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Posted by ブクログ 2024年03月02日
ー 良いことをすると、気分が良くなる。世界に生きていると言うのは、素晴らしいことだ。私たちは食べ物を好むのは、それがなければ飢えるからだ。セックスを好むのは、それをしなければ絶滅するからだ。人助けが好きなのは、他者がいないと自分もいなくなるからだ。良いことをすると気分が良くなるのは、それが良いことだ...続きを読むからだ。
これが本書の主張の全てだろうなと思う。最強の説得力。生まれながらに「気持ち良く」感じる行為は、本来人間に期待され備わった性質なのだから、良いことした後の爽快感は、性善説の証明になるという事。
著者は「スタンフォード監獄実験」や「ミルグラムの電気ショック実験」など、人間が服従により悪意を果たすような実験、傍観者効果のように、自己防衛本能を発揮する利己的な存在である事に反証するが、何もこうした議論をせずとも、前述の内容で語れてしまえそうな破壊力がある。
では、なぜ悪事は存在するのか。
人間は、生まれつき脳内に同族意識の芽を備えている。同じ色の実験だが、確かに、スポーツではユニフォームの色で敵と味方を分けている。また、乳幼児は生まれながらに外国人恐怖症の傾向を備えている。共感こそが、私たちを最も親切で最も残虐な種にしているメカニズムだという。〝善事は、味方にしか及ばない“
ならば、敵と味方を区別する境界線を知っておきたい所。それこそが、共通の「物語」だ。数百万人の人々とともに、並外れた規模で協働するために、宗教や資本主義、国家主義を創造した。これはユヴァル理論だが、しかし「物語」には、強制装置が必要だと著者はいう。いや、必要とは言ってないが、現実的に、暴力とセットだと言うのだ。暴力の脅威によって強化されている。例えば、お金はフィクションかもしれないが、請求を無視すれば、当局が追いかけてくる。強制装置には、相互監視社会や同調圧力もあると思う。
自発的、そうでなくても強制的に、敵と味方は分かれていく。限定的な善意は、この境界線の不安定さに揺さぶられ、時に暴走する。正義の快楽、とは敵や違反を罰する事だ。気持ち良い事は、本来人間に備わった性質。ここでの暴力は正義ではないか。なんと真逆。これを知った上で、この二面性と境界線の克服こそ、必要な論点である。
Posted by ブクログ 2024年02月14日
人間の善性が見失われる現代への布石を投げかける一冊。
これは本当に不思議なことで、人間の悪性を前提にした設計があまりにも多いことに気づき驚かされるとともに、かなりの勇気を伴う作業にもなるが、こんなにも平和な、甘温い世界が目の前にあるのかもしれないとの希望的な話もない。
Posted by ブクログ 2024年01月27日
上下巻の感想
上巻は過去の実験、論文が嘘、誤りだったという内容がメイン。
多くは以前、聞いたり、読んだりして、信じていたもので衝撃を受けてしまった。
下巻は人を理解する事でこんなに素晴らしい事が起きたという例がいくつか紹介され、邦題の通り、希望を抱く内容だった。
読み終えて、
これまで信じてき...続きを読むた物が嘘なら、この本も嘘?
一体、何を信じればいいの?、?
