【感想・ネタバレ】庭師の娘のレビュー

あらすじ

メスメル博士のお屋敷に,庭師の父親と住むマリーは,修道院で勉強中です.だけど,マリーが考えているのは植物のことばかり.本当は父親のように庭の仕事をやりたいのです…….18世紀末のオーストリアで,時代や社会の制約にもめげず,自分の道をひらいていく少女を描く歴史フィクション.

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Posted by ブクログ

ネタバレ

18世紀半ばのウィーンという、時代も場所の設定も好みのど真ん中で、しかも作者がウィーンっ子だというのもあって、当時の風俗が活き活きと事細かに描かれており、読んでいる間は至福のひととき。

少年時代のモーツァルトが登場し、彼が出入りしているメスメル博士のお屋敷の庭師の娘がマリー・フローラ。庭師として非凡な才能を持つマリーだけども、当時の社会では女性の庭師なんてありえないし、そもそもマリーは父の意向で修道院に入る予定。
崖っぷちに立つマリーだけども、雇い主であるメスメル博士をはじめ、周囲の理解者のおかげで庭師として生きてゆく道筋をたてられるようになる物語。
これはまさにジングシュピールだと思った。魔笛みたいなノリの。美しい音楽と庭園があって、ヒロインの行く末にハラハラドキドキしながら、ラストはみんながハッピー。
もちろんこれは児童文学として成立しているので、多少ご都合主義的な筋運びはあっても、時代考証はとても現実的。少年モーツァルトが神童ゆえに大人たちから妬まれ疎まれる様子や事件、女性の生き方が現代に比べていかに選択肢が少なかったか、などが手抜きなくしっかり書かれているし、同時にフランスやイギリスから流れてきた新しい思想が人の生き方や社会のありかたを変えつつあることも巧みに取り入れてあって、なかなか読み応えがあった。

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2013年10月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

18世紀のウィーンを舞台に、女性の自立を描いた児童文学。主人公が庭師を目指すというところは現代的だけど、そのほかの設定はオーソドックスで、モーツァルト少年が絡まなければ、地味な印象だったろう。当時の人々の服装や生活をきちんと描いているところには好感を持ったし、後味の良い小説で子供に薦めやすいかなとは思う。
 しかし。パン屋の跡取り息子と結婚したら、パン屋のおかみさんとしての仕事が当然あるわけで、(当時としては)前衛的なデザインを売りにし、依頼主の庭を転々とする庭師の仕事と両立できるとは思えず、生活や風景描写がちゃんとしているだけに、その現実味のなさが浮いているように感じられる。そのあたりはいかにも現代の作家らしいとも言える。19世紀の作家なら、主人公は庭師を目指さず、修道院からの解放と恋愛の成就を前面に出してハッピーエンドとするだろう。
 庭を描いた児童文学としては『秘密の花園』や『トムは真夜中の庭で』を思わずにはいられないが、そこまでの物語的面白さはない。昔の少女が自立して職業を勝ち取るという点では『アリスの見習い物語』の方が良い。
 当時の様子や、モーツァルトの幼少時代の雰囲気(あくまで作者のイメージだが)が分かるし、ちょっとうまくいきすぎる感じはするが、こういうのもたまにはいいかもしれない。
 中村悦子の表紙の絵がとても美しく、内容にも合っている。

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2016年12月31日

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