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生物と同様に、社会システムは「同一性」と「変化」に支えられている。だが、この二つの相は本来両立しない。社会心理学はこの矛盾に対し、どのような解決を試みてきたのか。影響理論を中心に進められる考察は、我々の常識を覆し、普遍的価値の不在を明らかにするだろう。本講義は、社会心理学の発想を強靱な論理とともに伝え、「人間とは何か」という問いを読む者に深く刻み込む。
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Posted by ブクログ
社会心理学と聞いて心理学の一部門というくらいにしか考えていなかったけれど、社会学や哲学にも造詣が深い著者の目線からの話が全体像を把握しやすかった。 volumeも多く読むのに時間がかかったけれど、どの章もとても内容の濃いものばかりで、改めて読み返したいと思うほどだった。 読み終わって改めて感じたこ...続きを読むとは、世の中を一つの真理で説明することはできないと。多様性や自由が大事だというけれど、社会で揺るがない普遍的価値があるとすればそれはもう閉ざされた社会になってしまう。 開かれた社会というのはあらゆる法律ルール道徳、いずれにおいても変わることのない絶対的なものは存在しない。全ては相対化されたものに過ぎないことを受け入れることが大切なのだろう。
人間社会を生きる全ての人に是非読んでほしい!! 後書きまで含めて最高すぎた。 未来は誰にもわからない。だから希望を持ち続けられる。多くの絶望や虚無の先に見えたのは、原始から続く当たり前であった。陽はまた昇るのだ。 アイアムアヒーローは、そういう話だったんじゃないかと思う。批判の多いエンディングだけ...続きを読むど、希望に満ちていた。
著者が熱い。社会と心理は切り離して考えられないという主張を支えるように、著者の言葉には魂がこもっていると感じる。人の意志と言われるものは環境の集積によるもの、自由意志による責任は社会が要請しているもの、といった考察が頭に残っている。
人間の判断が、いかにいろいろなものに 左右されているのか、過去の研究成果を分かりやすく 説明しつつ、人文科学の研究のあり方、 研究者の問題意識の立て方などを論じる 刺激的な書。 再読したい。
スゴ本だった。 構成としては、社会心理学として抑えておくべき理論的な発射台を前半部分で示し、これらを基礎とした各論題の追求と考察を後半に行うもの。 人間心理と社会性について古今東西の研究考察を交えたのちにその集合である社会、また社会を構成する一員としての個人へと還元し直す論展開が鮮やか。何より著者...続きを読むの社会心理学に対する憤りと熱量が終始マグマのように底流していて、圧巻の読み応えでした。
社会心理学を切り口にしているが、これは「人間とは何か」、「社会とは何か」について、従来拠り所とされてきた「常識」を覆し、筆者独自の視点からそれらの問いに答えた稀有の書である。 あまりに扱われているコンテンツが豊富過ぎて、一読しただけでは消化不良であった。何度も読み返しながら、自分の思考を深める機会に...続きを読むしたい。
・実験は発見を可能にする技術であり、証明するための道具ではない ・子どもが夜泣きで健康を崩すと、フランスの小児科医は子どもにではなく、親に睡眠薬を与えます。なぜでしょうか。夜泣きのために親が眠れずイライラする。すると親のストレスを敏感に子どもが感じ取り、夜泣きする。そこでまた親は眠れず、ストレスが強...続きを読むくなるという悪循環に陥ります。だから、この悪循環を断ち切ればよい。睡眠剤をもらった親が熟睡してストレスが減れば、子どもに対する態度が変化し、子どもも安心して寝付きがよくなる。 ・居合わせる人の数が多いほど、かえって救助行動が起こりにくい。自分がしなくてもほかの人がやるだろうと安心すると責任感が希薄になり、犯罪を阻止したり救助の手を差し伸べる気持ちが鈍る。 ・フロイト理論における無意識やエスは自我とは別の存在者であり、我々の知らないところで我々を操る他社です。このように常識的な意味にすり替えられてしまえば、無意識はもはや既成の世界観を脅かす危険な存在ではなくなる。なれたイメージにいったん変換・解釈された後に、新しい情報・経験は既存の世界観・記憶に取り入れられていきます。 ・態度概念と行動は必ずしも相関は高くない ・被験者は選択の「理由」を誠実に「分析」して答えました。自らがとった行動の原因が実際には分からないにもかかわらず、我々はもっともらしい理由を無意識的にねつ造するのです。自らを納得させるために妥当な「理由」を常識と照らし合わせて見つけるのです。 ・個人をターゲットにするのではなく、集団全体の社会規範を変化させないと影響力は長続きしない。各人を別々に考えるのではなく、集団に属す人々の相互関係を考慮する必要があります。 ・預言の失敗を機に精力的な布教活動が始まる。信者を増やせば、教団の進行を指示する人の数が増加し、認知不協和の低減が図れるからです。信者増加の事実は、とりもなおさず、進行内容が正しい証拠です。 ・「いやならいいですよ。強制する気はありません」といわれると、本当は外的強制力が原因で引き出された行為であるのに、その事実が隠蔽され、あたかも自ら選び取った行為だと錯覚するのです。 ・何らかの行為を行った後で、「なぜこのような行動をとったのか」と自問するときに、個人主義者ほど自らの心の内部に原因があったのだろうと内省し、自らの行動に強い責任を感じやすい。そのため行動と意識の間の矛盾を緩和しようと自らの意見を無意識に変更する ・いったん決断して行為を始めると、そのあとに考えを変えるのは想像以上に難しい。(インセンティブが変わっても行動は続ける) ・境界が曖昧になればなるほど、境界を保つために差異化のベクトルが、より強く作用する様子が分かります。人種差別は異質性の問題ではない。その反対に同質性の問題です。差異という与件を原因とするのではなく、同室の場に力ずくで差異をねつ造する運動のことなのです。 ・同期に入社した同僚に比べて自分の地位が低かったり、給料が少なかったりしても、それが意地悪な上司の不当な査定のせいならば、自尊心は保たれる。格差の基準が政党ではないと信ずるからこそ、人間は劣等感に苛まれないで住む。正しい社会ほど恐ろしい物はありません。社会秩序の原理が完全に透明化した社会は理想郷どころか、人間には住めない地獄の世界です。 ・合理的な個人の誠心も集団に取り込まれると変質し、原始状態に戻る。感情に踊らされ。無意識の働きにより各人は集団にとけ込み、主体性を失う。集団内の個人は自立性をなくし、集団全体がひとつの精神と化す。 ・人間は安定した認知環境を必要とする(シェリフ)。だから大将が曖昧なとき、不安定な状態を脱するために心理が変化すると考えました。 ・弟子(少数は影響減)の主張を退けておきながらも無意識的には影響を受けており、後になってその効果が現れたのです。影響減は忘れられ、影響内容のみが受容される。まるで時限爆弾か、一定の潜伏期間を経て発病するウィルスのようです。影響減が少数派だと、本当は他社から受けた影響の結果なのに、自らが選択した判断であるかのごとく錯覚する場合が少なくありません。 ・悪い行為だから非難されるのではない。我々が非難する行為が悪と呼ばれるのです。 ・単語の存在にされ気づかないほど短時間だけ示す場合でも、つまり被験者は何かが見えたと意識しない場合でも単語の情報が働いて、最初の単語と意味が似ている単語が選ばれる。しかし最初の単語を示す時間をもう少し長くして、どんな言葉かはわからないが何かを見たのは確かだと感じるようになると、今度は意味のにた単語ではなく、形のにた単語が選ばれるようになる。 ・何人かが同じ意見を表明する場合は、真実を反映しているのではと思い直す ・集団表象と集団におかれた個人の表象に区別すべきである ・恐怖の対象への同一化を通して自我を防衛するという精神分析学者アンナ・フロイトの「攻撃者への同一化理論」があります。子どもが幽霊のまねをしたり、しかる教師の表情や癖を模倣して生徒が自己防衛する例を取り上げ、攻撃の犠牲者から攻撃者へと変身して恐怖を乗り越えるといいます。 ・人の交流という意味では日本社会は閉ざされている。しかし文化面から考えると、外の要素を自主的にまたどん欲に取り入れてきた。そういう意味で情報の流れから見ると、日本文化は外部に開かれている。 ・間接的接触のおかげで外来情報がもとの文脈から切り離され、情報の具体的状況が無視されるので、日本社会の磁場作用を受けて意味内容が変化しやすい。 ・情報源と直に接しないので異文化を押し付けられにくい。ある時代において、変えたら日本人でなくなってしまう感じのする本質的あるいは中心的価値もあれば、少々変化しても問題ない周辺的価値もある。変化が中心的価値に抵触すればするほど、日本人の抵抗は強くなる。それに対して、中心部と正面衝突しない形で周辺部から変化が導入される時はアイデンティティの聞きが生じない。周辺部が緩衝地帯の役割を果たします。 ・慣れ親しんだ思考枠から脱するためには、研究対象だけ見ていてもダメです。対象を見つめる人間の世界観や生き方が変わる必要がある。研究の対象が外部にあって、それを主体が眺めるという受動的な関係ではない。 ・他社が行使する強制力として法・道徳が意識されると、社会生活は円滑に営まれない。