と、思いつつ、どうせ騙されるなら、希望を持った方がいいよねという結論にしました。
Posted by ブクログ 2023年12月28日
高揚する本だった。
世界は大いなる善意で回っている。
ドイツ軍の人間ばなれした戦闘を可能にしたものは「友情」
テロリストにさえ当てはまる
自由を与え、あらゆる年代と能力の子どもが入り混じったコミュニティの中で、コーチやプレイ・リーダーが支援すれば、子どもは最もよく学ぶ
大人は、子どもに自由を与...続きを読むえる勇気を持っているかどうかだ
ベネズエラの自治体トレス、とある候補者が、当選したら権力を住民に譲り渡すとして、本当に当選して、わたした。
そこから急速に発達していった。
次にブラジルのポスト・アレグレで起きて、今は世界中に広がっている
ノルウェーの刑務所システムは再犯率が世界最低
割れ窓理論はベニヤ理論の一種
オールポートの接触理論、交流には効果がある
著者の人生の指針10ヶ条
1. 疑いを抱いた時には、最善を想定しよう 疑わしきは罰せず
2. ウィン・ウィンのシナリオで考えよう
3. もっとたくさん質問しよう 自分がしてもらいたいと思うことを他人にしてはいけない。その人の好みが自分と同じとは限らないからだ
4. 共感を抑え、思いやりの心を育てよう 瞑想によって思いやりを鍛錬できる
5. 他人を理解するよう努めよう。たとえその人に同意できなくても
6. 他の人々が自らを愛するように、あなたも自らを愛そう
7. ニュースを避けよう ネット、SNSを制限
8. ナチスを叩かない
9. クローゼットから出よう、善行を恥じてはならない
10. 現実主義になろう
Posted by ブクログ 2023年11月16日
日ごろから「たぶんそうなんだろうな」と思っていて、それとは違う出来事に出会うと、「きっとこれは稀有な出来事なのだ」と思うようにしていた自分の考えが、根底から覆された、自分にとっては衝撃的な書物であった。
Posted by ブクログ 2023年10月29日
人間は性悪説ということをとるとそれがマスコミや論文によって広まるとそれに基づく社会形成になってしまい、逆もしかり。ただマスコミはセンセーショナルな性悪説を取り上げがちになる。
また人間の共感力が強く、船上で他人を殺すのは、遠隔の武器であればあるほど良いし、殺戮の目的は占有や家族といった身近な人を守る...続きを読むためであり、共産主義やナチズムではない。もちろんトップの人間はそのようなことも考えない目的のためには何でも行うタイプであることは多いが、彼らは共感力を利用して人を動かす。
そのことを利用させないためには、直接の対話が必要となる。
Posted by ブクログ 2023年10月08日
共感はスポットライト、見たいものしか目に入らない。誰かに共感するということは同時に誰かを否定することにつながる。
真実こそ信じる道。自分の理想が全てではない。
ニュースを信じない。疑ったときは最善を想定する。
結論、思いやりが全て。
Posted by ブクログ 2023年06月08日
人は善である。そんなこともない、と思ってしまうのは、誤った情報を浴びせられているからか。では、なぜ、そんなことをするのか。反対のことをしたほうが面白い、うける、という思いを持つ人がいるという性質もあるのだろう。人とは、という哲学、は尽きることがない。自分なりの考えをつきつめるには読書だ!
Posted by ブクログ 2023年01月02日
希望の書。著者は言う、「わたしたちが、大半の人は親切で寛大だと考えるようになれば、全てが変わるはずた。」
現在の社会の様々なシステム、民主主義、資本主義、教育、刑務所、介護・・・全ては「人間は本質的に利己的で、攻撃的で、すぐにパニックを起こす」という「最悪な人間を想定した」システムである。
こ...続きを読むれに対して「大半の人は親切で寛大」だと考えて政治(税金の使い道を決める)、刑務所、介護施設・・その他のシステムを動かし始めた人たちがいる。そしてそれは、前者よりもはるかに上手く機能している。そういう幾つかの実践を記す。
