ー 企業経営のセオリーとして、買収は戦略を立てた後に実行すると考えがちである。しかし、実際には戦略と買収は相互に影響を及ぼす関係にある。
そもそも、買収は非連続な企業行動であって、計画できるものではない。たとえ、中期計画に買収による海外市場拡大を描いていても、対象会社の株主との交渉が不調に終わるか
...続きを読むもしれないし、競合他社の手に渡ることもある。買収は企業にとって既存の成長戦略上にあるものではない。
それに、いったん買収を実行して新たな経営資源を手に入れると、競争の局面は大きく変わる。買収で市場占有率が拡大する、垂直結合で調達が安定する、生産拠点や販売網の補完が進む、現地に根ざしたブランドや魅力的な製品を開発するチームが加わる、などである。つまり、次の事業展開に向けた新たな戦力が整うことになる。よって、産業構造やポジショニングなど外部環境を重視する競争戦略論や、企業内部の組織能力に競争優位の源泉を求める資源ベースの戦略論のどちらから眺めても、買収は企業に新たな戦略を求めることになる。買収を実行した後、 業界地図を塗り替え、補強した経営資源を吟味して自社の戦略を新たにする、すなわち、「戦略が買収に従う」のだ。
過去の日本企業による海外M&Aが示すのは、買収後、悪い方向に走り出すと、想定を超える損失を被ることである。買収後に暖簾減損を計上するのは、買収前に描いた計画が実現せず、相乗効果の絵 に囚われて身動きが取れなくなった状態でもある。獲得した事業を買収前の小さな戦略や能 力に合わせるようなことをしては、成功しない。逆に成功した企業に共通するのは、買収後、外部環境に応じて自らの経営を進化させてきたことである。 ー
我が国におけるM&Aの成功事例、失敗事例を丁寧に分析した優れた作品。これは、参考になった。
理論的な分析も事例の分析もとても参考になる。