳内に生々しく浮かび、実際に見た事あるような気がしてきたからそら恐ろしい。そして、電車の中で読んでいた私は、ラスト数ページで涙が止まらなくなってしまった。猿の良秀にやられた。
絵師の良秀は腕は良いが変わり者。人に嫌われていたが、唯一、娘だけは愛情たっぷりに男手ひとつで育てていた。その娘はというと心優しく、愛嬌もあり大殿様の所に奉公しており、皆んなに可愛がられていた。
ある日、良秀は大殿様から地獄変の屏風を描くように仰せつかわされる。地獄を描くために弟子にあらゆる責苦を行い、その様子を書き写す毎日を過ごす中で、良秀は段々、狂気じみて来る。最後の仕上げとして、良秀は大殿様にお願いをする。炎の地獄を描きたいが、見たモノしか描けない。目の前で女性を乗せた牛車を焼いて欲しい、と…。
だんだんトチ狂ってくる良秀の変容がさし迫ってくる。芸術を追求するためには、人間の心までも無くしてしまうのか。鬼畜の成せる技。
ここまで狂ったら次はどうなる?
クライマックスは想像を大きく越えた。
火の中に飛び込んで消えた猿の良秀の方が、人の心を持っていたわけで、そこに救いがあった。
大殿様と良秀の娘との関係も謎のままだが、語り手が否定すればする程、そういう事なんだろう。でなければ、あんな所業はできない。
娘が焼かれる様子を見て、地獄の苦しみを受けていたが、一瞬、恍惚とした法悦の表情を浮かべた良秀。この場面が忘れられない。ここが芥川の非凡で天才な能力で、追求するあまりに精神の危うさを感じた。人間の心の闇を描き出した本作は、彼の最高傑作の一つだと思う。
Posted by ブクログ
「王朝もの」と言われる6編を収録した短編集。
どれも初めて読むものばかりでした。
圧倒されたのは「地獄変」です。
超有名作品なのでタイトルだけは知っていました。なぜもっと早く読んでいなかったのかと、自分を問い詰めたいです。
「見たものでないと書けない」から、上﨟を乗せた車を用意して実際に火をかけて欲しいと、大殿に頼み込む良秀。それを快諾した時点で、哀れな上臈の正体は予想できました。
車が燃え盛り、中で悶え苦しむ娘、それを見る良秀の狂気的な描写が凄まじく、圧巻でした。
至高の芸術とは狂気と紙一重なのかと考えさせられます。
最後に良秀は自死しますが、芥川の最期とも重なり、心に深く残りました。
それにしても、大殿はなかなか悪いやつですね。
大殿に「二十年来奉公する」者が語り手なので、絶妙に擁護を挟み込みます。ここがまた面白いなと感じました。なぜ、大殿が良秀の娘を焼き殺したのか。私は「恋の恨み」説を推します。
「偸盗」は、始め、人物相関や人名が頭に入ってこず、読みにくいと感じました。しかし、それらが理解出来るようになると、愛憎渦巻くドロドロしたお話で印象的でした。沙金が報いを受けてヤレヤレです。
Posted by ブクログ
本書所収『地獄変』
この作品を読んでいると、まるでサスペンス映画を観ているかのような緊張感に自分が包まれていることを感じます。天才画家良秀が弟子を鎖で縛ったりミミズクをけしかけるくらいまではまだいいのです。「また始まったよ良秀の奇行が」くらいのものです。ですがそこから段々妙な予感が私達の中に生まれ、次第に不気味に思えてきます。「まさか、良秀がやろうとしていることって・・・」とついハラハラしてしまいます。この徐々に徐々に恐怖や不安を煽っていくスタイルは、ミステリーのお手本とも言うべき実に鮮やかなストーリーテリングです。さすが芥川龍之介です。