訳者あとがきが本書を完璧にまとめてくれている。
Posted by ブクログ 2022年06月12日
少し前にわたしは、2013年に母国語であるオランダ語で綴った自著『進歩の歴史』を手に、腰を下ろした。それを読み返すのは苦痛だった。その本の中で少し前にわたしは、二〇一三年に母国語であるオランダ語で綴った自著『進歩の歴史』を手に腰を下ろした。それを読み返すのは苦痛だった。その本の中でわたしは、フィリ...続きを読むップ・ジンバルドによるスタンフォード監獄「実験」を、何の非難もせず、善人が自発的に怪物に変わる証拠として取り上げた。明らかに、あの実験の何かがわたしの心を捉えたのだ。
わたしだけではない。第二次世界大戦後、ベニヤ説の変種がいくつも生まれ、それらを裏付ける証拠はますます堅牢になっていくように見えた。スタンレー・ミルグラムは電気ショック発生器を使ってそれを証明した。メディアは、キティ・ジェノヴィーズの死の後、ベニヤ説を大々的に伝えた。そしてウィリアム・ゴールディングとフィリップ・ジンバルドはベニヤ説に世界的名声をもたらした。こうして、トマスホッブズが三〇〇年前に主張したように、悪はすべての人間のすぐ内側でくすぶっていると考えられてきた。
しかし今、殺人事件と実験の書庫が開かれ、ベニヤ説が完全な間違いだったことがわかった。ジンバルドの監獄の看守は?彼らは俳優のように演技をしていた。ミルグラムの電気ショック発生器の被験者は?彼らは正しいことをしたかっただけだ。ではキティは?彼女は近隣の人の腕に抱かれて亡くなった。
これらの人々のほとんどは、人助けしたかっただけのように見える。人助けできなかった人間がいるとすれば、それは科学者や編集長や、知事や刑務所長といった責任者だ。彼らは嘘をつき、操作した、怪物だった。これらの権力者は自らのよこしまな願望から人々を守るどころか、全力を尽くして人々を互いと敵対させたのだ。
このことはわたしたちを、人はなぜ邪悪なことをするのかという本質的な問いに引き戻す。フレンドリーな二足歩行のホモ・パピーはいかにして、監獄やガス室を作る唯一の種になったのだろう。
前章までで、人の仮面をつけた悪に誘惑されやすいことを学んだ。しかしこの発見は、別の疑問を生じさせる。歴史の流れのなかで、なぜ悪は、わたしたちを欺くことにこれほど熟達したのだろうか。どのようにして、わたしたちを互いに宣戦布告させるに至ったのだろうか。
第3章で紹介した我らが「子イヌの専門家」、ブライアン・ヘアの観察が、わたしの頭から離れない。彼はこう言った。「わたしたちを最も親切な種にしているメカニズムは、同時にわたしたちを地球上で最も残酷な種にしている」
■史上最悪の虐殺へ駆り立てたのは友情だった
この考えをわたしが理解するまでには長くかかった。
オランダで育った一〇代の頃、わたしは第二次世界大戦を、「ロード・オブ・ザ・リング」の二十世紀版、つまり、勇敢なヒーローと邪悪な悪党とのスリリングな戦いとして思い描いていた。しかしモーリス・ジャノヴィッツが明らかにしたのは、異なる状況だった。 彼が発見した悪の起源は、堕落した悪人のサディスティックな性癖ではなく、勇敢な兵士の団結だった。第二次世界大戦は勇壮な戦いであり、友情と忠誠心と団結、すなわち人間の最善の性質が、何百万という普通の男たちを、史上最悪の虐殺へと駆り立てたのだ。
ブルームによると、共感できる相手は、救いがたいほど限られている。共感は身近な人に対して感情である。わたしたちが匂いをかぎ、目で見て、耳で聞き、触れることができるに人に対して。家族や友だち、お気に入りのバンドのファン、そしておそらくは、町で見かけるホームレスに対して。さらにはイヌに対しても。畜産場で虐待された動物の肉を食べながら、わたしたちは、子犬を抱いたり可愛がったりする。また、テレビが映す人々に対しても共感を覚える。悲しげな曲をBGMにして、カメラがズームインする人々に対して。
ブルームの本を読むと、共感は何よりもニュースに似ていることに気づく。第1章では、ニュースがスポットライトのように機能することを述べた。共感が、特別な人か何かにズー ムインしてわたしたちを騙すように、ニュースは例外的な何かにズームインして、わたしたちを欺く。
