小坂井敏晶の検索結果
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答えのない世界を生きる
常識から目を覚ますために。大いなる知性が紡ぐ「考えるための道しるべ」 本書は、2003年に現代書館から上梓した『異邦人のまなざし』の改訂版である。出版から15年近く経ち、学問や大学に対する私の思いは少なからず変化した。新たに考えたことを加筆し、私のフランス生活を再び反省してみた。そして自伝的性格の強かった原著の内容を一般化して、考えるための道しるべとして書き直した。異邦人や少数派が果たす役割をより掘り下げ、開かれた社会の意味を考察する。(「はじめに」より) 今日の異端者は明日の救世主かもしれない 中世の宗教裁判や魔女狩り、ナチス・ドイツ、ソ連、中国の文化大革命、カンボジアのポル・ポト率いるクメール・ルージュ、そして大政翼賛会や特別高等警察も、正しい世界を作ろうとした事実を忘れてはならない。正しい世界の構想を誤ったのではない。普遍的真理や正しい生き方がどこかに存在するという信念自体が危険なのだ。(本文より) -
神の亡霊
責任ある主体として語りふるまう我々の近代は、なぜ殺したはずの神の輪郭をいつまでも経巡るか。臓器の所有、性のタブー、死まで縦横に論じ反響を呼んだ小会PR誌『UP』連載に、著者の思考の軌跡をふんだんに注として加筆した渾身の論考。すべてが混沌とする現代の問題に、自分で思考することを試みる。 【本書「はじめに」より】 神は死んだ。世界は人間自身が作っていると私たちは知り、世界は無根拠だと気づいてしまった。もはや、どこまで掘り下げても制度や秩序の正当化はできない。底なし沼だ。幾何学を考えるとよい。出発点をなす公理の正しさは証明できない。公理は信じられる他ない。どこかで思考を停止させ、有無を言わせぬ絶対零度の地平を近代以前には神が保証していた。だが、神はもういない。 進歩したとか新しいという意味で近代という表現は理解されやすい。だが、近代は古代や中世より進んだ時代でなく、ある特殊な思考枠である。科学という言葉も同様だ。科学的に証明されたと述べる時、迷信ではなく、真理だと了解する。しかし科学とは、ある特殊な知識体系であり、宗教や迷信あるいはイデオロギーと同じように社会的に生み出され、固有の機能を持つ認識枠である。科学的真理とは、科学のアプローチにとっての真理を意味するにすぎない。 人間はブラック・ボックスを次々とこじ開け、中に入る。だが、マトリョーシカ人形のように内部には他のブラック・ボックスがまた潜んでいる。「分割できないもの」を意味するギリシア語アトモスに由来する原子も今や最小の粒子でなくなった。より小さな単位に分解され、新しい素粒子が発見され続ける。いつか究極の単位に行き着くかどうかさえ不明だ。 内部探索を続けても最終原因には行き着けない。そこで人間が考え出したのは、最後の扉を開けた時、内部ではなく、外部につながっているという逆転の位相幾何学だった。この代表が神である。手を延ばしても届かない究極の原因と根拠がそこにある。正しさを証明する必要もなければ、疑うことさえ許されない外部が世界の把握を保証するというレトリックである。そして、神の死によって成立した近代でも、社会秩序を根拠づける外部は生み出され続ける。 このテーゼが本書の通奏低音をなす。虚構なき世界に人間は生きられない。自由・平等・人権・正義・普遍・合理性・真理……、近代を象徴するキーワードの背後に神の亡霊が漂う。表玄関に陣取る近代が経糸を紡ぐ。その間を神の亡霊が行きつ戻りつ、緯糸のモチーフを描く。 【主要目次】 はじめに 序 近代という社会装置 第1回 死の現象学 第2回 臓器移植と社会契約論 第3回 パンドラの箱を開けた近代 第4回 普遍的価値と相対主義 第5回 「べき論」の正体 第6回 近代の原罪 第7回 悟りの位相幾何学 第8回 開かれた社会の条件 第9回 堕胎に反対する本当の理由 第10回 自由・平等・友愛 第11回 主体と内部神話 最終回 真理という虚構 あとがき -