この作品には「完璧な絵を描き上げんとする狂気の画家を、言葉の芸術家が完全に描き切るのだ」という芥川の野心すら感じさせられます。
この作品が芥川文学の中でも傑作として評価されている理由がよくわかります。
Posted by ブクログ
古文の問題集で『地獄変』の元になった作品がでてきて興味深かったから芥川の創作も読んでみた。全て古典作品を元にした短編集。
『偸盗』
ただ面白いなと思いながら読んでいたが、徐々に多くの人の愛が複雑に交わり、美しい兄弟愛の話でもあることが浮き彫りになってきて良かった。芥川の作品で一番好きかも。ただ解説によると芥川はこれを一番の悪作としているらしい 笑
『地獄変』
原作よりも主人公良秀の性格が狂っている。良秀の愛娘を彼の前で焼き殺して見せることを決めた大殿様も恐ろしいが、それを微笑みながら眺める彼も相当恐ろしい。直後に自殺をしてはいるが。
『藪の中』
数人の証言で構成されるが結局事実が分からないという興味深い話。
Posted by ブクログ
表題作「地獄変」
娘を焼き殺し画を描く、というあらすじは記憶に残っていたものの、大殿がやらせたことだったとは驚いた。こんなむごい話だったのですね。
何より地獄の烈火を前にした絵師良秀が神がかるというクライマックスの持っていきかたに感無量。さらにその良秀の墓も苔むしてしまうラストには鳥肌。
娘を殺されるという命を絶つレベルの苦悩と引き換えに成し得た屏風の完成。そこまで芸術に魂を賭けた。人知を超えた行いは、その善悪をも超えて人の心を打つのでしょう。
娘がどれほどかわいく、絵師良秀がいかに卑しいかをさんざん語ったあとでこの結末。対比が凄い。
しかし猿はかわいそうだな。
Posted by ブクログ
藪の中と地獄変は久々に読んだが、やはり藪の中は面白かった。地獄変はところどころ記憶と違うなと思うところがあったがまあ良かった。所々曖昧な描写は考察のしがいがある。
他の短編も短いものが多くて気楽に読めた。
往生絵巻とか短いしオチとしては好きかも。竜のオチは途中予想できてしまったが、面白かった。今昔物語のオチとは違うらしい。姫君の話はまあ普通くらい。偸盗はそんな好きじゃなかった。
Posted by ブクログ
『地獄変』は中学生くらいの頃に読んだんだけど今回読み直したら思ってたのと違った…多分『宇治拾遺』とごっちゃにしちゃってたんだな〜
解説に
『地獄変』の良秀は、他の思う通りの傑作を完成したが、しかしそのためには最愛の娘の生命を犠牲にするという残酷な所業をあえてした。絵を完成したのち、一たん道徳的な気もちに立ちかえると、くびれ死なざるを得なかったというところに、芥川の芸術家としての、また同時に人間としての、生き方なり、立脚地なりがあった。
って書いてあって、宇治拾遺の方も『地獄変』も「芸術と道徳の相剋・矛盾」が語られるイメージがあるんだけど『地獄変』はちょっと違う気がする。
確かに良秀は芸術第一の変人だろうけど、娘を愛していたのは確かなのにその娘を檳榔毛の車の中に鎖で繋いで火を放ったのは堀川の大殿で、しかも火にかけようと思いついたのは手篭めにしようとして失敗したからでしょう?