一つ確かなことがある。それは、より良い世界は、より多くの共感から始まるわけではないということだ。むしろ、共感はわたしたちの寛大さを損なう。なぜなら、犠牲者に共感するほど、敵をひとまとめに「敵」と見なすようになるからだ。選ばれた少数に明るいスポットライトをあてることで、わたしたちは敵の観点に立つことができなくなる。少数を注視すると、その他大勢は視野に入らなくなる。
これが、 子イヌの専門家ブライアン・ヘアが語ったメカニズムだ。わたしたちを地球上で最も親切で最も残虐な種にしているメカニズムだ。そして悲しい現実は、共感と外国人恐怖症が密接につながっていることだ。その二つはコインの表と裏なのである。
権力を握る人々にも、同じ傾向が見られる。彼らは脳を損傷した人のような行動をとる。普通の人より衝動的で自己中心的で落ち着きがなく、横柄で無礼。浮気する可能性が高く、他人にもその気持ちにもあまり関心がない。加えて彼らは厚かましく、人間を霊長類の中で特別な存在にしている、顔の現象を往々にして喪失している。
つまり彼らは赤面しないのだ。
権力は麻酔薬のような働きをして、人を他者に対して鈍感にするらしい。
あるアメリカの人類学者は、狩猟採集民の社会についての四八の研究を分析して、マキャヴェリズムはほぼ常に惨事を招く、という結論に至った。彼はその理由を説明するために、狩猟採集をしていた時代にリーダーに選ばれるために必要とされた特徴を挙げた。それは次の通りだ。
寛大である
勇敢である
賢明である
カリスマ性がある
公平である
偏見がない
信頼できる
機転が利く
強い
謙虚である
狩猟採集民の世界では、リーダーは一時的な存在にすぎず、重要なことは皆で話し合って決める。後にマキャヴェッリが述べたような愚かな行動をとる人は、命を危険にさらすことになる。利己的な人間や強欲な人間は部族から追い出され、飢餓に直面する。結局のところ、食料を独り占めしようとする人とは、誰も食料を分かち合いたいとは思わないのだ。
しかし、その後デシの疑念を裏づける研究結果が続々と報告されるようになった。一九九〇年代後期にイスラエルのハイファで行われた実験を紹介しよう。舞台は保育所だ。親の四人に一人は、子どもの引き取りが遅く、保育所が閉まってから来ていた。そのせいで子どもはぐずり、職員は残業を強いられた。そこで保育所は親に罰金を科すことにした。遅刻するたびに三ドルだ。
良いアイデアだと思えるだろう。親にしてみれば、遅刻しない理由が二つになったのだ。すなわち道徳的な理由と、経済的な理由である。
この新たな方針が発表されると、お迎えに遅れる親の数は……増えた。じきに親の三分の一が保育所が閉まってから迎えに来るようになり、数週間のうちにその割合は四〇パーセントになった。理由ははっきりしていた。親たちは遅刻のたびに支払うお金を、罰金ではなく追加料金と解釈し、子どもを時間内に引き取る義務から解放されたのだ。
その後も多くの研究が、デシの発見を裏づけた。つまり、状況によっては、人が何かをする理由は多ければ多いほど良いというわけでないのである。時として、それらは互いを打ち消す。
■人生の指針とすべき10のルール
1.疑いを抱いた時には、最善を想定しよう
2.ウィン・ウィンのシナリオで考えよう
3.もっとたくさん質問しよう
4.共感を抑え、思いやりの心を育てよう
5.他人を理解するよう努めよう。たとえその人に同意できなくても
6.他の人々が自らを愛するように、あなたも自らを愛そう
7.ニュースを避けよう
8.ナチスを叩かない
9.クローゼットから出よう。善行を恥じてはならない。
10.現実主義になろう
Posted by ブクログ 2022年03月21日
寛容に生きること、利他的であることを誇っていい。そういう善なる行為や思いに対して、背中を押してくれる本だった。心に信念の灯火が灯った。
上下通して、一番心に残ったのは、教育とマンデラを扱った章でした。
Posted by ブクログ 2022年02月13日
著者の人生の指針10か条
