【感想・ネタバレ】夏物語のレビュー

あらすじ

大阪の下町で生まれ小説家を目指し上京した夏子。38歳の頃、自分の子どもに会いたいと思い始める。子どもを産むこと、持つことへの周囲の様々な声。そんな中、精子提供で生まれ、本当の父を探す逢沢と出会い心を寄せていく。生命の意味をめぐる真摯な問いを切ない詩情と泣き笑いの筆致で描く、全世界が認める至高の物語。

※この電子書籍は2019年7月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。

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Posted by ブクログ

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オーストラリア人の英語の先生からおすすめされて読んでみた。

自分30代女、まさに今子供をどうするかについてもうかれこれ5,6年自分の気持ちが行ったり来たりしている、そんな私にとってヒントをくれるような本だった。 こんなに迷うなら子供を持つ資格なんてないんだろうなと薄々思ってた。
でも善百合子の『自分の子供が苦しまずにすむ唯一の方法っていうのは、産まれないでいさせてあげることだったんじゃないの』この一文を見てはっとした。
私もそうだと気づいた。生まれてもない子供が大切すぎて、だからこの世に存在させるのを躊躇ってるんだって、多分そうだって気づいた。
だからこそ、もっと主人公の気持ちの移り変わりを見たかった。なんで一回は善百合子の意見に賛同したのに、そこから産む決心をしたのかもっと詳しく知りたかった。

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2025年08月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

たしかに全ての生き物は生まれることを選べないのかもしれない、と思う。
「生まれたことを肯定したら、わたしはもう一日も、生きていけない」という善の言葉に、引き裂かれたような気持ちになった。

生きていくことととはなんなのか、間違うことはどこまで許されるのか、生まれてくることはなんなのか、全部分からないけれど、自分自身の人生をなぞらえながら考えを巡らさずにはいられない小説。

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2025年11月26日

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ネタバレ

乳と卵を読んだので、夏物語も読んでみたくなり、読んだ。

電車に乗って、知らない街を見た時にここに立つことはないんだろうなと自分も結構思うことあるなーとか、夏子の感情に共感できることがたくさんあったから、確かにと思いながら読んだ。

大人のエゴでなんとなく子供を作り、家庭を作り、幸せですみたいなのって結構あるなぁ〜と思った。子供は親を選べないし、子供ができたからにはそれ相応の覚悟が必要だよなと思った。僕の周りにも親のエゴで子供を作って親が子供を振り回しているみたいな構図の家は一定数いて、誰も産んでくれなんて頼んでないし、産まれなかったらよかったと思う人ってこの世の中にたくさんいるんだろうなと思った。だけど、巻子とか夏子•巻子の母親のように貧乏だけど、子供のことを考える親もたくさんいる。
ページ数が多いので、少し疲れたけど、とても勉強になった。

好きだったのは逢沢さんの父の言葉で、ボイジャーの話だ。
ボイジャーにはゴールデンレコードで地球にあるあらゆる音から何まで、入っている。地球も人間もいつかは消えてなくなる。今ももこうして生きているのに誰かの思い出の中で生きている奇妙な感覚になるというところ。
人類が生きたことは便箋みたいにどこかの宇宙人に届けることができるのかなと思って、少し元気出た。

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2025年09月26日

Posted by ブクログ

ネタバレ

半年ほど前に購入して読み始め、主人公の姪緑子ちゃんの日記がはさまれたり姉の描写があったりと視点が定まらないような感覚がして物語に入っていけず、序盤で飽きてしまい、数か月間放置していた。
久しぶりに電車で通う場所への連勤があったので、そのお供に手に取った。相変わらず序盤部分は入っていけなかったけれど、物語後半、逢沢が登場したあたりからぐぐっと引き込まれ、最後は夜中に目覚めてしまった日に読み、最後まで集中して読み終えた。
自分が産んだ子に「会いたい」と願った主人公。私は妊娠前には「会う」ということまで考えていただろうか。妊娠がわかってから「会いたい」という気持ちになったことは覚えている。
妊娠方法の選択、育児方法の選択、選択肢があるからこそ迷うし、迷うことができるし、選ぶことができる。

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2025年09月17日

Posted by ブクログ

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今のわたしにとっては、目を逸らしたくなるけど、逸らすことが出来ない、不思議な本だった。

p163
「人ってさ、ずうっと自分やろ。生まれてからずっと自分やんか。そのことがしんどくなって、みんな酔うんかもしれんな」
「生きてたらいろんなことがあって、そやけど死ぬまでは生きていくしかないやろ、生きているあいだはずっと人生がつづくから、いったん避難しなもうもたへん、みたいなときがあるんかもな」

p228「たとえば、言葉って通じますよね。でも、話が通じることってじつはなかなかないんです。言葉は通じても、話が通じない。だいたいの問題はこれだと思います。わたしたち、言葉は通じても話が通じない世界に生きているんです、みんな。」