良秀が見たものしか描けないって大殿に言った時の「悦しそうな御景色」「まるで良秀のもの狂いに御染みなすったのかと思う程、唯ならなかった」とかさ〜〜この時に自分の思い通りにならなかったことへの意趣返しとして娘を燃やすことを思いついて顔に出ちゃったんでしょ?外道だよコイツ こいつはくせえッー!ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッーーーーッ!!って感じ。
燃える娘と車を見ながら
あのさつきまで地獄の責苦に悩んでいたような良秀は、今は云いようのない輝きを、さながら恍惚とした法悦の輝きを、だらけな満面に浮べながら、(…)両腕をしっかり胸に組んで、佇んでいるではございませんか。それがどうもあの男の眼の中には、娘の死ぬ有様が映っていないようなのでございます。唯美しい火焔の色と、その中に苦しむ女人の姿とが、限りなく、心を悦ばせるーそう云う景色に見えました
ってあるけどさ〜悦んでるんじゃなくて限界を越えて心が壊れちゃった様子としか思えない。辛い。
八で語られる良秀の変人エピソードの中に
「誰だと思ったらーーうん、貴様だな。己も貴様だろうと思っていた。なに、迎えに来たと?だから来い。奈落へ来い。奈落にはーー奈落には己の娘が待っている」
っていうこの物語のオチを仄めかすような独り言を言ってる場面があったけど、これも語り手が直接見たことじゃなくて伝聞した話だし…この語り手って明らか大殿の肩を持っていて、乱れた服装で転び出てきた娘を見て「性徳愚かな私には、分りすぎている程分っている事の外は、生憎何一つ飲みこめません」とかどういうこと??
生前の出来事を語ることは死者の鎮魂となり得るはずけど、大殿の従者であろう語り手が、お上に逆らえない状況で多少なりとも良秀に同情を寄せていたのかどうなのか。個人的には良秀と娘が可哀想すぎて同情していて欲しいと思ってたけど、八のエピソードから語り手の存在も含めザ・作り物語って感じなんだけど、大殿のゲスさや娘を燃やされた良秀の描写は作りモノにしてはあまりにも凄まじい
追記
女が自分の思い通りにならなかったら殺すってノートルダムの鐘のフロロー判事じゃないか>堀川の大殿
Posted by ブクログ
主に地獄変の感想となります。
モデルとなる宇治拾遺物語は何となく知っている程度です。それを元に描かれた画師・良秀の芸術と狂気の紙一重の描写が重く思えました。
作品を生み出すため自身の愛情を込めた人物が犠牲となった際の良秀の情景描写で、人としての良心と芸術家としてのエゴが相反し、複雑に混ざりながら葛藤している様子が痛いほど伝わります。
その後、事象を経て描いている良秀の様子は忘我の状態と表現すべきか、神懸かり的な様子で描写されていました。その場面は読んでいて、ついに作品を生み出すために犠牲を厭わなく思ったのかと怖さを抱きました。その一方で、常人では到達できない所に辿り着いたのかとも思いました。
読んでいて気になった所が、良秀については悪く(醜くというべきか)表現されているのに対し、作品を描かせるように仕向けた大殿は良く書かれており対比されるようになっていた所です。その対比は物語の最後まで続いていますが、果たしてこの視点は公平なのでしょうか?そして良秀が迎えた結末は本当に呵責に耐えられなくなったからなのでしょうか?違う視点を持って読み直すとまた、違う感想を抱くのではないかと思いました。
偸盗に関しては作中の情景描写から平安時代、別作品の羅生門の頃の物語なのかと思いました。しかし羅生門とは違い登場する人物が多く、愛憎が交錯した描写や物語の視点が変わる事が多く今どちらの視点なのか?と混乱する感覚がありました。
Posted by ブクログ
この作品には以下の6編が収録されている
「偸盗」、「地獄変」、「竜」、「往生絵巻」、「藪の中」、「六の宮の姫君」
個人的に一番印象に残ったのは「偸盗」かなー。芥川が放つ独特の世界観と物語が折り重なっているような気がした。出てくる登場人物たちはどこか歪んでいる人が多いのだけれど、時折見せる人間味も垣間見えて全員を憎むことはできない。
最後は、兄弟の絆かそれとも愛をとるのかという選択を読者に見せつけてくれた気がして、とても感慨深かった。
Posted by ブクログ
