あらすじ
“王朝もの”の第二集。芸術と道徳の相剋・矛盾という芥川のもっとも切実な問題を、「宇治拾遺物語」中の絵師良秀をモデルに追及し、古今襴にも似た典雅な色彩と線、迫力ある筆で描いた「地獄変」は、芥川の一代表作である。ほかに、羅生門に群がる盗賊の凄惨な世界に愛のさまざまな姿を浮彫りにした「偸盗」、斬新な構想で作者の懐疑的な人生観を語る「薮の中」など6編を収録する。(解説・吉田精一)
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Posted by ブクログ
これこそまさに地獄。正真正銘の地獄。こんなエグい話をよくも書けたな、と驚くと共に溜め息が出た。ストーリーも秀逸だが、文章が凄くて、地獄変の屏風絵が私の脳内に生々しく浮かび、実際に見た事あるような気がしてきたからそら恐ろしい。そして、電車の中で読んでいた私は、ラスト数ページで涙が止まらなくなってしまった。猿の良秀にやられた。
絵師の良秀は腕は良いが変わり者。人に嫌われていたが、唯一、娘だけは愛情たっぷりに男手ひとつで育てていた。その娘はというと心優しく、愛嬌もあり大殿様の所に奉公しており、皆んなに可愛がられていた。
ある日、良秀は大殿様から地獄変の屏風を描くように仰せつかわされる。地獄を描くために弟子にあらゆる責苦を行い、その様子を書き写す毎日を過ごす中で、良秀は段々、狂気じみて来る。最後の仕上げとして、良秀は大殿様にお願いをする。炎の地獄を描きたいが、見たモノしか描けない。目の前で女性を乗せた牛車を焼いて欲しい、と…。
だんだんトチ狂ってくる良秀の変容がさし迫ってくる。芸術を追求するためには、人間の心までも無くしてしまうのか。鬼畜の成せる技。
ここまで狂ったら次はどうなる?
クライマックスは想像を大きく越えた。
火の中に飛び込んで消えた猿の良秀の方が、人の心を持っていたわけで、そこに救いがあった。
大殿様と良秀の娘との関係も謎のままだが、語り手が否定すればする程、そういう事なんだろう。でなければ、あんな所業はできない。
娘が焼かれる様子を見て、地獄の苦しみを受けていたが、一瞬、恍惚とした法悦の表情を浮かべた良秀。この場面が忘れられない。ここが芥川の非凡で天才な能力で、追求するあまりに精神の危うさを感じた。人間の心の闇を描き出した本作は、彼の最高傑作の一つだと思う。
Posted by ブクログ
「王朝もの」と言われる6編を収録した短編集。
どれも初めて読むものばかりでした。
圧倒されたのは「地獄変」です。
超有名作品なのでタイトルだけは知っていました。なぜもっと早く読んでいなかったのかと、自分を問い詰めたいです。
「見たものでないと書けない」から、上﨟を乗せた車を用意して実際に火をかけて欲しいと、大殿に頼み込む良秀。それを快諾した時点で、哀れな上臈の正体は予想できました。
車が燃え盛り、中で悶え苦しむ娘、それを見る良秀の狂気的な描写が凄まじく、圧巻でした。
至高の芸術とは狂気と紙一重なのかと考えさせられます。
最後に良秀は自死しますが、芥川の最期とも重なり、心に深く残りました。
それにしても、大殿はなかなか悪いやつですね。
大殿に「二十年来奉公する」者が語り手なので、絶妙に擁護を挟み込みます。ここがまた面白いなと感じました。なぜ、大殿が良秀の娘を焼き殺したのか。私は「恋の恨み」説を推します。
「偸盗」は、始め、人物相関や人名が頭に入ってこず、読みにくいと感じました。しかし、それらが理解出来るようになると、愛憎渦巻くドロドロしたお話で印象的でした。沙金が報いを受けてヤレヤレです。
Posted by ブクログ
本書所収『地獄変』
この作品を読んでいると、まるでサスペンス映画を観ているかのような緊張感に自分が包まれていることを感じます。天才画家良秀が弟子を鎖で縛ったりミミズクをけしかけるくらいまではまだいいのです。「また始まったよ良秀の奇行が」くらいのものです。ですがそこから段々妙な予感が私達の中に生まれ、次第に不気味に思えてきます。「まさか、良秀がやろうとしていることって・・・」とついハラハラしてしまいます。この徐々に徐々に恐怖や不安を煽っていくスタイルは、ミステリーのお手本とも言うべき実に鮮やかなストーリーテリングです。さすが芥川龍之介です。
この作品には「完璧な絵を描き上げんとする狂気の画家を、言葉の芸術家が完全に描き切るのだ」という芥川の野心すら感じさせられます。
この作品が芥川文学の中でも傑作として評価されている理由がよくわかります。
