大学を中退、映画学校を卒業するも映画の道には進まず出版業界へ、そして逃げるように退社、子供を作ってしまったので警備員へ。という著者が港区の高層ビルで26歳から4年間働いた記録。
最近人生後半の生き方というのを結構考えてしまうようになり、職場の門のところにいる警備の人とか本当に憧れてしまうようにな
...続きを読むった。なんか本当残業だらけで寝ても覚めても落ち着かない今の仕事はやりがいがあるところもあるから続けられているけど、このまま定年まで働けるとは全然思えない、というかこんな働き方は続けられない。うまく働き方を変えればいいんだろうけど、ならいっそ全然違う仕事もやってみたい。別にそんなに収入とかは気にしないので、おれもゆくゆく施設警備とかやってみたいなあとか正直思ってしまう。ので読んでみた。警備員というのはやっぱり「頭脳労働」であるということが分かった。判断を迫られる職業って難しいよな、と思う。おれも時々今の仕事の一部で、超簡単な交通整理ぽいことをするけど、歩行者と車や自転車のタイミングが重なる時にどっちをどうするのか、車を止め続けて申し訳ない気持ちとかを毎回感じてしまう。ほんの30分くらいやる仕事が年数回あるけど、結構難しいしおれ下手だなと思う。道路で片交とかやる人って、おれああいうの絶対向いてないなあと思う。施設警備も何かあったら、というのが難しそう。(でもこれはどんな仕事でもそうか。)けど何もなさすぎるのも逆に辛いかもな、と思ったり。
本の内容は半分以上は警備員の裏話、ということで、監視カメラがあるだけに、エレベーター内で変な行動する人とか、はたまたオフィスビルの情事とかが、本当にあるらしい。そして誰もいない年末年始の仕事の様子とか。読みやすくて面白かった。
内容は面白いのだけど、著者の生き方というか言動にはひいてしまう。もしかしたらこの本によって「警備員=底辺」という職業差別がかえって助長されてしまうんじゃないか、結局著者のだいぶ強固なこの偏見を、逆にこの本の売りにするような感じがあって、モヤモヤしてしまう。警備員を辞めて転職した先で「『お前が警備員だったことなど、どうでもいい』という『指導』には、もっとも心が引き裂かれた。自分のみならず、世界中の警備員の仲間たちが侮辱されたように感じた。」(p.215)の部分は本当に謎だ。自分の過去に拘らずに、くらいの意味にしかおれには読めない。前職と比較したり、これまでの経歴を言い訳にせずに今の仕事を今のやり方でやれ、という意味なんじゃないか、としか思えなかったので、なぜ急に著者が他の色々いる世界中の警備員全体を代表することになり(言ってもたったの4年、1つの職場だけの経験だったらその職業の人全員を代表するまでにはいかないよなと思う。それにオーストラリアの交通整理をしている警備員なんてすんごい高給だって話を聞いたこともあるし。)、そしてその世界中の警備員全体が侮辱されたと感じるのか、意味が分からない。もしおれがこの上司でこの発言をしたとしても警備員を侮辱、なんて発想すらおれの頭にはない。著者の変なコンプレックスによる過剰反応としか思えなかった。そして、というか、いくら精神的に参っているからと言って、警備中に酒飲むとか子供いるのに他の女に手を出すとか、他の警備員の不正とか、そんなの本で暴露されても…。もちろん警備会社もオフィスビルも特定されないように書いているんだろうけど、この時代に絶対に特定されない、なんてないんじゃないかなあと思う。そんな怖い橋を渡ってまでウケを狙うことではないよなあ。それに著者はおれと同じ歳なのだけど、いくらなんでもそれはヘタレ過ぎるんじゃないのか、と思ってしまって、共感できない部分がたくさん。
…というこの著者の生き方や考え方にどうしてもついていけなかったし笑えない。その部分をスルーできれば割と読みやすく面白い本だった。(23/08/19)