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インド伝説の英雄ラーマを主人公とする歌物語。インドの二大古典叙事詩のひとつ「ラーマーヤナ」はインドの誇る世界文学の一つであり、アジア人の心のふるさとともいえます。「一の巻」から「四の巻」までの17話を上巻に収めています。
ラーマが 結婚 してから 一年 ばかりたったころ、ダサラタ 王 は 政事 から 身 をひく 決心 をしました。 ──インドの 聖典 が 命じているとおりに、 浮世 からはなれ、 余生 をささげて 神 につかえたいとお 考えになったのです。インドの 男 の 一生 は、まず 二十歳 までは 学問 にはげみ、それから 二十 五 年 は 家族 をやしない 育て、その後 の 余生 は 聖者 や 学者 の 仲間 にはいって、 神 の 道 をおさめることになっていました。
そこでしかたがない、むすこどころか、むすこをころしたわたくしが 話しかけた。カウサルヤー、そのときの 有様 が、いまこの 場 でありありとみえるのだ。わたくしはそのむすこのめくらの 両親 に、いたましいできごとをうちあけた。わたくしが 話してしまうと、 両親 は 目 がみえないので、むすこの 亡骸 を 手 でさぐっていた。 大 ごえでなげき 悲しんでいたが、いきなり 父親 がわたくしに 呪いをかけた。 神 の 名 によって 呪いをかけたのです。 ──おまえもいつかは、 自分 のしたとおりのことを 仕返しされるだろう。おまえもきっと 自分 のむすこをうしない、そのため 苦しんで 死ぬことになるのだ! カウサルヤー、どうかだまってきいておくれ。その 呪いがとうとうやってきたのだ。いまわたくしは 死 の 国 へいくところです。ああ、さっきから 目 にみえぬどこかで、わたくしをよんでいるのがきこえる……」 こういったかと 思うと、 国王 は 気 をうしない、カウサルヤー 妃 の 足もとにたおれて、 亡くなってしまいました。
よい 行 ないであっても、 悪い 行 ないであっても、 人 が 天国 へいって 魂 がやすらかになるまでは、まといついてはなれません。 人 は 乞食 であろうが、 王さまであろうが、 自分 がひとたびしてしまったことをかえることはできないのです。
毎朝、ラーマとラクシマナは 狩りにでかけました。 聖者 のアトリはじっとおしだまって 日の出 から 日 の 暮れまで 一日 じゅう 神 にお祈りをしていました。ふたりの 王子 が 目 にするあたらしいものをあれこれしらべているあいだに、 聖者 はその 反対 に 目 にみえないことがらをするどくみとおしていました。
ある 日 のこと、ふたりが 河 の 岸 べにすわっていると、アナスヤーがシータにたずねました。 「おうつくしい 王女 さま、どうしてシータなどという 地味 なお 名前 をつけられたのでございましょう?── すき の 先 から 生まれたという 意味 ではございませんか。つまり 地面 からはえたという 意味 なのでございましょう?」 シータはそれにこたえていいました。 「わたくしの 父 のジャナカ 王 はひとりもこどもがありませんでした。それである 日、こどもをさずけてくださるように 神さまにお祈りしました。たいそう 熱心 にお祈りしたので、 神さまも 父 の 願いをおききとどけになったのでしょう。その 夜、 父 はいい 夢 をみました。 夢 のなかで 土 をたがやせ、とお告げがあったのでございます。ラーマーヤナ(上) (レグルス文庫)
by 河田清史
ラーマが 結婚 してから 一年 ばかりたったころ、ダサラタ 王 は 政事 から 身 をひく 決心 をしました。 ──インドの 聖典 が 命じているとおりに、 浮世 からはなれ、 余生 をささげて 神 につかえたいとお 考えになったのです。インドの 男 の 一生 は、まず 二十歳 までは 学問 にはげみ、それから 二十 五 年 は 家族 をやしない 育て、その後 の 余生 は 聖者 や 学者 の 仲間 にはいって、 神 の 道 をおさめることになっていました。
そこでしかたがない、むすこどころか、むすこをころしたわたくしが 話しかけた。カウサルヤー、そのときの 有様 が、いまこの 場 でありありとみえるのだ。わたくしはそのむすこのめくらの 両親 に、いたましいできごとをうちあけた。わたくしが 話してしまうと、 両親 は 目 がみえないので、むすこの 亡骸 を 手 でさぐっていた。 大 ごえでなげき 悲しんでいたが、いきなり 父親 がわたくしに 呪いをかけた。 神 の 名 によって 呪いをかけたのです。 ──おまえもいつかは、 自分 のしたとおりのことを 仕返しされるだろう。おまえもきっと 自分 のむすこをうしない、そのため 苦しんで 死ぬことになるのだ! カウサルヤー、どうかだまってきいておくれ。その 呪いがとうとうやってきたのだ。いまわたくしは 死 の 国 へいくところです。ああ、さっきから 目 にみえぬどこかで、わたくしをよんでいるのがきこえる……」 こういったかと 思うと、 国王 は 気 をうしない、カウサルヤー 妃 の 足もとにたおれて、 亡くなってしまいました。
よい 行 ないであっても、 悪い 行 ないであっても、 人 が 天国 へいって 魂 がやすらかになるまでは、まといついてはなれません。 人 は 乞食 であろうが、 王さまであろうが、 自分 がひとたびしてしまったことをかえることはできないのです。
毎朝、ラーマとラクシマナは 狩りにでかけました。 聖者 のアトリはじっとおしだまって 日の出 から 日 の 暮れまで 一日 じゅう 神 にお祈りをしていました。ふたりの 王子 が 目 にするあたらしいものをあれこれしらべているあいだに、 聖者 はその 反対 に 目 にみえないことがらをするどくみとおしていました。
ある 日 のこと、ふたりが 河 の 岸 べにすわっていると、アナスヤーがシータにたずねました。 「おうつくしい 王女 さま、どうしてシータなどという 地味 なお 名前 をつけられたのでございましょう?── すき の 先 から 生まれたという 意味 ではございませんか。つまり 地面 からはえたという 意味 なのでございましょう?」 シータはそれにこたえていいました。 「わたくしの 父 のジャナカ 王 はひとりもこどもがありませんでした。それである 日、こどもをさずけてくださるように 神さまにお祈りしました。たいそう 熱心 にお祈りしたので、 神さまも 父 の 願いをおききとどけになったのでしょう。その 夜、 父 はいい 夢 をみました。 夢 のなかで 土 をたがやせ、とお告げがあったのでございます。