「社寺参詣」という”伝統的風習”と捉えられがちなものが、「鉄道」という”近代文明”によってどれだけ影響されてきたのかをまとめた一冊。明治~昭和初期の関東・関西を主な対象として話がまとめられている。
学術的な鉄道研究として、最近は新聞記事・広告や社寺史料を丹念に研究するのがトレンドらしく。この著書も
...続きを読むそういう書籍の一冊。こういう学術畑からの一般書は、情報量にまみれてしまい全体像を掴みにくい本が多いのですが、この本はその豊富な情報量の割には話の流れがわかりやすく読みやすい。古い鉄道会社名が鉄道ファン以外には理解しにくい点を除けば、一般者も普通に手に取れる一冊だと思う。
詳細は読んでいただいた方が早いので省略しますが、
・東西の私鉄が、閑散期である冬の集客に寺社参詣を見込んでいたこと
・その集客惹句は必ずしも宗教的伝統に忠実とは言いがたく、使いやすい惹句は東西の鉄道会社間でもインスパイヤされたこと
・社寺の側も鉄道会社による参詣者増加効果に期待していたものの、伝統との兼ね合いで意見が食い違うこともあったこと
などが特に興味深かった。
個人的に気になったのは、「旧暦・新暦」の兼ね合いを例示するために出された宮城県塩竈神社参詣(元朝詣で)輸送に関する記述。宮城が元旦終夜運転には全国的に見て早めに手を出してるのも意外なら、この終夜運転が新暦元旦だけでなく、旧暦元旦にも行われたことも驚き。旧暦元旦の臨時便は昭和に入っても運行されていたとの由。
仙台七夕が旧暦を意識した日程になっているように、仙台では割と旧暦ががんばったっぽい、とは感じていましたが、正月までそうだったとは知らず。仙台の祭の変遷は個人的に調べてみてもいいか、と感じさせるものがありました。
「社寺と鉄道」の関係に注目されている一冊ですが、引用されている鉄道広告からは各鉄道会社の社風や様々な試みも読み取れ、実に楽しい一冊。歴史鉄必読の良著です。