本書を読みながら、植物の持つ潜在的な力に改めて驚いた。植物は「口がきけず動きもしない、人間たちの世界の調度品」にすぎないと思われていた。
しかし、植物は、動かないが故に長い時間をかけて進化してきた。そして、現在も植物は重要な役割を果たしている。
植物がなければ、地球上に酸素は生まれず、動物や人間が出現しなかった。そして、植物が光合成をして、動物や人間の栄養になってきた。現在のエネルギーのもとである石油、石炭、天然ガスは過去の植物の遺体が作った。それがなければ、産業革命も起こらなかった。
植物は、半分以上動物に食われても、再生する。植物の細胞には全能性がある。そうやって、私は組織培養の仕事をしてきた。アンパンマンは顔を食われても、ジャムおじさんが作ったあんパンに「いのちの星」が落ちて誕生した存在。そのため、新しい顔を焼いて交換することで、その力が再び満たされ、復活できる。しかし、人間は顔をクマに食べられたら、復活しません。最近は山中伸弥教授によるIPs細胞によって、必要な部分を再生できるようになった。
本書では、植物の能力を詳しく論じて、植物には知性があるのだと主張だが、確かに植物には、知性があるように感じる。著者は、人間の脳や神経系に基づく知性とは異なる、より広範な概念として知性を提起する。
植物には脳はないが、知性は存在する。植物には動物のような神経細胞の集合体である脳や神経系は存在しない。しかし、近年の研究により、植物は光、温度、水分、重力、化学物質などのさまざまな環境刺激を感知し、それに適応する「知性」を有していることが明らかになったと著者は指摘する。
アリストテレスは、生物の生命を説明するために、魂(プシュケー)の三つの階層を提唱した。
第一に、栄養魂で、成長、栄養摂取、生殖などの生命活動の最も基本的な機能を担っている。第二に、感覚魂(Sensitive Soul)で、感覚、運動、欲望といった動物が持つ能力を指す。第三に、理性魂(Rational Soul)で、思考や推論など、人間のみが持つ能力である。
アリストテレスの考えによれば、植物は「栄養魂」のみを持つ存在であった。彼は植物を、栄養摂取と生殖という最も単純な生命機能しか持たないものと位置づけ、動物や人間とは異なり、感覚や運動、そして理性を持たないと考えた。
彼の植物に関する研究は、弟子であるテオプラストスに引き継がれ、「植物学の祖」としてその成果をまとめた。
プラトンは、植物には成長や栄養摂取を司る最も低次の「欲望魂」しかなく、理性や感覚を持たないと考えた。植物は根を地に深く張り、そこから栄養を吸収して生きている。そのため、プラトンは「植物は逆立ちした人間である」という比喩的な表現を言ったという。この説は、いろいろありデモクリトスがいったと本書はいう。
ダーウィンは、晩年の著作『植物の運動力』(1880年)において、植物の運動に関する詳細な考えを述べた。この本は、植物の成長や光・重力への反応、つる植物の巻きつきなど、多様な運動についての実験と観察の集大成である。
特に、以下の点に注目した。 根の先端(幼根)の役割である。 ダーウィンは、根の先端部が刺激を感知し、その情報を体内に伝えることで、成長の方向を決めていると指摘する。この部分を「下等動物の脳、あるいは分散した脳」と表現した。 また、刺激感知と情報伝達の仕組みも重要である。 たとえば、光を感知した根の先端から情報が伝わり、茎全体が光の方向に曲がる屈光性現象を実験で示した。 これは、後の植物ホルモン(オーキシン)の発見に通じる重要な洞察だった。ダーウィンは、「植物に分散した脳」があると指摘した初めての人間だった。
さて、植物の能力について
視覚。植物には目がないが、光の感受性があり、光に向かって成長する。
根は反対に、光から逃げようとする。光の屈光性がある。植物には、フィトクロム、クリプトクロム、そしてフォトトロピンという光受容体がある。落葉性のある木は、休眠、冬眠する。葉にある光受容体も一緒に落ちて、目を閉じる。