平安時代の画師・良秀の生涯を描いた作品。本作は、その卓越した技術と人々を惹きつける独特の魅力を持ちながらも、醜い容姿と傲慢な性格で周囲から疎まれる老画師の姿を通して、美と醜、愛と欲望、そして芸術の本質について深く掘り下げています。
良秀は一人娘に対する深い愛情を抱いており、彼女の幸せを何よりも優先していました。しかし、その娘が大殿様の目に留まり、良秀は娘を手放すことを拒みました。この決断が、後に彼と娘の運命を狂わせることになります。大殿様からの命令で「地獄変」の屏風絵を描くことになった良秀は、作品に没頭するあまり、次第に狂気に陥っていきました。彼の中で、現実と芸術の境界が曖昧になり、その過程で犠牲となる弟子の姿は、強烈な印象を残します。
この物語を読み進める中で、良秀の孤独と苦悩、そして彼の芸術に対する情熱に心を打たれました。また、彼の行動が引き起こす悲劇的な結末は、人間の業の深さを感じさせます。芥川の緻密な筆致で描かれる「地獄変」は、ただの伝記ではなく、人間の内面を探求する哲学的な作品と言えるでしょう。
本書のテーマは、芸術と狂気、そして人間の欲望が交錯する地獄のような世界を描いたことにあります。良秀の狂気は、彼の芸術性と密接に結びついており、その狂気が彼の作品に深みを与えています。この物語は、芸術家の苦悩と犠牲を描きながら、芸術の価値と意味を問いかけます。
「地獄変」を読むことで、自らの内面と向き合い、人間の持つ複雑な感情や欲望について考えさせられます。芥川龍之介の筆は、平安時代の遠い世界へと誘い、現代にも通じる普遍的なテーマを提示しています。
Posted by ブクログ
地獄変を読みたくて。
地獄変だけ読んだ感想です。
平安時代かぁ…。
私は大昔に思いを馳せる時、きっとこの時代、一部の特別な人をのぞき人の命は道端の石ころのようなものだったんだろうと思う。
今のような人はみな平等という考え方は一切ないし、気に入らなければ殺される。病気も治す術はないかったのではないか。死体が道端に転がっていたような時代。
絵師良秀は、大殿様から地獄編の屏風を描くように指示され、地獄の様子を描くために弟子を縛りあげたり、鳥に襲わせたりする。路端に転がってる皆が目を背ける死体にも近づいて行って具に観察したりする、奇人変人だ。
そんな良秀は一人娘のことは可愛がっていて、大殿様のもとで下女として使える娘を取り戻したいと直談判するほどだった。
良秀がどうしても描けない、炎の中で燃える車に女がいる場面。殿様に相談したところ、その場面を見せてやると言われ…。
…あとは、有名なラストです。
猿が飛び込んだことは忘れてた。
猿ね、猿は何のためにいたんだろう。
この猿は、なにかの象徴?
それとも、それだけこの娘が心清らかで美しい娘だったんだよっていうことを伝えるための猿だったのだろうか。
私の中で、地獄変って娘が焼け死ぬところを望んで描いたものだと誤解してた(何なら、良秀が娘に火をつけたとまで誤解してた…)けど、殿様が自分に靡かない娘とその父親への嫌がらせとして画策したことだったか。
思い込みって、おそろしい。
稀代の絵師良秀も、娘を愛するひとりの父親であったということか。娘の最期、良秀自身もまさに命をかけて描き上げたのでしょう。
この地獄変の屏風、殿様を呪い殺してほしいな(こういうこと思いつく自分が、俗っぽくて嫌だわ…)。
しかしどうやらそういう描写はないから、どんなに魂のこもった絵でも、絵は絵。
怖い話としてなら、良秀なんて、死んだら化けて出るくらいの執念ありそうだけど。
死んだ人や絵の、呪い、祟りがないというのは、芥川の価値観なんだろうか。
地獄という概念はよく登場するから、死んでも魂はどこかにあるという考え方なのかな?と思ってたけど。
現世と死後の世界を明確に区別して、死んだら現世にはとどまれないという生死感なのだろうか。
この話のなかで、殿様は、娘を焼いたのは、そうまでして絵を描こうとする良秀を咎めるためと言ったそうな。いやそんなわけないだろ…!と思う一方、結局人を罰することができるのは、生きている人だけ、ということなのか…。あぁ無情。
Posted by ブクログ
再読。回数不明。王朝物。
毎度、偸盗が面白いと思う。作者が駄作としていることは残念である。他の作品にはないような躍動感、メロドロマっぽさ。その他、地獄変と藪の中がお気に入り。
Posted by ブクログ
前回読んだ「蜘蛛の糸・杜子春」とはうって変わる世界観
うひゃーたまりません!
