山中青田遊園地。この町に昔からあるアミューズメントパークだ。全国的に知られた大きな遊園地のような最新の乗り物があるわけではないけれど、町の人たちには心和む憩いの施設になっている。人々は親しみをこめ、この施設を「遊園地ぐるぐるめ」と呼ぶ。
青山美智子さんと田中達也さんが贈るアートファンタジー。
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開園前の遊園地がキラキラして見える。今日は僕の隣に結乃ちゃんがいるからだ。他愛ない会話に柔らかく微笑んでくれる結乃ちゃんを見て、僕の心臓がドクンと鳴る。
勇気を出して誘った初めてのデート。快くOKしてくれたけれど、彼女は本当のところ僕のことをどう思っているのだろう。そんなことを考えているうち、開園時間になった。
重そうなゲートが開き、明るい異世界に一番乗りで足を踏み入れたときだった。
ドーン、ドーン、ドーン!!
太鼓が鳴り響く。思わず音のする方に目をやると……。 ( 第1話「メリーゴーランド」) ※全8話。
* * * * *
本作は、
「田中達矢さんの造形作品を見て青山美智子さんが物語を創作し、その物語を読んで田中達矢さんがさらに作品を創作した」
というコラボアートだそうです。
青山さんと田中さん。文章と造形の違いはあれ、どちらも夢のある作品をお作りになるステキな作家さんです。
そのおふたりが互いの作品から着想を得ることで、優しく楽しいアートファンタジーの世界を見せてくださいました。
物語の舞台は、とある町にある山中青田遊園地です。
ただ遊園地と言っても、東京DLや USJのように派手な演出で知られる大型アミューズメントパークではなく、昔ながらの (でもよく手入れされた) 乗り物たちが迎えてくれるこじんまりした施設です。
刺激的ではないけれど、ゆったりした温かい時間が過ごせる憩いの場としての遊園地。そんな山中青田遊園地は、「ぐるぐるめ」という愛称で町の人々から愛されているのでした。
物語は、遊園地の来場客だけでなくスタッフにもスポットが当てられて進みます。
各話の主人公は、それぞれ胸のうちに悩みや不安を抱えているのですが、それが園内でのちょっとした出来事や心の触れ合いで希望へと変わっていく、その過程が温かく優しいタッチで細やかに描かれます。まさに青山さんらしい展開の作品です。
各話ともいいお話で甲乙つけがたいのですが、個人的に印象深かったのは第7話「プール」でした。
この第7話は、主人公が来場客からスタッフへと変わります。スポットが当たるのは、園内でパフォーマンスをしてお客さんを楽しませるピエロさんです。
第6話までの主人公たちの気持ちが前向きになるきっかけを作ったのがこのピエロさんで、物語の中ではとても重要な役割を担っています ( 詳細は控えますが『お探しものは図書室まで』の小町さんに似ています ) 。
てっきり救世主的な存在だと思っていたピエロさんの思いが語られるだけに、この第7話は胸にグッとくるものがありました。
あとは、プロローグとエピローグ代わりの第1話と第8話を飾る恋物語の主役、健人くんと結乃さんの初々しさが、とても微笑ましくて印象に残りました。
ところで、この「ぐるぐるめ」がある土地の名「山中青田」。お気づきでしょうが、青山さんと田中さんのお名前を組み合わせたものなんですね。もうこれだけで、夢や希望の溢れる場所だとわかります。
青山さんのこんなちょっとした茶目っ気も、とても好もしくて、楽しい気持ちで物語の中に入っていけました。