【感想・ネタバレ】Humankind 希望の歴史 下 人類が善き未来をつくるための18章のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

 性善説・性悪説。人類の見方は歴史的に様々な見方をされてきたが、どちらかというと性悪説を元にした見方が多かった。ホッブズの「万人の万人に対する闘争」など、過去の様々な事象はことごとく人間の邪悪な心理によってなされてきたと描かれてきた。しかし、本当にそうだったのだろうかとブレグマンは考える。そして、多くの事象を掘り返していくとことごとく真実は逆で、人々は優しく、協力的で、善人であったことを示す。ネアンデルタール人は邪悪なホモ・サピエンスにより虐殺されたという見方は、単にホモ・サピエンスがよりコミュニケーション能力に長けており、生き延びるための知恵をより多くの個体で共有できたことによってではないかと考える。また、スタンフォード監獄実験の結果は実験者による意図的なシナリオによって狂乱が生み出されていたことが暴かれた。BBCでの再現実験では囚人と看守は協力的な関係を築き、共に和やかに過ごしていた。(番組としては何も起こらないつまらないものとなった)さらに、戦争においては人々が本当は銃を撃ちたくない、戦いたくないと感じており。実際の発砲率が低かったことも示している。クリスマスには休戦し、共に歌を歌い、友情を育んでいたことも示している。本当に多くの事例を挙げてブレグマンは何を示したかったのか。それは現在の社会システムは「性悪説」を前提に人は利己的であるがためにそれを制する目的で設計されているが、そうするよりも「性善説」に依拠した協力と信頼を取り戻すことによって本来あるべき社会システムを目指そうということではないか。狩猟採集時代、人類は常に移動することで様々なグループと出会い、共に生き延びてきた。あるとき、「豊饒の地」を見つけた人々は定住を開始し、農業を始めた。ここから自分の領地であると線を引き出す人が現れ、私有財産が生まれ、闘争が起こり、首長が必要とされた。そしてそれが人種・国境という区切りとなり、よそ者に対する偏見と嫌悪にあふれた世界ができあがった。本当はみんな「普通の人」なのに交流・コミュニケーションがないために相手を知らないだけなのだ。みな、固定観念や幻想に取り憑かれて、多元的無知な状態にあるだけなのだ。だからこそ国境を取り払い、人々が縦横無尽に交流する社会を築き、共に協力・共有して真の「豊饒の地」を目指していくべきだとブレグマンは示したのだと思う。そしてそれを成し遂げることは「性悪説」をはびこらせた人間が少数だったことから、我々が少しずつでも変わることができれば成し遂げられ得るのだと締める。
 この本でも多くの事例をこれでもかと示した上で、「本当は何が真実で、何を目指すべきなのか」をブレグマンは書いている。遠目から眺めているだけでは気が付けないことは多くあり、やはり現地現物をリアリスティックに観察することでしか気が付けないことは往々にしてある。現実を直視して見つめ直すこと、「思いやり」を持って物事に接することを重視して世界と対峙していくことで真に必要なことを掴めるようになりたい。

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2022年02月04日

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