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2025年08月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

【第一部 姉の巻子と豊胸】

一部は東京の夏子宅に、姉・巻子と巻子の娘・緑子が大阪からやってくるところから始まる。
巻子は現在スナック勤務。パーマのとれかかったパサついた髪に、色味の合わない脂浮きしたファンデーション。お金だってギリギリの巻子がわざわざ東京へ何をしにきたのか。それは「豊胸」のカウンセリングだった。

巻子は、肋骨の浮き出た背中、心配になる程薄い肩──要は老人のそれに近しい風貌をもって、豊胸がしたいのだという。

なぜ巻子は豊胸したいと言い出したのか。

夏子と巻子は貧困の出で、学生時代は生きていく為にバイト三昧。特に、姉の巻子は死ぬほど働いた。そして緑子ができて、夏子が出ていくまで3人で暮らしていた。

巻子には家族があった。学生時代には夏子が、今は緑子がいた。自分が身を粉にして守るべき存在がいた。でも、身体を、時間を、経験をすり減らして擦り切れて巻子に残った「巻子」という存在は何なのだろう。自分の人生を振り返った時に、これこそが自分だと言える経験や、物や、環境が巻子にはなかったのではないか。

巻子は「自己」をこの世界に確立する手段として豊胸を選んだのかな、と思った。

緑子を産み、ホルモンの変化でより一層黒々とした乳頭、痩せこけてハリのないデコルテ。
これまでの、巻子の人生の象徴が彼女の胸に表れていて、巻子は自分の人生を取り戻す為に豊胸に取り憑かれていたのだとわたしは感じた。

東京の夏子宅には、巻子の娘・緑子も一緒に来ていたが、緑子はある日から巻子と口をきかなくなった。代わりに筆談でコミュニケーションを取り、マイノートに日々思う事を綴っていた。

緑子の周りでは初潮が始まり、子宮や卵子、精子と受精卵などを学び始めた頃だった。緑子は体の変化が嫌だった。とても気持ちが悪かった。子供を産むために身体が変わることがおぞましかった。

緑子は東京旅行中も口を開かなかったのだけど、酔っ払った母・巻子に絡まれ、東京最終日の前日に爆発した。
「お母さん!ほんまのことをゆうてや!」そう叫んだ緑子は、捨てるはずだった卵パックの中から卵を取り出しして振りかぶり、自分の頭に打ちつけた。何度も、泣きながら卵を打ちつけた。

最初に読んだ時は緑子の衝動的な行動に目がいって卵パックに着目してなかったのだけど、今こうして反芻しながら感想を書いてる時に、あの卵は受精卵なのだと気付いた。

緑子は、受精卵を自分の頭にぶつけて、自分の存在を壊したい、無いものにしたい衝動に駆られてたのだ。

お母さんがホルモンの影響で変わった胸を気にするのも、ウチが貧乏でお母さんが働き詰めなのも、ぜんぶ、自分が存在しているからではないのか。自分が無くなれば、お母さんはもっと楽にできるのではないか。

緑子が久しぶりに発した「ほんまのことをゆうて!」は、自分は生まれてよかったのか、いない方がいいのではないか、という葛藤の叫びだった。

母・巻子は「緑子、ほんまのことってなに。ほんまのことって」と困惑してる様だったが、それでも緑子と同じように頭に卵をぶつけて、緑子の髪を撫でて、背中をさすり続けた。娘の行動が不可解でも、一生懸命同じ目線に立とうとするのを見て「ああ、お母さんだなあ」と感じた。

緑子のノートは秘密のノートだったから、自分の娘が抱えていた事の全貌を巻子が知ることはないけど、愛娘の「私は産まれてきてよかったんか」という全身全霊の問いを見過ごす巻子では無いと思う。巻子はこの時に、豊胸することをやめたのではないかな。
緑子を産んで変わってしまった身体も、これまでの人生も、全部、抱えて生きていこうと。

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【第二部 子供を産むということ】

二部は、一部から10年以上の月日が経った夏子の話。38歳の夏子は、相変わらず独身でパートナーもおらず、物書きとして暮らしている。

夏子はいつからか、自分の子供が欲しいと思い始めていた。ある時から不妊治療のブログを読み、精子提供(AID)を調べ、AIDで生まれた人達の会に足を運ぶことから物語は動いていく。

精子提供ボランティアを名乗る恩田という男のねっとりした気持ち悪さや、夏子の友人でシングルマザーの遊佐の話など、二部は色々な人が出産/子供を持つことに対して様々な価値観を持って登場する。