完全にこちらが好み♪
■偸盗
偸盗…盗人団
京の都が荒れ果てていた頃、二人の男兄弟がおりました
兄の太郎は疑い深く斜に構えたような卑屈な性格
見たくれは痘痕で片目の潰れた醜い男
一方の弟、次郎は優しく目鼻立ちの整った好青年
以前は仲の良かった兄弟が一人の偸盗の頭である女に翻弄され、盗人仲間に加わるのでした
そして女は兄弟ともに関係を持っているため、当然ながら兄弟はお互いを探り合い、妬み合い、ギクシャクし出すのでございます
そんな異常な美しさを持った娘は平気で嘘をつき、殺しも行い、多くの男に身を任せるような悪女でございます
身を任せた男は太郎、次郎はもちろん、義理父の猪熊の爺までも…もちろん他にも…
この娘の母親はひきがえるのような卑しげな猪熊の婆と言いまして、昔々、身分違いの男との間にできた子が沙金という、トンビが鷹を産んだ…と言われるような美しい娘なのでした
さて猪熊の婆の夫は酒肥の禿頭、猪熊の爺と申しまして、その昔、猪熊の婆に恋をするのでございますが、猪熊の婆は姿を消してしまうのです
そして15年後に再会すると、娘の沙金が昔の婆の姿を連想させ、沙金目当てに婆を妻に娶るのでした
そしてこの家の居候、阿濃(あこぎ)がおります
これは孤児で身寄りもなく白痴でございます
沙金に拾われ、沙金や猪熊の婆たちの家で手伝いをして暮らしたおりますが、家のものからは虐げられております
ただ唯一優しい次郎に心を寄せて暮らしておりました
阿濃は臨月でして父親は不明(予測はできます)
本人は次郎が父親だと信じております
とまぁ、そんな個性豊かな畜生達の面々
兄弟は沙金という女のせいでお互いを殺してしまいそうなほど精神的に追い詰められ、猪熊の婆は遠い昔を偲びつつも心も荒んできている
爺の方は酒肥りがひどく心が腐りかけている
そして阿濃は出産間近
夏の暑さで腐敗した京の町から異臭が漂う
湿度があるのに埃立つこのザラっとした感じ
何かが起こる予感をさせる描写…
そしてある屋敷に窃盗を仕掛けるのだが、事態は展開する
猪熊の婆が爺を助けようとするシーンは飛猿の如くカッコいい
畜生過ぎる猪熊の爺も最期には阿濃の産んだ子に微笑を浮かべる
阿濃は生まれて初めて幸せを知っただろう
太郎と次郎は沙金かはたまた肉親かどちらを選ぶのか…
この決断の結果に最後感動さえしてしまう
一番の悪作とご本人が自嘲している作品らしい上、巻末の解説にも、「まぁ読み物として一応興味はある」
…随分である
個人的には今まで読んだ芥川作品の中で一番面白かったのだけどなぁ…
京の荒れた下町風情で繰り広げられる、醜さと美しさと不幸と幸せが織りなす喜劇観がなんとも良いのですが…
■地獄変
語り手は堀川の大殿様に二十年来奉仕する者
この語り口調の柔らかさと良秀のアクの強さやこの作品の暗雲立ち込める雰囲気とのアンバランスさが巧妙
右に出るものはいないほどの高名な絵師良秀という老人
しかし見た目の卑しさだけでなく、吝嗇で、恥知らずで、怠け者で、強欲で、横柄で、傲慢……
そう、誰にでも嫌われ、とかく不評な男である
その良秀には十五になる一人娘がいる
娘は大殿様の御邸で小女房として仕えていたが思いやりがあり、利口で良く気がつくため皆に可愛がられていた
良秀の娘とは思えない真逆のキャラクター
この一人娘を気狂のように可愛がっていたことが唯一無二の良秀のまともなところ
リアルさを追求するためなら弟子を縛り上げモデルにさせたり、腐敗した死体に向かい絵筆を動かすことを厭わない
仕事に対する没頭ぶりは狂気を感じるほどだ
大殿様から地獄変の屏風を描くように依頼がくる
地獄変の屏風にのめり込む良秀
見たものしか描けない!