臭覚。トマトは、害虫に食べられると、 VOCs(揮発性有機化合物)を出す。
VOCsの成分は、ヘキサナール、ヘキセナール、ヘキサノールなど、テルペン類のゲラニオール、リナロール、β-イオノンなど、メチルサリチル酸、メチルジャスモン酸など。それが、害虫の天敵を呼び込み、植物間のコミュニケーションとなる。
味覚。根は土壌の中の必要な栄養分を探し当て、それを食べる。必要なカリウム、リンや微量成分を探し当てる。その時、美味しいと感じている。
本書では、食虫植物について考察する。食虫植物は、全世界で約600種類以上が確認されており、園芸上の品種や人工交配種を含めると2,000種類以上にのぼる。1. 落とし穴式 (ピッチャー式)ウツボカズラ属、サラセニア属。2. 粘着式。モウセンゴケ属: 世界中に約200種以上が分布し、日本にも自生。ムシトリスミレ属。3. 挟み込み式。ハエトリグサ属。ムジナモ属。4. 吸い込み式。タヌキモ属など。
虫や小さな動物を食べてしまう植物をどう考えたのかの歴史を語る。
1740年アメリカのノースカロライナでハエトリソウを見つけた農場主が、イギリス王立協会会員に手紙と実物を送り、それを受けた会員が植物学者に送り、さらにカールフォンリンネに送った。リンネは、触覚刺激の反応で、自発的ではないと考えた。
1875年にダーウィンは、昆虫を食べる植物の『食虫植物』の著作を発表。ダーウィンは、「ほんとうに私はモウセンゴケは姿を変えた動物ではないかと思った」と述べている。確かに、捕まえた虫などをタンパク質分解酵素で消化して、栄養をとっていたのだ。ダーウィンの観察眼は卓越している。モウセンゴケに硝酸アンモニウムは吸収するが硫酸アンモニウムは吸わないなどの実験をしている。
触覚。植物には、表皮細胞に物理刺激チャンネルがある。それは、オジギソウで明らかで、生物学のラマルクが、オジギソウを馬車に乗せて走り回ったら、最初は閉じていたが、慣れると閉じるのをやめた。余分なエネルギーを使わないのだ。つる植物は巻きつく相手をきちんと触って巻きつき、光を浴びる。根の根端は、石にぶつかったら迂回する。これは明らかに触覚機能である。
聴覚。ブドウに音楽を聴かせると、成熟が早いうえに、味、色、ポリフェノールの含有量の点で優れたブドウを実らせた。ブドウの木全体で聴き、土に伝わる音も根で聴く。とりわけ、低周波が、発芽、成長、根の伸長にいい。2012年にイタリアで根が音を出していることが確認された。
以上の人間の感覚以外に、土の湿り気や近くにある水流なども感知できる。
それは、湿度感覚という。さらに、重力感覚、電磁場感覚、化学物質感覚、気圧感覚、物理的刺激感覚、振動感覚、電気信号感覚、光の波長感覚、毒性物質感覚、アレロパシー検知感覚などがある。
これらの感覚は、人間のように独立した器官で感知されるわけではなく、細胞レベルでの高度な反応によって成り立っている。著者は、植物を単なる受動的な存在ではなく、積極的に環境と相互作用し、適応する「知性」を持った生命システムとして捉えている。
植物は内部コミュニケーションをしている。気孔は、CO2を取るために開いていないといけないが、水分を蒸散させないために閉じる。その気孔の開閉をバランスよく判断する。また、森の樹冠が重ならないようにコミュニケーションをとっている。根圏も同じような仕組みがあり、根と菌根菌は話し合っている。相利共生の関係にある。
また、受粉するために、虫に蜜を与えて、花粉を身体につけさせる。地球上で一番大きな花を咲かせるショクダイオオコンニャクは、クロバエの好きな腐敗臭を出す。
植物は動かない。脳がない。感覚がないというが、以上を考えれば、十分な知性を持っている。問題は、この植物の知性に基づいてどうコミュニケーションをするかだ。 VOCsを測定することで、害虫情報をあつめることができそうだ。やはり、植物が発する微弱な電圧変化(活動電位)をリアルタイムで測定して、翻訳するのが先かなぁ。