Posted by ブクログ
古文の問題集で『地獄変』の元になった作品がでてきて興味深かったから芥川の創作も読んでみた。全て古典作品を元にした短編集。
『偸盗』
ただ面白いなと思いながら読んでいたが、徐々に多くの人の愛が複雑に交わり、美しい兄弟愛の話でもあることが浮き彫りになってきて良かった。芥川の作品で一番好きかも。ただ解説によると芥川はこれを一番の悪作としているらしい 笑
『地獄変』
原作よりも主人公良秀の性格が狂っている。良秀の愛娘を彼の前で焼き殺して見せることを決めた大殿様も恐ろしいが、それを微笑みながら眺める彼も相当恐ろしい。直後に自殺をしてはいるが。
『藪の中』
数人の証言で構成されるが結局事実が分からないという興味深い話。
Posted by ブクログ
表題作「地獄変」
娘を焼き殺し画を描く、というあらすじは記憶に残っていたものの、大殿がやらせたことだったとは驚いた。こんなむごい話だったのですね。
何より地獄の烈火を前にした絵師良秀が神がかるというクライマックスの持っていきかたに感無量。さらにその良秀の墓も苔むしてしまうラストには鳥肌。
娘を殺されるという命を絶つレベルの苦悩と引き換えに成し得た屏風の完成。そこまで芸術に魂を賭けた。人知を超えた行いは、その善悪をも超えて人の心を打つのでしょう。
娘がどれほどかわいく、絵師良秀がいかに卑しいかをさんざん語ったあとでこの結末。対比が凄い。
しかし猿はかわいそうだな。
Posted by ブクログ
平安時代の画師・良秀の生涯を描いた作品。本作は、その卓越した技術と人々を惹きつける独特の魅力を持ちながらも、醜い容姿と傲慢な性格で周囲から疎まれる老画師の姿を通して、美と醜、愛と欲望、そして芸術の本質について深く掘り下げています。
良秀は一人娘に対する深い愛情を抱いており、彼女の幸せを何よりも優先していました。しかし、その娘が大殿様の目に留まり、良秀は娘を手放すことを拒みました。この決断が、後に彼と娘の運命を狂わせることになります。大殿様からの命令で「地獄変」の屏風絵を描くことになった良秀は、作品に没頭するあまり、次第に狂気に陥っていきました。彼の中で、現実と芸術の境界が曖昧になり、その過程で犠牲となる弟子の姿は、強烈な印象を残します。
この物語を読み進める中で、良秀の孤独と苦悩、そして彼の芸術に対する情熱に心を打たれました。また、彼の行動が引き起こす悲劇的な結末は、人間の業の深さを感じさせます。芥川の緻密な筆致で描かれる「地獄変」は、ただの伝記ではなく、人間の内面を探求する哲学的な作品と言えるでしょう。
本書のテーマは、芸術と狂気、そして人間の欲望が交錯する地獄のような世界を描いたことにあります。良秀の狂気は、彼の芸術性と密接に結びついており、その狂気が彼の作品に深みを与えています。この物語は、芸術家の苦悩と犠牲を描きながら、芸術の価値と意味を問いかけます。
「地獄変」を読むことで、自らの内面と向き合い、人間の持つ複雑な感情や欲望について考えさせられます。芥川龍之介の筆は、平安時代の遠い世界へと誘い、現代にも通じる普遍的なテーマを提示しています。
Posted by ブクログ
倫理を超越した執着。大殿様の、姫君に対する愛憎より、良秀の芸術心が勝ってしまう、それが分かる2人の対照的な表情の変化が実に神妙。 個人的には、小猿は良秀が娘に抱く愛情の暗喩で、小猿が業火に突入し死んだことが、良秀の人間的な部分が消滅した転換点を表しているのかなと思いました。 才能のある人って完成度高いほど、その才能自体が本体で人の部分仮の姿?って思ってしまうときがあります。。
Posted by ブクログ
『偸盗 』
沙金という美女(悪女)に太郎・次郎という兄弟が翻弄される話。太郎が次郎を助けるシーンが好き。
『地獄変』
芸術の為に女を焼き殺して欲しいと言った絵師と了承して絵師の娘を焼き殺す大殿様。
語り手は大殿様のことをめちゃくちゃ高く評価してるけど、この話を読む限りにおいていいとこあった??って思った。橋柱に寵愛していた童を立てたことがいい人エピソードのひとつとして取り上げられていた。現代の感覚ではいい人エピソードにはならないと思うけど、昔はプラス評価だったのかしら?
『竜』
嘘を言ったらホントになった話?
鼻と似てる
『藪の中』
男が死んでいた。
そして3人が男を殺したと自供している。
ものの見方はひとによって違う、というかなんというか。思い込みってあるよねって思った。
『六の宮姫君』
これはちょっと分からなかったけど、乳母の愛がいいなって思ったよ。