1.疑いを抱いた時には、最善を想定しよう
2.ウィン・ウィンのシナリオで考えよう
3.もっとたくさん質問しよう
4.共感を抑え、思いやりの心を育てよう
5.他人を理解するように努めよう。たとえその人に同意できなくても
6.他の人々が自らを愛するように、あなたも自らを愛そう
...続きを読む7.ニュースを避けよう
8.ナチスを叩かない
9.クローゼットから出よう。善行を恥じてはならない
10.現実主義になろう
Posted by ブクログ 2022年02月10日
そもそも人間の本質は「善」であると唱えている。
「性善説」を人類の歴史、集団心理などから切り込んで持論を展開。
人間は善の仮面をつけた悪に誘惑されやすいという。
なぜか。
それは私たちは共感することで寛大さを失い、少数者に対してその他大勢を「敵」と見るからだという。
その心理状態なんとなくわかる。
...続きを読む興味深い実験があった。
子供たちに赤と青のTシャツの好きな方を選ぶ実験をすると、青のTシャツを多く選んだ子達が、赤のTシャツを選んだ少ない方の子達をいじめるようになる。
人間の心理は既に子供のころに、このような心理になることがわかる。
だが、人間の本質は「悪」ではなかった。
過去の心理状態の実験の数々は真実でなかったことをブレグマンは独自目線で解き明かしていく。
無人島に着いた少年たちが残虐な行為をしていく「蠅の王」では、実は少年達は互いに思いやり、生き延びたこと、「スタンフォード監獄実験」では看守役が囚人を殴るのは役を演じていたことがわかる。
他者に寛容でお互いが良い関係であること、
それは、全ての人が勝者になる。
許すことができれば反感や悪意にエネルギーを浪費しないですむ、
「人生の指針とすべき10のルール」の中で人を人として更生させていく矯正施設ノルウェー刑務所の例を挙げている。
刑務所の所長が言う。「汚物のように扱えば人は汚物となる、人間として扱えば人間らしく振舞う」と。
この刑務所の出所後再犯率の低さは世界最高だという。
更生後の人は社会で働き税金を納め、再び犯罪を犯すことが低くなっている。
これぞウィンウィンの関係になると説く。
そして人は思いやりの心をもち寛容である、弱気者に手をさしのべる、本来そういう生き物であると結論づけている。
それでは地球温暖化や凶悪事件など人類が起こした問題はどのように捉えたらよいのか。
歴史が繰り返した数々の問題があるからこそ、人間の本性の原点に目を向けるよう気づかせてくれたのでは。
私たちにできることは何か。
他人の失敗や発言を非難したり、ダメなところが目についてしまいがちな心に、思いやりを持って接していく、よいところを見る、そういうところから始めてみようと思う。
人は人を許し、受け入れて前を向かって歩いていく、人に対して新しい視点に立ち接していくことを教えてくれた、とても良い本に出会えた。
多くの人に読んで欲しい本です。
Posted by ブクログ 2022年02月07日
ハラリ大先生の帯文通り「人間観を一新させてくれる」一冊。
「人間の本質は善か?」というシンプルかつ大きな哲学的問い、すなわち性悪説(ロック派)と性善説(ルソー派)どちらに寄って立つべきかを、様々な角度から問うていく。
往々にしてロック派の論拠とされる数多の歴史的通説(ex:イースター島の悲劇、ホロ...続きを読むコースト)や心理学実験(ex:ミルグラム、スタンフォード監獄実験)、多くの凶悪事件(ex:キティ殺人事件)の真相を徹底的に暴き出すことで、これらが(あるいはこれらに対する意味認識が)歴史家や教授、メディアがつくりだした虚構であると断言する。
一方で、第一次世界大戦中のクリスマス事件をはじめ、ルソー派に寄って立つべき論拠を多数引用することで、「人間の本質は善である」と一貫して主張する。
有名な学説、実験の数々が実は恣意的に造られたものであったこと、そしてそれが暴かれていく過程に知的好奇心が多いに湧き立つとともに、まさに帯文通りページを繰るごとに「人間観が一新されていく」感覚を得ることができた。
上下巻通して興奮止まらぬ読書体験で、本当に読んでよかった。全ての人に勧めたい、素晴らしい作品。
