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『変身』のグレーゴル・ザムザは虫になっても本人のままなのか。『罪と罰』のラスコーリニコフはなぜ老婆を殺して罪悪感を覚えたのか。自己同一性や道徳の起源など人類永遠のテーマについて著名な哲学者や思想家が答えを出してきた。それは現代自然科学からみたときどれくらい正しいのか。スウェーデンの新鋭が読み解く。
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Posted by ブクログ
物理学から生物学に至るまで、今日のわれわれが自然科学と呼ぶものは、もともとは自然哲学と呼ばれる哲学のサブジャンルだった! 「どうしてなんだろう?」を深掘りすることが、人間を人間たらしめ、文明の礎となった。そして、「どうしてなんだろう?」を考えることができるのは「退屈」のおかげなのだ! 現代人が暇さ...続きを読むえあればスマホを片手にポチポチしてしまことで、一体どれほどの有益な問いが喪失してしまったことか。 タイトルからは想像つかないけれど、『なぜスーパーマンは白人なのか』の問いから、「銃・病原菌・鉄」などの書籍を基に白人規範についても論じている。 道徳を進化の観点から考察する章も面白く、進化の過程で淘汰されずに生き残った「同情」「公平感」という道徳論をパートナー選択とパートナー制御という説で展開している。 餓死しないために、各個体が協力し合う相互依存の関係で極端に利己的な個体は排除されてしまう確率が高まるので向社会的行動を促す選択圧力が働く「パートナー選択」、かといってちょっとした失態で排除していては持続可能ではないので、共通の合意に反したものを叱責したりされたりして"みんなで一緒にやり公平に分ける"「パートナー制御」が発達した。これが内集団と外集団の心理に発展し、同情本能、正義本能などの道徳観をもった個体が生き残った。わたしたちの道徳観は、こうした先天的要因と後天的要因である環境、文化が複雑に相互作用し合いつくられているという。 道徳というなんだかわからないベールに包まれていたものが露わになれば、わたしたちはそれを上手く使いこなすこともできるようになるのではないか? つまり、外敵を排除(差別)したくなったとき進化の過程で培った「外集団」の心理が働いているから排除したくなるのだけど、いまはそういう必要(外集団を攻撃して飢えから守る)のない時代なのでやめておこう、とか。
大まかな思想史として、極めて目新しいということはないが、微生物学者(しかも、スウェーデンの!)の観点で綴られるのは私としては新鮮だった。typicalな西欧・アメリカの視点とは異なる見方に触れられるのは相当面白い。入門書としては日本では異質だが、こういった著作を日本語で読めることに大いに意義がある。
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