支配の位相幾何学 ――差別とメリトクラシーの根源を問う
人間に科された桎梏 ヒエラルキーが決して消えないのはなぜか―― 近代の原罪を追及してきた著者の集大成 身分制、差別、メリトクラシー。そこには歴史的変遷を経ても変わらない秩序維持の構造がある。解く鍵は「主体」だ。身分制を正当化する原理、差別が生み出される原因、そして能力概念の意味。いずれも主体虚構が担う役割抜きには語れない。従来からのあらゆる反差別論や格差批判が根本的に誤っているのはなぜか。差別以上にメリトクラシーが深刻である理由とは――。社会の機能と構造を分析し、近代の原罪を追及してきた著者の集大成。 【目次】 はじめに 序 反差別論の勘違いとメリトクラシーの詭弁/本書の構成 第一章 差別と同質性 世界の紛争と近親憎悪/解放のパラドクス/同質性が生む差別/劣等感の補償/解放の実情 第二章 名誉白人再考 黒人の白人志向/少数派の劣等感/支配への迎合/名誉白人を生む条件/西洋化と近代化のすりかえ 第三章 日本の西洋化 日本人の西洋崇拝/進歩史観と西洋化/脱亜入欧の日本人像/日本人が名誉白人になる理由 第四章 同化と抵抗の密約 集団闘争を生む条件/シオニズム台頭の背景/ドレフュス事件/消去法のパレスチナ/イスラエル誕生事情/西洋化としてのシオニズム/アイデンティティは空の箱/人種神話とイスラエル/アイデンティティの虚構性 第五章 偏見の役割 制御幻想/噓から出た真/カテゴリーと差別/遍在する迷信/現代の呪術/精神分析と政治の正体/同一化の魔法/心理の社会性/科学と迷信/知識と信仰/悪は正常な社会現象 第六章 支配の位相幾何学 身分制・格差・差別/奴隷制と普遍主義の矛盾/平等と人種主義の結託/全体主義と近代/偶然が決める能力/能力は架空概念/主体というイデオロギー/復讐・贈与・赦しの媒介構造/人間関係排除の契約と市場/価値の生成メカニズム 第七章 近代最大の迷信 自由と決定論/自由と責任の逆転劇/心理学の敗北/原因と理由/自由と普遍のアポリア/禁止の無根拠 第八章 近代が喪ったもの 主体の関係論/分析哲学と存在論の違い/意志の不在と脳科学/無意識の意志/規範論の限界/規範論の罠/虚構性の隠蔽 終章 神のメタモルフォーゼ ベストセラーの内幕/適者生存の誤解/進化と偶然/偶然が生成する真理/ラマルクの亡霊/主体の密輸入と進歩史観/差別・能力・偶然 補論 テレビ広告に登場する白人 白人の役割/西洋化と文化/日本人の美意識/異質性への抵抗 あとがき 出典 -
増補 責任という虚構
人間は自由意志を持った主体的存在であり、自己の行為に責任を負う。これが近代を支える人間像だ。しかし、社会心理学や脳科学はこの見方に真っ向から疑問を投げかける。ホロコースト・死刑・冤罪の分析から浮き上がる責任の構造とは何か。本書は、自由意志概念のイデオロギー性を暴き、あらゆる手段で近代が秘匿してきた秩序維持装置の仕組みを炙り出す。社会に虚構が生まれると同時に、その虚構性が必ず隠蔽されるのはなぜか。人間の根源的姿に迫った著者代表作。文庫版には自由・平等・普遍の正体、そして規範論の罠を明らかにした補考「近代の原罪」を付す。 -
増補 民族という虚構
“民族”は、虚構に支えられた現象である。時に対立や闘争を引き起こす力を持ちながらも、その虚構性は巧みに隠蔽されている。虚構の意味を否定的に捉えてはならない。社会は虚構があってはじめて機能する。著者は“民族”の構成と再構成のメカニズムを血縁・文化連続性・記憶の精緻な分析を通して解明し、我々の常識を根本から転換させる。そしてそれらの知見を基に、開かれた共同体概念の構築へと向かう。文庫化にあたり、新たに補考「虚構論」を加えた。