中でも、善 百合子はこの物語にとって欠かせないだろう。
彼女はAIDの出自だが、養父によってかなり激しい性虐待を受けて育った。反出生主義の彼女は、子供を産むことは親のエゴで暴力的な行為だという。

善百合子は夏子に問う。「あなたはどうして、子供を生もうとおもうの」

夏子は「わからない。でも、ただ───会いたいのだと思う」と答えた。

今だって淋しいわけじゃ無い。このまま1人でもいい。でも、このまま会わずに死んでいいのか。自分の子を知らずに死んでいいのか。

夏子がいつかの夜、酔いながら書き殴った自問自答のメモ。

「わたしはほんまに
わたしは会わんでええんか後悔せんのか
誰ともちがうわたしの子どもに
おまえは会わんで いっていいんか
会わんで このまま」,p237


わたしはこのメモを見た時に、生むためのどんな理由を並べられるより納得感があった。

わたし自身も、友人の出産や自身の適齢期を迎えて、「子を持つ」ということについて何度か考えたことがあるし、子を産みたい人とそうでない人の価値観の差は気になっていた。なぜなら、私は人生で一度も産みたいと思ったことのない側の人間だから。

私は反出生主義でもないし子供嫌いでもない。友達の子は可愛い。でも、経済事情云々に関わらず、自分の身体で子供を生もうとは思えなかった。少なくとも今は。

最初に理由を探し始めた時は、妊孕性への拒絶感や母親業への自信のなさなど含めて色々考えたが、夏物語を読んで、それだけじゃないと気付いたことがある。

「みんな、賭けをしているようにみえる。
自分が登場させた子供も自分と同じかそれ以上に恵まれて、幸せを感じて、そして生まれてきてよかったって思える人間になるだろうってことに、賭けているように見える。」,p525

善百合子が夏子に放った言葉だ。
わたしも、「自分の子」という観点に関してはこう思ってる節がある。約束されていない未来、何が起こるかわからなくて、でも二度と後戻りはできない。

賭けの末、最悪の結果だったとしても背負って歩いていく責任が、この世で一番大きな責任が子を持つも決めた瞬間から発生する。

「ある小屋に10人が眠っている。あなたは全員を起こすか、眠らせておくか選べる。そのうち9人は、目覚めたことに感謝するが、1人は目覚めたが最後、死ぬまで苦しんで生きることになる。それがどの子なのかはわからない。でも必ず1人はそうなることをあなたは知っている。

子供を産むというのは、その1人を犠牲にしても残りの9人を起こせる人間なのだ。」

百合子の例えは的を得てると思った。一点違うとすれば、わたしは、起こすことを暴力的とまでは思わない。百合子の話を理解しながら、それでも起こせる人間は、10人のうち誰を起こしたとしても、その責任を背負っていく覚悟が少なからずあるのだろう、多分。無いと困る。

勿論、性欲の延長で生まれた子も、捨てられる子も、目の当てられない環境の子もいるが。
でも、真剣に考えて考えた末に子供を望んだ夏子のような人を残酷だと思うことはできない。

夏子が最後に善 百合子に言った、
「忘れるよりも、間違うことを選ぼうと思います」

とても格好良かった。100%エゴでも、たとえ自分が間違っていたとしても、それを背負う覚悟があるならもう何も言うことはない。

善百合子の言うことも、夏子の叫びも、どちらの言い分も、もの凄く腑に落ちる。正しいとか正しくないとか、そういうことじゃない。

女性性(妊孕性)を持ちながら別々の答えに到達した2人の価値観に対して、片方の言い分だけ共感する人の方が少ないのではなかろうか。
2人とも、形はちがえど、子供に対してもの凄く真摯に向き合っているなと感じた。

第二部は、女性である以上人生と出産を切り離すことはできないが、産むことも、産まないことも、己の責任の下に誠実に向き合っていきたいと思わせてくれるストーリーだった。

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終わりに

最初は(うーん面白くない...)と思っていたけど、二部に入ってフェミニズム的要素や産むことへの様々な観点が出てきた辺りからグッと引き込まれた。

子を産む/産まない(絶対に産みたくない、絶対に産みたい、も含む)ことについて考えたことのある人には二部から読んで欲しい。一部はぶっちゃけ飛ばしてok。

考え方が180度変わる!とかではないのだけど、自分の考えを補強したり、あるいは新しい視点を手に入れることができるのではないかなぁと思う。

ワクワクする!めちゃくちゃ面白い!といったタイプの本ではないけど、これからの人生を考えたときに読んでおいてよかったと思える一冊だった。

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2025年08月02日

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