時間が止まった死体が見つかる… タイムトラベルが実現した世界で何が起こったか #パラドクス・ホテル
■あらすじ
時間旅行ができる施設と併設されたパラドクス・ホテル、そのホテルでジャンは女性警備員として働いていた。
彼女はこれまで時間犯罪取締局で働いていたせいで、タイムトラベラー特有の病気にかかっていた。未来や過去を幻視してしまうという病気であったが、その症状がきっかけで、時間が止まった死体や自分自身が銃殺される場面を目撃してしまう。
事件を解決するために調査を開始するジャンだったが、ホテル内では恐竜の子どもが逃げ出したり、時計の針がおかしくなるなど、様々な異常事態が発生してしまい…
■きっと読みたくなるレビュー
近未来アメリカ、タイムトラベルが実現している世界での物語です。時間旅行ができるなんてまるで夢のようですが、行き過ぎたテクノロジーにはしっぺ返しがつきもの。タイムトラベルを続けると、副作用で幻が見えるようになってしまうという。
これがリアリティがあるんですよ、ステージ1は薬で進行を抑えられるが、ステージ2になると症状は抑えられない、そしてステージ3になると… こわっ なんか原子力発電所ができた当時とか、こんな感じだったのかもね。
もちろんタイムトラベルを運営する会社がある、しかし必ずしも経営が順調とも限らない。さらにタイムトラベルができるとなれば、悪いことを考える奴なんてたくさんいるわけですよ。
それを防ぐために国は時間犯罪取締局を設置するのですが、いろんな思惑を巡らす政治家もいる。技術は現実離れしているのですが、そこから生み出される問題は超現実的なところが興味深かったです。
物語はホテル警備員のジャン(時間離脱症 ステージ1)が、時間が止まった死体を幻視するところから動き始める。時間が止まった死体…? 何ソレって感じですが、これがその症状なんですよ。怒涛のSF&ミステリーが始まります。
ただゴリゴリの特殊設定謎解きってわけではありません。不思議な事件に巻き込まれながら、このワールドの理屈が少しずつ紐解かれていくという感じです。また色んな時代にタイムトラベル行くんだろうなーと思いきや、実はほとんど行きません。タイムトラベル大冒険ではなく、ホテルで起きた事件に対し、ひたすら現場で解決にいそしむのです。
そう、本作の読みどころは、派手さではなく人間の心の寄り処の部分なんです。主人公ジャンとホテルの関係者、時間犯罪取締局、サミット参加者たちのやり取りに温かみがないんですよ。むしろAIドローンとの会話がもっとも人間性がある会話なんですよね。たとえ夢のテクノロジーがあっても人間の心はくすんで見えます。
そして亡き恋人のメーナとのコミュニケーションが切なすぎるんよ… SFの世界ほど、なぜこんなにも愛が美しく映えるでしょうか。
■ぜっさん推しポイント
いつの時代も人の欲望は限りがありません。力がある者はさらに力を蓄え、弱い者から搾取する構造は変わらないということが良くわかる物語でした。
そして自分の時間もいつか必ず終わるんです。残された時間、何を大切に生きていくべきなのか… お金なのか、権力なのか、時間なのか、愛情なのか、よくよく考えみようと思いました。