炎の中の地獄を描きたい
大殿様に訴える
そして大殿様は良秀の望みを叶える
それは……
うーむ予想通りの展開になる
このクライマックスの良秀の心境が刻一刻と変化する描写が素晴らしい
受け入れ難い現実を知った驚愕さ
深い嘆きと悲しみ
抑えられない芸術欲と溢れ出す情熱
炎と良秀の心の燃焼が相まって激しく狂おしく、そして美さえ感じてしまう…
そうそう猿の登場でどうやら以前読んだことがあることに気づいた
全く忘れてきたので敢えてあらすじを残すことにした
この猿が作品のスパイスになっていてよい挿入歌のような役割を果たしており、個人的にもこの猿クンお気に入りだ
しかし大殿様はなかなかの人柄であると描写されていたのに…なぜ?
最後までわからない
■藪の中
藪の中でとある男の死骸が発見される
関係者らに検非違使による事情聴取が行われる
事情聴取を受けた各人物の告白で展開するが当事者に近づくにつれ、それぞれが異なる話をするのである
当事者は死骸である男、この男の妻、盗人の3人である
誰が真実を語っているのか…
サスペンス仕立ての物語である
構成も凝っているし、ミステリーとしてのスリリングさを味わうこともできる
ついついそれぞれの言い分を間に受けてしまい、完全に振り回された良質な読者になってしまった
そしてこの夫婦の心情が…ねぇ、なかなか尾を引く…
と本書では上記の3作品がとても気に入った
他は簡単に…
■竜
これどうやって終わらせるのか…と不安になったが…
ウソから出たマコト
そう来たか!
■往生絵巻
脚本のような各登場人物のセリフだけで成立しているのだが、点と点を移動している何か繋がりみたいなものがきちんと見えるのだ!
見事な描写
■六の宮の姫君
救いのない悲しい姫君のお話し
極楽も地獄も知らぬ不甲斐ない女の魂
ああ、切なさと不条理が後を引く…
前回読んだ「蜘蛛の糸・杜子春」は教訓めいたものが多くてちょっと好みじゃなかったのだが、こちらは打って変わって純粋に楽しめた
シュールで丸裸の人間の世界観が最高である
全ての作品において共通するのは
人間を赤裸々に描いて見事に暴露しちゃってる(笑)感じ
強欲さや醜さに見え隠れする慈悲深い心
嘘で固められた中に潜む真実
どうしようもなく揺れる心
ああ、人間て本当に矛盾だらけで不安定で小さくて汚くて…
それと同時に尊くて温かい…
複雑で単純で…何のかんの愛おしいではないか
そんなふうに感じる作品たちであった
そうそう、今昔物語をベースにした作品が多い
…ん?