Posted by ブクログ 2022年02月06日
めちゃくちゃいい本でした。
「人類の性質は、悪なのか、善なのか」という永遠の問題について、歴史や様々な研究から、丁寧に考察した本で、現代の「希望の書」だと思いました。
ぜひぜひ読んでみて下さい❕
Posted by ブクログ 2023年10月19日
善は伝播する。本書に触れて人間の本質に関するシニカルな見解を見直し、本来の現実主義になろうという呼びかけがまさに、人を良い方向に向かわせる伝導書にの役割があるんだなと。
しかし、少し気を抜くと欺かれるな、出し抜かれる前に蹴落とせなんていう競争社会に飲み込まれそうになるこの時代。自分の心持ちは本書で...続きを読む得ることのできた知識を糧に、人の善を信じるよう留めて行けるように邁進すべし。少し欺瞞的になりそうですが、ぎちぎちに追い込まず自分のできる範囲から。
Posted by ブクログ 2023年10月20日
上巻で、人は性善説に基づいていると説いており、この下巻では、現在の戦争などがなぜ起こっているのかを解説し、どうすべきなのかが説明されています。
狩猟採集時代には、人は皆平等であったのが、農耕が始まることで、なぜ身分差や貧富の差が発生したのか。それは、元々肥沃な河川流域で、安定した生活を始めた人々...続きを読むが、人口が増えることにより、得られた食物等を巡って争いが起こり、それを統治するために神などの概念を持ち出したのだとか。
現在も資源などを巡って争いが絶えません。しかし、過去に日本やドイツが敗戦が濃厚であるにもかかわらず、兵士が戦い続けました。それは、宗教や思想、統治者への信仰などではなく、仲間を助けるためだったことが分かってきています。仲間意識、つまりよく分かり合えている者同士であることが重要なんですね。争いが起こるのは、その隣人のことをよく理解していないからだと、筆者は述べています。言葉や文化が違えども、それを理解し合う、理解しようと務めることで、争いはなくなるのだとか。その意見には共感するものの・・・
Posted by ブクログ 2023年01月22日
下巻では、上巻での見解(人は基本的には性善であるが、騙されて悪に走ることもある)を踏まえ、今後の社会設計をどうしていくべきか、実例を交えながらまとめられている。
人は本来性善的である、という前提のもとに考えられた社会設計(政治、経済、教育等)において、多くがポジティブな結果をもたらしているとのこと...続きを読む。こういった事例を見ていると、人間に対するポジティブな見方が強まっていくのを感じる。
Posted by ブクログ 2022年10月16日
上巻からの続きです。上巻の際には過去に実際にあった実験の結果などを詳細に検証して、例えば捏造や恣意的なものを被験者に前もって伝えるなどで本来の実験があるべき条件で実施されていないために結論は無効である、つまりその試験は結論を導く以前に成立すらしていないと書いていた章がかなりありました。それらが世の中...続きを読むを席巻しているため性悪説が基本となっていると。
下巻ではどのように人は考えて行動すればよりよい世界になっていくのかということが、捏造なき試験や史実とともに考察されていきます。より良い世界とは私が下巻を通じてふわっと感じた感覚であって、実際に具体的に「良い世界」の定義は個人間で違うでしょうが。
16章テロリストとお茶を飲む は特に興味深い章でした。人は右の頬を打たれたら左の頬を差し出す事ができれば最終的には吉となる。それを個人間だけでなく地域や国の規模として出来ればもっと世の中は良い方向に進むのでしょう。
感想を書くのはとても難しいのですが、大半の人は親しい人には優しく、自分から遠くなるほど敵意を持ったり、または逆に無関心になるという事。外国人恐怖症や異民族浄化などはそのせいでしょう。そのような事をなくすためには対話、コミュニケーションがとても大事だということ。書いてしまえば、そんなの当たり前過ぎでて誰でも知ってるわと言われそうですが、大半の人は私も含めてそれがをするのが難しく、出来ていなのではないでしょうか。善い行いも悪い行いも水面の波紋のように連鎖していくものなので自分がよい行いをすることを積極的に人の前でやるという事も大事なようなのでポツポツと実行していこうかなと思います。
