## 感想
「勤勉と節倹の徳」
この本をまとめるなら、この言葉になる。
印刷、消防、大学設立、病院建設など、公のために骨を折り、果てはアメリカ独立運動の立役者として、後世に大きな影響を与えたベンジャミン・フランクリン。
「私はいままでの生を初めからそのまま返すことに少しも異存はない。」
そう言い切るフランクリンの人生における成功の秘訣」は、『勤勉と節倹による徳』だと言う。
真面目に働き、無駄なことに時間とお金を使わない。
そうすることで信用を得られ、成功に繋がっていく。
こうした考え方は、以前読んだ渋沢栄一の『論語と算盤』に近いものがあると感じた。
私たちが生きる現代は、フランクリンが生きた時代に比べて、はるかに多くの情報が世界中を飛び交い、人類は発展したように思う。
しかし一方で、人類が歩んできたために生まれた問題が山積されている。
自分だけが儲かれば良いというのではいけない。
人が生まれるのは長い歴史の中で先祖がその時々で懸命に生きてバトンを繋いできたからであって、そのバトンは次世代に繋いでいかなければならない。
人が生きるのは、それぞれができる何かしらの形で、世界に対して良いものを残して、次に繋ぐことだと、私は思う。
私は今、勤めてきた会社の中で新事業を立ち上げる立場にある。
これまでにお世話になった方々に報い、そして次世代に良い形でバトンを渡せるように、自分の仕事の時間を使いたいと考え、社内で手を挙げ、自ら望んでその立場に身を置いた。
あくまで会社に雇われている身ではあるが、だからこそできる時間とお金の使い方がある。
私の場合はそれで世界に貢献するべきだと考えている。
本書にこんな言葉がある。
「時間をむだ使いするな。時間こそ、人生を形作る材料なのだから」
これからはより一層、自分の時間を世界を少しだけ良くするために使いたいと気の引き締まる一冊になった。
## メモ
私はこの幸運な生涯を振返ってみて、時に次のようなことが言いたくなる。「もしもお前の好きなようにしてよいと言われたならば、私はいままでの生を初めからそのまま返すことに少しも異存はない。ただし、著述家が初版の間違いを再版で訂正するあの便宜だけは与えてほしいが」そうした便宜が与えられれば、ただ間違いを訂正するだけでなく、生の玉命の悪い出来事を工合の良いものにかえることが、あるいはできるしょうからだ。(p8)
同じ町にいま一人ジョン・コリンズという本好きの青年がいて、私はその男と仲よしになった。私たちは時々議論をしたが、二人とも議論が大好きで、互に相手を言い負かしたいと心から願ったものだ。ついでながら言うが、この議論好きという性質はともすると非常に悪い癖になりやすいもので、この性質を実地に生かすとなると、どうしても人の言うことに反対せねばならず、そのためにしばしばきわめて人付きの悪い人間になり、こうして談話を不快なものにしたり、ぶちこわしたりしてしまうほかに、あるいは友情がえられるかも知れない場合にも不愉快な気持を起させ、恐らく敵意をさえ起させるのである。私にこうした議論好きの癖がついたのは、父が持っていた宗教上の論争の書を読んだからである。その後私の見たところでは、思慮ある人物は選にこの悪癖に陥らない。(p24)
兄や他の連中が食事のために印刷所を出て行くと、私はひとり後に残り、大急ぎで軽い食事(それはたいていビスケット一つかパン一切れと、一つまみの乾葡萄か菓子屋から買って来るパイーつ、それに水一杯ぐらいのものであった)をすませ、みなが帰って来るまでの時間を勉強にあてることができたからだが、飲食を節するとたいてい頭がはっきりして理解が早くなるもので、そのため私の勉強は大いに進んだ。(p27)
ただ謙遜な遠慮がちな言葉で自分の考えを述べる習慣だけはこれを残し、異論が起りそうに思えることを言い出す時には、「きっと」とか、「疑いもなく」とか、その他意見に断定的な調子を与える言葉は一切使わぬようにし、そのかわりに、「私はこうこうではないかと思う」とか、「私にはこう思われる」とか、「これこれの理由でこう思う、ああ思う」とか、「多分そうでしょう」とか、「私が間違っていなければこうでしょう」とか言うようにしたが、この習慣は、自分が計画を立ててそれを推し進めて行くにあたり、自分の考えを十分に人に呑みこませてその賛成をうる必要があった場合に少からず役に立ったように思う。いったい談話の主要な目的は、教えたり教えられたり、人を喜ばせたり説得したりすることにあるのだから、ほとんどきまって人を不快にさせ、反感を惹き起し、言葉というものがわれわれに与えられた目的、つまり知識なり楽しみなりを与えたり受けたりすることを片端から駄目にしてしまうような、押しの強い高飛車な言い方をして、せっかくの善を為す力を減らしてしまうことがないよう、私は思慮に富む善意の人々に望みたい。(p29)
理性のある動物、人間とは、まことに都合のいいものである。したいと思うことなら、何にだって理由を見つけることも、理窟をつけることもできるのだから。(p58)
彼は相変らず飲みつづけ、毎土曜の夜には、この気違い水のために、せっかく稼いだ給料の中から四、五シリングも支払わないではいられなかった。こんな費用は私にはまったく不要だったわけである。気の毒にもこうして職工たちは、いつまでたってもうだつが上らないのである。(p75)
人はみな世の中の舞台に登場するにって、それぞれ適当な時期を待つべきだということです。人の気持はもっぱら目前の一瞬間だけに向けられているため、私たちは最初の一瞬間のあとになお多くの瞬間がつづくこと、したがって人は生涯のあらゆる瞬間に合うように行動しなければならぬことを忘れがちです。(p124)
