感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
横からぽっと現れた口の達者な人物によってあっという間に国が乗っ取られ、逆らう者を手にかける様子が恐ろしかった。登場人物が人間ではなく、色んなパーツのより合わせで動いているため生々しさは少ないはずだけれど、ある日突然権力者の決定によって殺されてしまうことに変わりはないのだった。
言葉を利用して鼓舞し、揚げ足をとり、押し切り、隙をついて場を支配するフィル。ちょっとしたアイデアから始まったはずなのに、気付けば全員従わざるを得ない状況になっていて、日に日に力関係の変化していく様子が面白かったし同時に怖かった。
長い物に巻かれて自分可愛さに保身に走る者たちや、それとは逆に、おかしいことをおかしいと言える者たちの心理も書いていて、全員が非常に人間らしいのである。特に被害者を責め始めるところがリアルだ。おとぎ話のようではあるが、現実の世界で起きていることと大差はない。
意外だったのは創造主が登場したこと。争いが絶えなかったのに“お前たちは善なのだ”と語るのを見て、これは人間を信じている話なのだと思った。
あれだけ暴君だったフィルも朽ち果て、何も知らない新時代の者にとっては遺跡を見る時のような不思議な癒しとなっているラストが良かった。過去に学び、よりよい世界を夢見ることが何よりも必要な気がする。そして人類にはそれができるはずだという希望が含まれているように思った。
中篇だけれど味わい深かった。