本書の中では今の経済や社会の仕組みなどにも多く言及していますが、そこを読むと今の世に絶望を感じてしまいました、残念ながら。
Posted by ブクログ 2022年09月19日
人間は元来は平和を好む友好的な生き物であり、通常、対立構造に置かれそうになっても、平和的手段で解決をしようと試みる。
ただ、そうした友好的な性質が故に、集団に対して抵抗するということがやや苦手であり、時として多元的無知と呼ばれる、誤った方向への暴走が見られる。
こうした暴走は、私有財産に端を発し...続きを読むた階級社会の登場により、社会構造が歪められたことで発生しやすくなったと筆者は主張する。
これに対する対策として、共有地の設定があるが、長らくこの共有地は、共有地の悲劇と呼ばれ、全くうまくいかないという意見が当たり前であったが、その意見すらも、人は生来的に悪であるという思想からくるものであり、現実社会での共有地は、暴走者が現れれば排除されるように、エコシステムがうまく働き、機能している。
人は、他人から期待されたような人になると言われ、10歳、厳しく囚人を罰するアメリカの再犯率が高く、一方で尊厳を持って接せられるノルウェーでは低くなるという顕著な結果に表れている。
性悪説に立つことは、ネガティブな側面をあらかじめ予測する現実主義として、これまで褒め称えられてきたが、筆者はこれを冷笑主義として、好ましくないものとしている。
そうではなく、人は本来善であり、そうした行動を他人に期待することで、全ての人がより幸せな状態になる、これが一番のメッセージと受け取った。
悪い出来事ばかりを報道するニュースによって、我々のこうした見方は歪んでいるため、ニュースから適切な距離を置き、真の現実を見る現実主義者になりたいと思う。
Posted by ブクログ 2022年07月09日
「人の本質は善である」との観点から、これからの社会について、希望を与えてくれる本です。
確かに、ある集団に対して偏見や嫌悪感を抱いていたとしても、実際に接したことがある人に対しては親愛の情を抱くのが人間の本質であることは、経験則上、理解できるところです。
個人的には、主として北欧の国で実施されて...続きを読むいる刑務所の改善と、南アフリカのネルソン・マンデラ大統領誕生に際しての双子の物語に感銘を受けました。
犯罪をする人は、社会に対する疎外感等でやり場のない怒りを抱えているケースが多いと思います。そのような人には、刑務所内での交流による人から尊重された経験が、更生に繋がる大いなる可能性を感じました。
我が国は解決すべき問題が山積みで、刑務所改革まで意識が向かないのが実際のところですが、あとは国民がどのような政治家を選択するかというところでしょうか。
「人の本質は善である」ことが人々の共有認識となり、よりよい方向へ社会が向かうことを祈りますし、自身もそのことを意識していこうと思います。
Posted by ブクログ 2022年05月03日
金銭的インセンティブはモチベーションを下げる、マネジメントしないマネージャーなど、内なるモチベーションの力の章は興味深かった。たしかに、一文も得にならないこと、疲れるだけのことを、自ら望んで継続的にやってますからね。
ナチスの軍人は洗脳されていたわけではなく、戦闘に駆り立てていたのは友情だった。憎し...続きを読むみ、不正、偏見を防ぐ最善策は、アイデンティティを持ち、交流すること。ロシア軍の前線がウクライナの人々が隣人である事を再認識して、自らの過ち、それを指導する体制の過ちに気づき、遠く離れたクレムリンまで逆流する事で、悲劇に終止符が打たれるという歴史が作られれば、この本の主張の正しさが証明される事になると思った。
Posted by ブクログ 2022年02月04日
