地球上に「生命」が現れてから約40億年もの間に、さまざまな種が生まれては絶滅していった。
現代の私たちは地層や化石などの研究によって過去に5回の大規模な絶滅(ビッグファイブ)があったことを知っている。
(ウィキペディアの地質時代、大量絶滅を参照)
過去の大絶滅では当時に存在した種のうち70〜90%が
...続きを読む失われたといわれている。私たちにいちばん馴染みがあるのが白亜紀末の大絶滅で、当時地上で大繁栄していた恐竜類が隕石の落下による影響で一斉に絶滅したことは有名だ。
そして、今現在、6度目の大量絶滅が進行中で、その主な原因が私たち「ヒト」である、という事がこの本のテーマである。
私たちヒト(現生人類)が約15万年前から存在しはじめ、アフリカをはじめとしてヨーロッパやアジアの各地へ拡散していったときから、当時各地に存在していた動物たち、マストドン、マンモス、スミロドン、オオナマケモノなどの巨大獣が次々と絶滅していった。ヒトが原因となる絶滅の有史後の例としてとりあげられているのが1800年に絶滅したとされるオオウミガラスだ。
さらにこの本では今まさに絶滅しようとしているたくさんの種について、調査や保護の様子が記述されている。
グローバル化の影響と思われるツボカビ病によって個体数を激減させている南米の両生類。
二酸化炭素の増加による海水の酸性化によって2000年代末には絶滅する可能性があるとされるサンゴ類。そのサンゴ礁が作りだす生態環境に依存しているといわれる数千〜数百万種の海洋生物たち。
アメリカのコウモリが大量死しているのはヨーロッパのコウモリとは共生しているカビによる「白鼻症」のせいで、これもまたヒトのグローバル化が原因であること。等々。
この本の読者が読後になにか不満を感じたとしたら、それは章構成の乱雑さに混乱したせいかもしれない。
私が思うには、「人類が絶滅という概念を獲得する話(おもにフランスの博物学者キュビエを中心とする)」と「過去の大絶滅(ビッグファイブ)に関連する話(地質学者と物理学者のアルヴァレズ親子が隕石衝突説で古生物学会に殴りこみをかける等)」と「6度目の大絶滅で(たぶんヒトと関わったせいで)滅んだ動物たちの話」と「現在進行中の絶滅危惧種の話」の章が入りまじって構成されているので、読んでいてすこし混乱するのだ。
構成にすこし難があるとはいえこの本のテーマは刺激的で、重要な問題提起をしていると思う。
ヒトが化石燃料を使用して大気中の二酸化炭素濃度が高まり地球温暖化をひきおこしたり、急激な環境改変が生態系の破壊などにつながっていることは一般的に認知されている問題だが、この本ではそういった周知の問題だけではなくて、もっと踏みこんで「ヒト」が世界に及ぼす影響について示唆している。
その点で圧巻なのは最終章の手前、ネアンデルタール人のDNA採取を試み現生人類との関係を研究している遺伝学者ペーボの話だろう。ペーボが探すのはネアンデルタール人にはなくて現生人類にあったもの、彼が「狂気のようなもの」と呼ぶ何か、おそらくは6度目の大絶滅を起こさせる原因でもあり、ヒトのヒトらしさの本質でもあるものだ。それは文中で示唆されているように「飽くなき好奇心を抱く」内容である。
上にあげたウィキペディアの大量絶滅の記事中にもあるが、現代が6度目の大絶滅の最中であるというのは大多数の生物学者の一致した見解だそうだ。
そしてこの本が示唆するように大量絶滅の原因がヒトにあるのかどうかは確定してはいないが、ヒトは温暖化や環境破壊をする一方で絶滅危惧種の保護活動をしたり保護区を作ったりもしているわけで、とても不思議な生物であることは確かだと私は思う。