ということは私は芥川作品が気に入ったのではなく今昔物語が気に入ったということ…⁉︎
これは分析しなくてはいけない
どーせ前々から今昔物語は気にはなっていたので挑戦したい(たぶんビギナーズクラシックスにお世話になるだろうけど)
そして、芥川ももう1冊読んでみるしかない…
Posted by ブクログ
倫理を超越した執着。大殿様の、姫君に対する愛憎より、良秀の芸術心が勝ってしまう、それが分かる2人の対照的な表情の変化が実に神妙。 個人的には、小猿は良秀が娘に抱く愛情の暗喩で、小猿が業火に突入し死んだことが、良秀の人間的な部分が消滅した転換点を表しているのかなと思いました。 才能のある人って完成度高いほど、その才能自体が本体で人の部分仮の姿?って思ってしまうときがあります。。
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偸盗は黒澤明が映画にした藪の中(映画のタイトルは羅生門)よりも、よほど活劇にしたてあげられる作品ではないか。登場人物の悪役がみな生き生きしているし、荒廃した京都の描写も羅生門に匹敵する。ぜひ映画化してほしい。
地獄変は高校の教科書以来だが、絵師の良秀が絵の題材にしたくて好んで牛車に載った娘を焼き殺したのでなく、大殿からの命令で見たものしか描けない絵師なのでやむなく娘を火にかけたものの、その有り様を見ているときに恍惚を感じてしまったという作品だったのですね。竜は嘘から出た実という寓話、藪の中はタイトルとおりの事象を読者としては受け入れるしかない技巧の極致のような作品、六の宮の姫君は男性に捨てられるまま何もできないまま衰退してしまうお嬢様の話ということでそういうことも昔はあったのだろうねという次元の話。ということで、意外にも著者が悪作品とののしる偸盗が一番きにいりました。
Posted by ブクログ
はじめての芥川龍之介
短編集「地獄変.偸盗」より「薮の中」
暴れん坊盗賊に武士の夫婦が山中で襲われ妻
は乱暴され夫は殺害される。
三人三様異なる証言に人の真は何かを問います。
たった16頁短編が屈指の論文数なんだそうです
が大丈夫でしょうかこの国の学問は(泣)
映画 黒澤監督「羅生門」原作となり
日本初 ベニス国際映画祭金獅子賞、
アカデミー外国語賞受賞も
国内では興行的に難解で大コケし大映幹部も
受賞前は批判の嵐だったのが受賞後は掌を
返しての大絶賛になったらしい(笑)
Posted by ブクログ
『偸盗』
『カルメン』をモチーフにしたと聞いたので読んだ。
確かにカルメンだった。展開や容貌の描写も含めて。
ただ、本家メリメの『カルメン』よりもずっとドラマティックだ。
『カルメン』は終始女性への恋心を中心に据えているが、『偸盗』は決闘シーンがメインとなっている(気がする)。決闘シーンは、まるでバトル漫画を読んでいるかのような怒涛の展開。ハラハラさせられた。
芥川が言うような駄作では決してない。だが、他の芥川作品よりもいい意味で軽いと思う。
Posted by ブクログ
『偸盗 』
沙金という美女(悪女)に太郎・次郎という兄弟が翻弄される話。太郎が次郎を助けるシーンが好き。
『地獄変』
芸術の為に女を焼き殺して欲しいと言った絵師と了承して絵師の娘を焼き殺す大殿様。
語り手は大殿様のことをめちゃくちゃ高く評価してるけど、この話を読む限りにおいていいとこあった??って思った。橋柱に寵愛していた童を立てたことがいい人エピソードのひとつとして取り上げられていた。現代の感覚ではいい人エピソードにはならないと思うけど、昔はプラス評価だったのかしら?
『竜』
嘘を言ったらホントになった話?