外部から行使される暴力としてではなく、内面化された規範として現れる必要があります。社会制度は人間が決めた慣習にすぎない。しかしその恣意性が人間自身に対して隠蔽されて初めて、社会強制力は自然な形で効果的に機能する。 ・人間が作った秩序なのに、それがどの人間に対しても外在的な存在になる.共同体の誰にも、そして権力者にさえも手の届かない外部だからこそ、社会制度は安定する。誰にも自由にならない状態ができるおかげで社会秩序は、誰かが勝手にねつ造した物ではなく、普遍的価値を体現すると感じられる。人間自ら創り出しておきながら、人間自身にも手の届かない規則を作るというルソーが夢見た方式です。 ・時間はなぜ過去に向かって流れないのだろう。それは過去はすべて決定されていて再現する必要がないからだ、というのが私の答えである。同様に未来が現時点で厳密に決定されているならば、わざわざやってみる必要はない。やってみなければわからないから時間が進むのである。
『世界や歴史の根源的な恣意性あるいは虚構性を熟知していた点がその理由の一つだと思います。 つまり世界に普遍的な真理はない、我々の目に映る真理は人間の相互作用が生み出すという世界観です。 真理だから同意するのではない。悪い行為だから非難するのでもなければ、美しいから愛するのでもない。 方向が逆で...続きを読むす。同意に至るから真理のように映る。社会的に非難される行為を我々は悪と呼ぶ。そして愛するから美しいと形容する。共同体での相互作用が真・善・美を演出するのです。』 世界の虚構性といかに向き合うか。奥深く、めちゃくちゃ面白い。 ただ、自明と思われている世界の自明性を一枚一枚剥ぎ取ってしまい、そこには虚構性しか残らないことを明らかにしてしまった先に、何が待っているのだろうか。
本質という確たる存在があるのではなく、すべては関係性の中でとらえられるということが腑に落ちた。 日常でよくある、どこかに確かな真理たるものや結論、責任さがしをすることの虚しさが理解できた。 何回も読まないとなかなか理解には至らないが、人間と社会を考察するために非常に有益だった。
かつて同著者の『民族という虚構』(ちくま学芸文庫)を読んで非常に共鳴するところ多く、感銘を受けたので、この本を買ってみたのだった。「選書」に収まった地味なパッケージで、書名も、心理学に興味のある人以外は手に取らなさそうなものであるが、これは凄く良い本だ。できるだけ多くの方に読んで欲しい。いずれちくま...続きを読む学芸文庫として出版されることを期待する。 自然科学的手法だけでは解読しきれない「心理」の学を、「科学的見せかけ」にとらわれず、縦横に論を展開する本書は、心理学上の豊穣な実験データを収録すると共に、社会論であり、哲学でさえあるような、優れた知的営為の結実である。 ミルグラム『服従の心理』(ハヤカワ文庫)のあの実験も含め、たくさんの心理学実験を本書は紹介してくれるが、我々の常識をくつがえすようなものばかりで、これだけでも本書には価値がある。 そうした実験結果を受けて、西洋の近代がたいせつに育んできた「個人主義/自由/意志」といったものを、それ自体自立した閉鎖系としては、否定する。人間は常に、無意識レベルでも社会や他者とに影響されて行動する。「選好」ですら、ほんとうに自律的な個人の感覚だけに由来するものではないのではないか。 ただし、思うに、個人主義的思考を完全に廃棄してしまうことは危険だ。私は 、個人と場所/社会/他者を地続きの流動体として考えるが、モナド的「個体性」は消失するわけではなく、ただ、「静止的モデル」としてのそれの概念を批判したいと思う。 この本は他にも、実にたくさんの問題系を含有しており、思考の材料をほとんど無数に提供してくれる。 デュルケームに拠りながら、社会が正常に機能して多様化が進めば、独創的才能と同時に、個性的な「犯罪」が頻出するのも必然だ、とする指摘には驚かされた。もちろん、だから犯罪者を罰するななどということではなく、正常な社会が必然的に犯罪を生み出すという構造を明らかにしているだけだ。 とはいえ、最近の日本を見ていると、確かに「異常に猟奇的な」殺人事件など多いようだが、それらは割合に共通の傾向を持っていて、「個性」はあまり感じない。日本国内の世論は最近とみに類型化(二極化)してきていて、本当の「多様さ」とは違ってきていると思う。これでは、まだビッグな才能は出てこない。 ともあれ、他にも「異質性よりも、同質性が高まるから差別は生まれる」など、なるほどと唸らされるような指摘がたくさんあって、本書の有用性は語り尽くせない。本当に、みんなも読んでみたらいいと思う。
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