富裕層向けに資産運用アドバイザーをしている著者が、ニセコについて書いた本。ニセコの開発について歴史的に紐解きつつ現在に至る経緯を説明している。著者は、マーケッティングやポジショニングの知識も豊富で、トレードオフの重要性についても意見を述べている。その知識・経験から、ニセコは今までどおり外国人富裕層にターゲットを絞ったアプローチをすべきと主張している。著者の主張は、説得力があり同意できる。ニセコに特化した研究ではあるが、谷頭和希著『ニセコ化するニッポン』よりもはるかに考察は深く、勉強になった。
「ニセコには「外国人による外国人のための楽園」ができている。5つ星ホテルのパークハイアットは、日本には東京、京都、ニセコにしかない。他の5つ星ホテルではリッツ・カールトンが開業し、アマンの建設も進行中だ」p3
「ニセコは、他の国内リゾートとは違い、「海外観光客」ではなく、「海外富裕層の投資家」を強く惹きつけてきたため、コロナ禍でインバウンド需要がゼロになっても、活気を失っていないのだ」p5
「2020年路線価によると、全国32万地点の標準宅地における上昇率で6年連続全国1位となったのがニセコだ」p15
「当地コンビニであるセイコーマートのニセコひらふ店は、富裕層を中心とした外国人観光客を意識した店舗となっており、国際クレジットカード対応可能な銀行ATMに外貨両替機、TimTimなど豪州で人気のスナック菓子やイギリスパンなど食品類、そして種類豊富なワイン類が並んでいる。3万円近いドンペリニヨンなど高級シャンパンも棚に鎮座している。ここはコンビニなのにだ」p24
「中国のスキー場の多くはニセコのようなパウダースノーではなく、アイスバーンだらけの硬い雪質であったり、人工雪であったりする場合も多い。このため、パウダースノーを誇るニセコをはじめ日本国内のスキー場は、アジアの中では特に競争力があり、ニセコの知名度は中国を含めたアジア全体でも非常に高い」p32
「(東急不動産)2004年、東急不動産は、自ら開発してきたニセコ花園スキー場を、ニセコの魅力に魅了されたオーストラリア人を主とする投資家グループが出資して設立した「日本ハーモニー・リゾート」に売却した。東急不動産グループでは、手塩にかけて育てた花園地区を売却することで、ひらふ地区に経営資源を集中させたということができよう。いずれにせよ、ニセコグラン・ヒラフスキー場などは東急不動産が運営することとなり、一方で、花園は手放すこととなった」p47
「(西武グループ)グループ再編の一環として、不採算部門の売却が実施され、ニセコもその対象とされることになった」p54
「花園やグラン・ヒラフにおける東急不動産グループ、ニセコビレッジにおける西武グループだけでなく、日本航空グループもバブル崩壊とデフレ不況の中で業績不振に陥り、経営再建の一環としてホテルやスキー場、ゴルフ場を売却し、ニセコから撤退していたことになる。そして現在は、それら日本企業に代わって、シンガポールや香港、マレーシアなど、興隆するアジアの大企業が、ニセコを牽引しているのだ」p59
「バブル期に東急グループや西武グループなど日本企業によって作られたニセコの礎は、バブル崩壊後、豪州や米国資本の手を経て、今は香港、シンガポール、マレーシアなどアジアの財閥グループなどによって、更なる大規模開発が続くに至っている」p80
「ニセコエリアのコンドミニアムのオーナー比率は、香港の36%を筆頭に、シンガポール16%、マレーシア10%、中国9%、タイ8%、台湾5%とアジア勢が上位を独占している」p111
「2019年の住宅価格は、クーシュベル1850がトップ、アスペンが2位、ベイルが6位、サンモリッツが7位となっている。ニセコは、日本ではトップながら、世界では31位であり、トップのクーシュベルの半額以下の価格帯となっている」p114
「ニセコが狙うのは、今まで通りこうした世界水準のスキーリゾートを自国に持たない、豪州、アジアの顧客、そして日本国内の富裕層だ。そういう意味では、各々が上客や特徴を持ちながら、ベイル、クーシュベル、ニセコは、うまくグローバルに棲み分けができているのかもしれない」p117
「外国人富裕層向け高級コンドミニアムや飲食店などの場合、年間収益の8割前後をスキーシーズンに稼ぎ出しているという。スキーシーズンだけの営業で1年分稼げるリゾートであるべきではないのか」p127
「スキーリゾートなのに、夏も稼がないとやっていけないというのでは、この先も未来はないのではないか。ニセコは基本的には今まで通り、冬だけで稼ぐビジネスモデルを追求すべきだ」p128
「間違っても、幕の内弁当型のマーケッティングをしないことだ。中間所得層などあらゆる年代世代所得ステージの人々が訪れるのが理想ではある。しかし、それは富裕層の離反を招く施策だ。彼らは混雑を嫌い、誰でも行けるリゾートを好まない」p129
「海外富裕層は、多くのものをすでに手に入れており、モノよりも時間により価値を置く場合も多い。観光や旅行においても、何もしない贅沢、何もしない時間を求めている場合が多いという。そもそも滞在するホテルからあちこち出歩いたりはしない」p130
「ニセコは富裕層以外には敷居が高い観光地になってしまったかもしれない。しかし、それでいい。すべての顧客層が満足するスキーリゾートになるキャパシティーは、ニセコにはないのだ。「選択と集中」「売上より利益」というビジネス観点からも、今までの高級化路線を継続するのが得策だ。誰でも行けるニセコにするのか、特別な日に行くニセコなのか。前者になれば富裕層は逃げ、次のニセコを見つけようとするだろう」p131
「官主導、地元自治体主導の観光策やリゾート計画だと、卓上のこうあるべき論や、調査やアンケートやイメージなどから始まり、デメリットやリスクも考え、結局、総花的で「幕の内弁当」のような施策となり、肝心の需要が置き去りにされて、失敗するケースがほとんどだ」p167
「ターゲットとする顧客も、全方位的ではなく、富裕層、中間所得層、マスリテール、日本人、外国人のどこをメインにするのか。キラーコンテンツとターゲット顧客を定めるだけで満足してはいけない。本当に儲かるのか、ということが最も重要だ」p175