★5 保護や支援が必要な人々の現実と不安… 人間の弱さと脆さを丁寧に描いたミステリー #哀惜
イギリスの海岸で発生した殺人事件。主人公である刑事マシューと部下たちが、街に住む人々の環境、仕事、関係性から事件解決に導く北欧ミステリー。
事件の背後関係と関わる人間たちが何重にも厚く絡み合い、ずっしりと
...続きを読む重みのある作品になっています。
人生勉強のためにも体験しておくべき作品なので、興味ある方は是非お時間をとって読んでみてほしいです。
■きっと読みたくなるレビュー
〇事件の背景
本作においては、どの国、どの地域でも社会課題になっているテーマを描いています。
・学習障害のある人
・過去の人生において失敗をした人
・彼らを支援したり、支えたりする周囲の人々
セリフや行動が丁寧に書かれていて、彼女たちの生活、不安、純粋な想いがやたらリアルに伝わってくるんです。悲劇に巻き込まれてしまった彼らの運命を読んでいると、胸が詰まって何とも言えなくなってきますね…
〇警察も人間である
圧倒的に推したいのは、警察官の同僚ジェン。
離婚後シングルで子育てをしつつも、重責な殺人事件の現場で解決のために奔走を続ける。いつも叫びたい感情で爆発しそうなのに、決して暴言を吐いたり、人を傷つけたりはせず、じっと目の前の任務をこなしていく。しかも正義や権力を振りかざしたりもせず、公務員の業務を当たり前にこなしているだけ。人ひとりが生きるということがいかに難しいかが伝わってきます。
そしてなんといっても主人公のマシュー。
これぞ北欧のミステリーを地でいくキャラクター。
地味に、ホントに地味にヒタヒタと捜査を進めていく。この粘り強さと実直さがイイんですよ。
しかも家族の問題や人間的な弱さも垣間見えて、魅力にすっかり引き込まれてしまいました。特に終盤の事件解決に向けて雄々しく立ち向かっていく姿は、めっちゃカッコイイです。
〇事件の真相
小さな世界における社会性や価値観の恐ろしさ。
驚きと悲しさがあふれ出て、読み進めたいと思いながらも、むしろ受け入れたくない真相でした。
■きっと共感できる書評
本書ほど読んでいて悔しくなる作品はない。
弱い立場とされる保護や支援が必要な人間が、こんなにも強くたくましく生きているのに、本来社会貢献や皆を幸せにできるはずの人間が、なぜこんなに弱く情けないのか。
はたして現代の日本社会はどうだろうか…
いまネットを騒がせているやるせない事件がありますが、この事件も本質としては同じです。
起こってしまった問題について他人事としてスルーしたり、マスコミ報道や周囲の意見をそのまま信じるのではなく、ひとりひとりが自分の責任をもって答えを出していく必要があるのでしょうね。懸命に生きる人々を支援、応援できる人間になりたいものです。