元ネタは、1986年に刊行された『遺伝子が語る生命像』。そこから三十年近くの間に当然のことながら生命科学は長足の進展を遂げた。本書はその進展を踏まえて2013年に改訂されたもの。特にPCRなどの解析技術の発展や、ヒトゲノムプロジェクトの成果などがあり、本書の内容も大幅に変わっているのではないかと想定
...続きを読むする。新書(ブルーバックス)だが、内容は読みごたえがある。
ヒトゲノムの全塩基配列の決定を、人口三万人の都市の電話帳を探しあてたようなものである、と評価し、この「都市」がどのような仕組みで動いているのかという全体像を明らかにしていくのは今後の大きな課題だとしている。この比喩はなかなかうまい。そして、それはおそらくは不可能ではないのだ。それが実現されたとき、何が変わるのかを考えておくことが重要なのだと思う。倫理的なものも含めて大きな課題があるにせよ、この方向は押しとどめることはできないのではないかと思う。
本書では、著者はややセンシティブな話題についても科学的観点から比較的踏み込んで書いている。たとえば、「事故が原因の生涯被爆が100ミリシーベルト以下では発ガンが増加するリスクは事実上ない」や「BSEの発生確率とその発症にいたる年限を考えるならば、実際問題として全頭検査にかかる費用をかけるほどの意味があるのかどうかきわめて疑わしい」と書く。DNA変換作物についても同様だ。「科学技術と社会の受容性について、常に考えさせられるのは、科学的に十分な理解をした上で、安心という主観的な言葉ではなく、安全性という定量的な根拠に基づく判断が必要だということだ」と書くが、実際のところ、それが最も難しいことのひとつでもある。
また医療面では、ゲノムコホートの研究成果を予防医学に結びつけることが重要で、国家的に推進していくべきであるという。
メンデルの遺伝の法則から書き起こしていて読みやすく、ためになる本。