「カラシニコフ」とは名機と謳われ、世界中に広まっている自動小銃の名前です。設計を行なった人物の名前を付けられたその銃が生み続ける悲劇を、いくつもの貴重なインタビューを柱にまとめたものです。元は朝日新聞に連載されたコラムです。
第I巻は、著者が専門とするアフリカにおける紛争を中心にまとめています。
...続きを読む冒頭には、象徴的な話として11歳のときにゲリラに拉致されて少女兵にされたシエラレオネの19歳の女性へのインタビューから始まります。ここで「カラシニコフ」を使って3人の無抵抗の人を殺したことが語られます。
この他にもアフリカにおける「失敗国家」と貧困と銃の関係が数多く語られます。ANCの活動によりアパルトヘイトの廃止を勝ち取り、アフリカの大きな希望である南アフリカの低迷と治安のひどさも気が滅入る話です。
「失敗国家」を見分ける物差しは、「兵士・警察の給料をきちんと支払えているか」と「教師の給料をきちんと支払えているか」だそうです。多くのサハラ以南のアフリカの政府では、この物差しを満たせずに結果、銃の管理が行き届かず、次々と紛争や治安の悪化といった連鎖がやまない悪循環になっているということです。
第2章の「カラシニコフ」の産みの親であるミハイル・カラシニコフへのインタビューはある意味象徴的です。淡々とした悪意のないこの設計技術士との話は、この本を単純な銃反対というイデオローグな本という印象になることを避けているように思います。
作家のフォーサイスへのインタビューもありますが、こちらはご愛嬌でしょうか。
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『エコノミスト』の記者ロバート・ゲストが書いた『アフリカ 苦悩する大陸』に次のような一節があります。
「コンゴ(民主共和国)滞在中、何が最も恐ろしかったかと言えば、群集の叫び声でもなく、鳴り響く銃声や、ときおり見かける路傍に捨て置かれた死体でもなかった。それはあるとき目にした少年兵の姿だった。十二歳といったところだが、栄養不良の十五歳かもしれない。階段に腰掛け、AK-47自動小銃の銃口にあごを載せていた。... 自分の命にさえこれほど無頓着だとすれば、こっちの命はどうなるのか、と。」
自分は日本にいて、ほとんど関係のない形で毎日を過ごしているわけですが、こういうことが起きているということを知ることは何か意味があるような気がします。