何かある計画をなしとげるのに周囲の人々の助力を必要とする場合、有益ではあるが、自分たちより
ほんのわずかでも有名になりそうだと人が考えやすい計画であったら、自分がその発起人だという風に話を持ち出しては、事はうまく運ばない。そこで私はできるだけ自分を表面に出さないようにして、この計画は数人の友人が考えたことで、自分は頼まれて皆から読書家と思われている人のところを話して廻っているのだと説明した。この方法をとってからというもの、仕事は一段と円滑に運んだ。その後もこのような場合にはいつもこの手を使ったものだが、大概うまく行っているところから言って、私は心からこの方法を勧めることができる。現在名誉心を満足させることを少し我慢すれば、後で借いは十分に来るのである。誰の功績か、しばらくはっきりしないような場合には、君よりも名誉心の強い男がそれをよいことにして自分の手だと主張することもあるだろうが、そういうことがあっても、やがては君を嫉んでいる者ですら、偽りの名誉をはぎとって、正常な持主にそれを返そうと公正な態度をとりたい気持になるものである。(p131)
第一 節制
飽くほど食うなかれ。酔うまで飲むなかれ。
第二 沈黙
自他に益なきことを語るなかれ。駄弁を弄するなかれ。
第三 規律
物はすべて所を定めて置くべし。仕事はすべて時を定めてなすべし。
第四 決断
なすべきことをなさんと決心すべし。決心したることは必ず実行すべし。
第五 節約
自他に益なきことに金銭を費すなかれ。すなわち、浪費するなかれ。
第六 勤勉
時間を空費するなかれ。つねに何か益あることに従うべし。無用の行いはすべて断つべし。
第七 誠実
割りを用いて人を害するなかれ。心事は無邪気に公正に保つべし。口に出だすこともまた然るべし。
第八 正義
他人の利益を傷つけ、あるいは与うべきを与えずして人に損害を及ぼすべからず。
第九 中庸
極端を避くべし。たとえ不法を受け、貸りに値すと思うとも、激怒を加しむべし。
第十 清潔
身体、衣服、住居に不潔を黙認すべからず。
第十一 平静
小事、日常茶飯事、または避けがたき出来事に平静を失うなかれ。
第十二 純潔
性交はもっぱら健康ないし子孫のためにのみ行い、これに貼りて頭脳を鈍らせ、身体を弱め、または自他の平安ないし借用を傷つけるがごときことあるべからず。
第十三 謙譲
ィエスおよびソクラテスに見習うべし。(p138)
実際われわれが生れ持った感情の中でも自負心ほど抑えがたいものはあるまい。どんなに包み隠そうが、それと戦おうが、殴り倒し、息の根をとめ、ぐいぐい抑えつけようが、依然として生きつづけていて、時々頭をもたげ、姿を現わすのである。恐らくこの物語の中にもしばしばその自負心が姿を見せることであろう。なぜかと言えば、私は完全にこれに打勝ったと思うことができるとしても、恐らく自分の謙護を自負することがあるだろうから。(p151)
またこの企ての規模が、一見ばか大きいからと言って、私は少しも圧倒されはしなかった。なぜかと言って、相当の才能のある人物ならば、最初によい計画を立てて、自分の注意を脇にそらすような娯楽や他の事業などには一切眼もくれず、その計画の選行を確一の研究とも仕事ともするかぎり、かならずや人類に偉大な変化を与え、大事業を炭親することができると私はつねづね考えているのだから。(p155)
さらになく、しばらくしてから次のような方法を用いることにした。彼の蔵書に、ある非常に珍らしい本があると聞いたので、私は手紙を書き、その本を読んでみたいのだが、四、五日拝借させていただけまいかと頼んでやった。するとすぐ彼は本を送ってよこした。私は一週間ほどして、その厚情に感謝する品の手紙を添えて返却した。その後州会で会ったところ、それまでにないことであったが、向うから話しかけてくれた。しかも非常に感な態度であった。そしてその後あらゆる場合に私に好意を示してくれたので、私たちは仲のよい友達になり、二人の交わりは彼が死ぬまでつづいた。私が覚えている諺に、「一度面倒を見てくれた人は進んでまた面倒を見てくれる。こっちが恩を施した相手はそうはいかない」という古いのがあるが、これはこの謎が本当だということを示す一例である。これを見ても分るように、他人の敬意のある行動を懐んでこれに返報し、敵対行為をつづけるよりも、考え深くそれを取りのけるようにするほうがずっと得なのである。(p165)
トマス知事はこの中で説明されているストーヴの構造がひどく気に入って、数年の期間中専売特許権を与えようと言ってきた。しかし、私はこういう場合につねづね自分には重要と思われる一つの主義があったので、これをことわった。つまり、われわれは他人の発明から多大の利益を受けているのだから、自分が何か発明した場合にも、そのため人の役に立つのを喜ぶべきで、それを決して惜しむことがあってはならないという考えである。(p188)
人間は何かやっている時が一番満足しているものである。というのは、仕事をした日には彼らは素直で快活で、昼間よく働いたと思うものだから、晩は楽しく過すのであったが、仕事が休みの日にはとかく巡らいがちで喧嘩っぽく、豚肉やパンや何かに文句をつけ、終日不機嫌でいるのだった。それで私はある船長のことを思い出したのである。彼は部下の者にたえず仕事をあてがっておくことにしていた。ある時航海士がやってきて、仕事はすっかりすんで、もう何もさせることがないと告げると、彼は言ったものである。「では錨を磨かせるがいい」(p235)
「人生を大切に思うと言われるのか。それならば、時間をむだ使いなさらぬがよろしい。時間こそ、人生を形作る材料なのだから」(p276)