あたかも古代ギリシア人のナマの声を聞いているような錯覚を覚えてしまう7本の歴史小説の短編と、その分かりやすい解説がそれぞれに付いていて、とても読みやすく内容も充実している。「ユートピア史観を問い直す」という副題が何か難しそうな感じで、いきなり「記号としてのギリシア」で始まるのでここで敬遠してしまう人
...続きを読むがいるかもしれないが、読んでみれば著者の主張は実に明快で分かりやすい。最初に簡単な古代ギリシアの歴史について、年表や地図などとともに簡単なイントロダクションもあって、初心者に親切な本。それよりもこの本の中核を成す7本の短編は、どれも小説家ではない著者が執筆したもので、本格的な短編小説とは呼べないかもしれないが、それなりに起承転結がまとまっており、その直後の「解説」で、どの部分が著者の創作部分でどの部分が文献に基づいているのか、なぜ著者はそのようなストーリー展開にしたのか、歴史学ではどのように議論されているか、といった専門家ならではの解説がある点が興味深いし、読者に考える余地を残してくれるし、ストーリーとともに簡単な歴史を覚えることができた。上記の『世界歴史の旅 ギリシア』とは対照的な本である。
個人的には「ナイルを遡ったギリシア人」、「『ぺプロスの少女』の物語」、「『姦通事件』の二つの顔」が特に面白かった。