講師を担当する研修プログラムの資料用に読んだ本。本書のタイトルは「これからのリーダーシップ 基本・最新理論から実践事例まで」。本書の中身を表しているのは副題の方です。
様々なリーダーシップ研究、理論のそれぞれの特徴や研究の発展の流れを一気に掴むことができます。
本書で紹介、解説されているリーダーシップ理論を列挙すると、
・特性理論
・行動理論
・状況適合理論
・交換理論
・変革型リーダーシップ理論
・リーダーシップ開発論
・シェアド・リーダーシップ
・コレクティブ・ジーニアス
・DACフレームワーク
・サーバント・リーダーシップ
・オーセンティックリーダーシップ
・インフォーマルリーダーシップ
など。特性理論の中にも代表的な研究者の論文や主張が紹介されており、網羅性はそれなりに高いように感じます。基本を一気にさらうという意味では十分な本です。
また、単に理論を羅列するだけでなく、なぜ特性理論から行動理論へ、そして状況適合理論へという形で研究の視点が移り変わっていったのかについて当時の社会状況を踏まえながら解説しているためストーリーとして理解しやすい工夫がなされている点も高評価です。
(例えば特性理論から行動理論への移り変わりは、共通の特性が見いだせないという特性理論自体の挫折に加えて1940年代から1960年代にかけての世界的な戦後復興期にあって産業界は非常に多くのリーダーを必要としており、特性を兼ね備えた人材を探し出すだけでは足りず、望ましい行動を明らかにすることで需要を満たしていく必要があった、など)
また、実践編となる第3章ではリーダーシップ開発・リーダーシップ教育についての研究成果が紹介されています。「知識・スキル型」と「経験学習型」のそれぞれの特徴を解説しつつ主には「経験学習型」アプローチのプログラム設計や評価についてわかりやすくまとまっており、自身の研修プログラムにリーダーシップ論を取り入れたかった私としては一番参考になる部分でした。評価の観点では受講者本人の主体的評価が中心であり、第三者評価の方法論についてはまだまだ研究途上であることも分かったが、リーダーシップは人それぞれ環境それぞれであることについての共通認識を丁寧に作りながら進めることが肝要なのだと感じます。
最後に事例紹介となる第4章は少し物足りなさを感じました。1〜3章のどの理論や視点がどのように活かされているかについて簡単でも良いので解説が付け加えられていると良かったのですが、その点については「振り返りながら読んでみましょう」と読者に丸投げでした。教育的な観点からの丸投げというよりは事例が取ってつけたものに感じてしまい(それぞれの事例はそれなりに面白いのですが)少しもったいないと感じる部分でした。
それでも全体的には十分に良書です。リーダーシップ論について概観したい方にオススメできるのはもちろんのこと、自組織でリーダーシップ教育・開発やリーダー育成に関わる立場にある方にもオススメできます。