光の幕を...の続きとなる今作はてっきり涙海が主役となって、ブランコ乗りを続けながら事件の犯人を追って行くと思いきや、彼女たちの大先輩である「初代」達が主役でサーカス誕生の物語だった。
カジノ建設の責任者だった父を不審な事故で亡くした少女マリナ。やがて初代ブランコ乗り——サン=テグジュペルになる少女が涙海、愛涙に代わり主役を務める。
彼女がサーカスに入ることを決めた理由は当然、父の死の真相を知るため、そして黒幕を糾弾するためだ。
「乞食の涙だと思った。」サーカスに入る決断をする前の自分の泣き顔を見たマリナの考えが、胸に刺さった。唯一の肉親を謎の事故で失った哀れな少女。
見れば哀れに感じるし、何か手助けもしたくなる。その手助けが自分の利益にできるなら積極的に介入するだろう。でも他に用事があれば無視するし、自分に不利益を感じれば縋られても払い除ける。まさに彼女の涙は、それをみる人間の心持ち一つでどうにでも扱われる乞食の涙だった。
だから彼女はサーカスに入団した。唯のサーカスではない。経済復興の旗印の元、建設されたカジノエリア。そのシンボルとなるサーカス団に。自分の涙を価値あるモノに変えるために。
ところでいきなり結論を言ってしまうと、謎は解決しない。命を燃やし、自分の全てをブランコ乗りに捧げ、サーカス団で伝説の存在になっても彼女が父の死の真相に辿り着くことはなかった。そもそも提示された謎が解かれない、というのはこれが初めてではなく、前作の「光の...」でも思わせぶりに提示された謎やサーカス団に纏わりつく陰謀を、特に解決しないまま終わってしまった。
だからこう思った人もいたかもしれない。
「え? 涙海の事故は結局事故で終わり? チャペックが匂わせた団員退団トトカルチョの黒幕は?カジノ建設中に、何かとんでもない事が起きてマリナのお父さんは口封じで殺されたんじゃないの?何もわからないまま終わるの?そんなのは嫌だ!そもそも帯に青春ミステリーって書いてるじゃないか!」
僕もそう思った。ちょっとは。でもすぐこう思い直した。
事件、陰謀、闇。
そんなのはあって当然なんだ。だって「ここ」は欲望に塗れたカジノエリアの中にあってさらに、人々の欲望を一身に集める少女サーカス団なんだから。
その欲望は利権やおっさんの野卑な視線だけに止まらず、サーカスの演技を見た純粋な感動、この感動を永遠にしたいという願い、そう言ったものも含んでいる。
そんな重圧にサーカスの少女達が耐えていられるのは、彼女たちこそが誰にも負けない欲望を持っていたからだと思う。
そんな彼女たちがサーカスの中で何と出会い、何を選び、何と別れたか。そしてその結果未来に進めたのか、少なくとも先に進めたと、読み終えた僕たちはそう思えたのか。それだけわかれば十分だったのだと思う。
宙に舞ったブランコ乗りの指先は、確かに何かを掴み、対岸に渡った。
サーカスの観客にわかるのはそれで十分、そういうことじゃないのだろうか。