津田敏秀の作品一覧
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「津田敏秀」の「医学的根拠とは何か」「医学と仮説」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
Posted by ブクログ
めちゃめちゃ。とんがった医師がいた。津田敏秀は、岡山大学大学院環境生命科学研究科教授。専攻は疫学、環境医学、因果推論、臨床疫学である。著者が言っている断定的表現は嫌われるだろうなと思う。だけど、好きだなぁ。容赦しない姿勢が、だから平気で国を訴訟できる学者なのだ。
本書から、水俣病のところだけを拾って、私の理解を含めて説明すると以下のようになる。
水俣病は、有機水銀による食中毒事件である。それは、熊本県も国(厚生省)も認識していた。
1956年5月に最初の患者の届け出。これが公式の水俣病患者の届け出となる。1956年11月に奇病や伝染病でなく、熊本大学医学部は食中毒であるとした。
にもかかわらず、厚生省は「原因物質がわからない」として食品衛生法の適用をしなかった。
この理由は「全ての原因食品が汚染されている証拠が必要」という。食中毒が起こった時に原因物質が解明されている必要性という前例がない。食品衛生法に基づいても違反している。食べたものを食べさせない処置をすることはとても必要だ。明らかに厚生省の過失、過誤である。
水俣病は、公式確認直後の早い時期から伝染性の疾患ではなく、ある種の重金属による中毒と考えられ、水俣湾の魚介類を食べることによって引き起こされた食中毒との共通認識はあった。
水俣病が食中毒だとすると食品衛生法の適用を受ける。水俣病が公式確認された当時の食品衛生法第二十七条によれば、食品等に起因して中毒した患者等を診断した医師は、直ちに最寄りの保健所長にその旨を届け出なければならない。保健所長は、この届け出を受けたときには調査し、かつ都道府県知事に報告をしなければならない。都道府県知事は、この報告を受けたときには厚生大臣に報告をしなければならない。当時の食品衛生法第四条によれば、「有毒な、又は有害な物質が含まれ、又は附着している」食品等については、採取や販売等が禁止されている。
というのが、食品衛生法に伴う処理の方法であるが、厚生省はそれを認識していながら、食品衛生法を自ら法的に処理しなかった。食中毒事件報告書がない。厚生省は法律違反を自ら犯したのである。
当たり前の食中毒事件処理が行われなかったために、不知火海沿岸に拡大。チッソ工場の排水が続いている状態を続ける。魚を食べるための禁止処置などをするべきであったが、しなかったので被害が拡大した。
水俣病は、「昭和52年判断条件」に基づく認定をしている。食中毒事件で、いちいち認定をするってありえない。医学者は水俣病の基準が、よくわからないので、認定基準が曖昧。現地調査もきちんとしない。なぜ医学的根拠が、科学になっていないのだろうか?と疑問を投げかける。
最高裁の判断は「昭和52年判断条件に定める症候の組み合わせが認められない四肢末端優位の感覚障害のみの水俣病が存在しないという科学的な実証はない」といい、症状の組み合わせを水俣病の認定条件とすることに科学的根拠はないとしている。
全く、著者の言われていることに同意する。水俣病に対する著者の立場は鮮明である。
本書は、医学的根拠は何か?問いかけている。
福島原発メルトダウンによって放射能の閾値が発表されている。100ミリシーベルトを目安として「がんの増加が見られない」とする報告を元に、いつの間にか100ミリシーベルトはガンにならないと言われるようになった。WHO(世界保健機関)の健康リスクアセスメントは、100ミリシーベルト以下であってもがん発症の可能性を指摘している。なぜ世界基準と日本基準は違うのか?を問いかけている。いくつかの事例(PM2.5問題、発がん物質問題、ピロリ菌問題、タバコと肺がん問題、O157問題、赤ちゃん突然死問題など)は象徴的な事件は医学的根拠の不理解の中にある。
医学的根拠は、直感派、メカニズム派、数量化派の3つに分類できる。直感派は医師としての個人的な経験を重視。メカニズム派は動物実験など生物学的研究の結果を重視。そして数量化派は、統計学の方法論に基づく疫学的解析にあるとする。コロナ禍で、8割おじさんと揶揄されたが、日本には直感派とメカニズム派が主流で、現在のような広範囲に起こる病気に対して対応しきれないという。
それが、水俣病でも明確に現れたと主張するのだ。
医学博士になるための論文は、臨床研究の人が少ない。「いまどき分子メカニズムの研究でないと医学博士がとれない」「動物実験こそが研究だ」と人間、患者から離れていくことになっている。医学が患者を扱わないことが、問題なのだ。医者は「実験室」ではなく「診察室」に向かう必要があると言っている。日本の医学の世界では軽視されがちな疫学の重要性を,歴史的な系譜を説明する。
科学的根拠に基づいた医学(Evidence-Based Medicine:EBM)。臨床研究で集められたデータは、人に関するデータであり、数量化された疫学方法論を取り入れることが必要だと説く。
大気汚染、重金属汚染、放射能汚染などは、公衆衛生学に基づいた医学的根拠は数量化された統計学で解析されない本質が見えない。まして直感派やメカニズム派では対応できない。医療の質を変えないと水俣病のような迷走が起こり被害を拡大・長期化する。
いやはや。医学界にも、稀有な人がいるもんだ。著者の鋭いツッコミを支持する。
Posted by ブクログ
因果関係について、疫学が専門の著者が「以前から気がついていたが、日本では科学的な政策判断を行う中央の官僚だけでなく、医学研究者が科学の基本的概念について考えたこともなさそうなのである。」と強烈に皮肉る本です。
個人的には名著だと思います。
相関関係と因果関係の違いを勘違いしている人は多いですが、因果関係についてもヒュームの問題を、医学研究者をはじめ、科学に係わる人は教養として置くべきであり、高等教育における方法を見直すべき、との主張はその通りと思いました。
要素還元主義にとらわれ、日本で行った実際の失敗例として、森永ヒ素ミルク事件、水俣病事件、和歌山ヒ素カレー事件、タミフルの問題を挙げられています。
因果関係を示すのに、メカニズムの解明は不要。なぜなら、それは・・・本書をぜひお読みください。
Posted by ブクログ
「医学的根拠とは何か」
この本の題名であるが、何か起こるたびに、さまざまな“専門家”という何がどう専門なのかわからないような人が「医学的根拠」という言葉を用い、その度に考えることでもある。
そして私は身をもって知っている。日本は医療技術は高くても、医学教育水準は前近代的なうえに貧相極まるものであることを。今の医療レベルの高さは経済発展と国民教育水準の高さに伴ったものであり、医学教育水準が発達してない以上、これから数十年後に日本の医療は金に依ってガラパゴス化した身動きの取れない豚のようになるのではないかと危惧している。
筆者は今まで日本の医学における問題を一般の書籍において啓蒙してきた方である。いずれも読ませていただいたが、本書は実に良い。根本的な問題点をわかりやすく整理されている。すべての医学生に読んでもらいたいのに加えて、医療者以外にも読んでいただき、“専門家”という有象無象の発言には、「本当だろうか」という疑問を感じてもらえることが大事だと思う。