鼻と似てる
『藪の中』
男が死んでいた。
そして3人が男を殺したと自供している。
ものの見方はひとによって違う、というかなんというか。思い込みってあるよねって思った。
『六の宮姫君』
これはちょっと分からなかったけど、乳母の愛がいいなって思ったよ。
Posted by ブクログ
『偸盗』『往生絵巻』は難しく感じました。
『地獄変』『竜』『藪の中』『六の宮の姫君』は、おもしろかったです。
特に『藪の中』は、同じ事象でも人によって、見たものや解釈が異なるという心理が描かれていて、興味深かったです。
Posted by ブクログ
お久しぶりの芥川。
芥川の短編って最初の二、三ページはその物語の設定に慣れるのに苦労するけど、一旦夢中になると放してくれない感じ。
独特の引力を持った作品が多い気がする。
個人的に一番好きだったのは「偸盗」。芥川自身は「一番の悪作」と自虐していたらしいけど、退廃的な雰囲気の中に、悲喜交々の人間の姿が浮かび上がっているようでよかったなあ。
Posted by ブクログ
「偸盗」は人間の根源的な家族愛をうたいあげて感情には響いたが理知には響かなかった。「地獄変」は猿の存在が特にすばらしく、文句のつけようがない名作。この2作が続けて収録されているのがなかなかおもしろい。「藪の中」は真実の多面性、人生の懐疑性を示したとされているけれど、人はここまで偽り拵えうるのかという人心のおそろしさを自分は強く読んだ。「六の宮の姫君」では”極楽も地獄も知らぬ”弱く怠惰な生と「往生絵巻」での物狂いの生の対比が鮮やかで、きりりとした文章と描写も美しい。
Posted by ブクログ
「地獄変」が余りに強烈だ。
溺愛する娘を車ごと炎で焼き、その様を地獄変の屏風として描くという、狂気じみた物語。
親である良秀、娘を召し上げた大殿様、彼らの情愛と執着が物語の進行と共に狂気を帯びてゆく。
良秀にかぎっては、大殿様との直接の場面前にも、地獄変屏風のリアリティを求める余り弟子を痛めつけるという奇行に走るのだが。
物語は第三者の口語敬体(です・ます調)の丁寧語(でございます)で語られるのだが、
敬意を持って丁寧な口調であればある程、狂気の沙汰が恐ろしい。
車に火を着けてからみるみるうちに車を包む炎の様子、炎の中の娘の姿、良秀と大殿様のそれぞれの表情の変化、それらが息をもつかせぬ緊張感で語られてゆくシーンは凄まじい。
ここからは余計なお話。
私は芥川龍之介の作品が長らく苦手だった。
学生時代の教科書で「走れメロス」「蜘蛛の糸」など触れてきたが、プライベートでは手を出せずにいた。
しかしあるTV番組がきっかけで、「地獄変」から触れ直す事になった。
昔「あらすじで読む世界名作劇場」という番組があった。
芸能人が名作を様々な手法でプレゼンするという番組。
誰が司会だったか、どんな作品が紹介されたか、もう全く覚えていないというのに、「地獄変」だけは思い出せる。
市川春猿さん(当時)が、切り絵を使って、時には自身が演じながらプレゼンした。
春猿さんの鬼気迫る語りに、「地獄変」をきちんと読んでみようと思ったのだ。
そういうハッとさせられる瞬間、たまにありませんか?
今後も、そんな時は躊躇わず新しい作家さんの作品に触れていきたい。
Posted by ブクログ
平安時代の古典を元とした短編集。文章も古典の口語訳の様な趣なので、古典や平安文化に興味がないと読みにくいかも。
『藪の中』は古典風味のミステリーで印象深い。構成が面白くて現代的。しかも犯人は分からず、「真相は藪の中」の語源になった様だ。
今昔物語など古典をかなり読み込んでいるばかりでなく、英語は教師までやっていたんだから、漱石先生のアドバイスの通り、ゆっくり生きて欲しかった。
Posted by ブクログ
偸盗のしゃきんの悪女っぷりが気持ちよかった。なんで男も女もちょっと悪いやつに惹かれるんだろ。
偸盗も地獄変もみんな古くささはあるけど全部現代の人間関係に通じるものがあるなぁって思った。