学校教育、主として高校、大学教育についての研究者による私立大学論。学術的な分析研究がなされており、データが詳しく論拠が明確で説得力がある。記述が正確で、極めて興味深い内容であった。消えゆくであろう限界私立大学の実態の一面を理解できた。
「私立大学がすでに過剰になっているのは明らかで、99年から定員
...続きを読む割れ大学が急増し、08年以降は2校に1校近くが定員割れとなっている。私立大学の最大の収入源は学生の納付金であるから、定員割れの進行は大学の存立を危うくする」p3
「私大経営の採算ラインは経験的に定員の8割とされている。すでに何年にもわたって充足率が80%を割っている大学も100校を超える。これらの大学は存続の限界に近づいていると言える」p3
「定員割れの渦中にある大学の多くは目先のことに追われ、受験生たちが消えていった理由を落ち着いて考え、何をなすべきか考える余裕もないようである。いったん定員割れした大学の多くは、年を追って状況が深刻になり追い込まれていく。私立大学について文科省は、基本的には市場競争によって弱い大学が淘汰されて需要が調整されればよいという姿勢のようだが、大きな社会的混乱は招きたくないとも考えているはずである」p4
「(大学ランキング2016年版)毎年のように全国で最大の受験生を集めている明治大学の場合、法学部では8199人の受験生を集め、合格者数2571人を出したが入学者は652人と、入学手続き率は25.4%にすぎない。同経営学部では入学手続き率は22.6%である。やはり10万人以上の受験生を集める近畿大学の場合、法学部の受験者数が7694人、合格者数1966人のうち入学者は348人と、17.7%にとどまっている。その他多くの学部でも一般受験者のうち入学手続きをするのは2割前後であり、辞退率は80%に及ぶ」p20
「弱小私大の多くは、一般入試に臨む自信のない学力中下位層の大学進学希望者を中心に、推薦入試でなるべく多くを確保しようとする」p26
「(大学ランキング2016年版)一般入試による入学者比率は、慶應義塾大学では法学部34.4%、経済学部と商学部は61.0%、早稲田大学では法学部56.9%、政治経済学部46.7%、商学部59.0%など、学部によっては定員の半数以上が一般入試前に埋まっている。関西の有力私大でも同様である。そのためもあって、上位大学の一般入試では数倍程度の入試倍率となる。一般入試の定員を絞れば絞るほど入試倍率が上がり、受験情報企業の出す「偏差値」が上昇し、大学の評価を高める結果になる」p27
「大学進学にはほとんど無縁の底辺校とトップの進学校、準進学校との間にある、進学希望者と就職希望者が混在する、性格の曖昧な普通高校は、教育関係者の間では「多様化校」と呼ばれる」p165
「多様化校ではしばしば逆転現象が起こる。第二のグループ(中学時代に遊び癖がつくなど、ほとんど学習せず保護者もあまり子供の学校生活に関心をもたない生徒(高校入学後の学習姿勢や素行に問題が多い傾向がある))の生徒が、卒業間際になって大学進学を希望することがある。子供の教育に無関心だった保護者も、大学は出ておいたほうがよいという話を聞き、学費を出すといえば、現在、弱小私大はほとんどの高校に推薦枠を提供しているから大学に進学できてしまう。これらの高校の生徒が大学に進むか就職するかは、保護者の意向と家庭の経済力次第なのである」p166
「経済成長は過去のものとなり、大学を出ても安定雇用は期待できなくなり、学歴信仰は大きく揺らいでいる」p181
「(1980年代のアメリカ)大学の淘汰は、青年人口の減少だけではなく、その他の要因、たとえばリーダーシップの欠如、経営陣の無計画性や放漫経営、政府の財政援助の削減、教授団のモラル低下、魅力のないカリキュラムと教育軽視、学生の不満拡大、地域社会や支援基盤との関係の悪化などが同時に生ずる時に、危機につながっていることがわかる」p181
「(川成洋)大学の理事の中には、大学の経営とか運営といった視点を微塵も持ち合わせず、まるで自分ですべてを決定しうる「零細企業の社長」か「町の商店王」気質丸出しの人物が多い。一口で言えば、金と権力には貪欲で、おおよそ「教育」とか「学問」などといった理知的な分野に馴染まない連中が、なぜか、ちゃっかり理事に納まっている」p206