近代日本小説の歴史をこれ以上なくコンパクトかつ鮮明にまとめた良書。日本の近代文学史に興味のある人なら、まず1冊目にこの本を選んで間違いということはないはず。
類書を読み比べたわけではないので比較はできないが、相当に読みやすくかつ面白い本だった。
小説の引用も豊富で、この類の概説書にありがちな退屈さ
...続きを読むは皆無といえる。ただ唯一の懸念としては、文学研究者らしく難しい語彙がしばしば出てくるので、気になる人は気になるかも。
内容面では、まず大正文壇の成立までは文句なく面白かった。
教科書や国語便覧で名前だけ知っていた文豪の系譜や問題意識が体系的に描かれていて、各時代の文学に見出せる大きな潮流や対立構造を簡易に把握したいという欲望を的確に叶えてくれる。
一方で、大正文壇をピークにそれ以降はやや尻すぼみという印象も受けた(この本が、というよりは文学史それ自体への感想になってしまっているだろうが…)
後に続くプロレタリア文学や文芸復興は戦争により半ばで挫折するムーブメントだし、また、この手の本ではありがちかつ不可避の問題だが、戦後の記述は各論的な向きが強くてなかなか全体像が頭に入ってこない。
ただ一方で、近い時代についてはブックガイドとしての使い方をお勧めしたい。
それぞれの作家や作品の紹介は簡潔でありながら大変魅力的で、誰もが知る文豪以外にも知っておきたい作家や読みたくなる作品を次々に摘示してくれる。
そして明治の小説よりは実際に手を出しやすいだろうから、気になった小説のタイトルをメモしながら読むのがおすすめ。
近代文学史入門と現代小説のブックガイドとして一粒で二度おいしい本であり、日本文学に興味のある人にはぜひ読んでもらいたい一冊。