性善説・性悪説。人類の見方は歴史的に様々な見方をされてきたが、どちらかというと性悪説を元にした見方が多かった。ホッブズの「万人の万人に対する闘争」など、過去の様々な事象はことごとく人間の邪悪な心理によってなされてきたと描かれてきた。しかし、本当にそうだったのだろうかとブレグマンは考える。そして、多...続きを読むくの事象を掘り返していくとことごとく真実は逆で、人々は優しく、協力的で、善人であったことを示す。ネアンデルタール人は邪悪なホモ・サピエンスにより虐殺されたという見方は、単にホモ・サピエンスがよりコミュニケーション能力に長けており、生き延びるための知恵をより多くの個体で共有できたことによってではないかと考える。また、スタンフォード監獄実験の結果は実験者による意図的なシナリオによって狂乱が生み出されていたことが暴かれた。BBCでの再現実験では囚人と看守は協力的な関係を築き、共に和やかに過ごしていた。(番組としては何も起こらないつまらないものとなった)さらに、戦争においては人々が本当は銃を撃ちたくない、戦いたくないと感じており。実際の発砲率が低かったことも示している。クリスマスには休戦し、共に歌を歌い、友情を育んでいたことも示している。本当に多くの事例を挙げてブレグマンは何を示したかったのか。それは現在の社会システムは「性悪説」を前提に人は利己的であるがためにそれを制する目的で設計されているが、そうするよりも「性善説」に依拠した協力と信頼を取り戻すことによって本来あるべき社会システムを目指そうということではないか。狩猟採集時代、人類は常に移動することで様々なグループと出会い、共に生き延びてきた。あるとき、「豊饒の地」を見つけた人々は定住を開始し、農業を始めた。ここから自分の領地であると線を引き出す人が現れ、私有財産が生まれ、闘争が起こり、首長が必要とされた。そしてそれが人種・国境という区切りとなり、よそ者に対する偏見と嫌悪にあふれた世界ができあがった。本当はみんな「普通の人」なのに交流・コミュニケーションがないために相手を知らないだけなのだ。みな、固定観念や幻想に取り憑かれて、多元的無知な状態にあるだけなのだ。だからこそ国境を取り払い、人々が縦横無尽に交流する社会を築き、共に協力・共有して真の「豊饒の地」を目指していくべきだとブレグマンは示したのだと思う。そしてそれを成し遂げることは「性悪説」をはびこらせた人間が少数だったことから、我々が少しずつでも変わることができれば成し遂げられ得るのだと締める。
この本でも多くの事例をこれでもかと示した上で、「本当は何が真実で、何を目指すべきなのか」をブレグマンは書いている。遠目から眺めているだけでは気が付けないことは多くあり、やはり現地現物をリアリスティックに観察することでしか気が付けないことは往々にしてある。現実を直視して見つめ直すこと、「思いやり」を持って物事に接することを重視して世界と対峙していくことで真に必要なことを掴めるようになりたい。
Posted by ブクログ 2022年01月30日
上巻を読み、では解決策はなんだろう?と思い下巻を読み進める。
著者は終始人類に対してポジティブなスタンスを持っており、こういう本を読むだけでプラセボ効果はありそう。一方で結論に結びつくエピソードを多く集めた印象もあり、上巻ほどのインパクトはなかった。
ただ、重ねて書くが著者の問題意識には経緯を評...続きを読むしたいし、彼のスタンスについては日本のジャーナリズムも参考にしてほしい。
Posted by ブクログ 2022年01月29日
"共感はわたしたちの寛大さを損なう。犠牲者に共感するほど、敵をひとまとめに「敵」と見なすようにるからだ。選ばれた少数にスポットライトを当てることで、わたしたちは敵の観点に立つことができなくなる。"
共感より思いやりと説く。
Posted by ブクログ 2023年11月04日
上巻に続き、ヒトの良い面についての耳障りが良く信じたくなるお話。根拠はないがこれまでの経験則として耳障り良い話の後はヤバい未来が待っていることが多い。著者が求めるバキバキリベラルで社会保障天国な世界を作る目的から逆算された主張に読者を誘導してるようにも見える。
いっぽうで日々の生活の中で、コンビニ...続きを読むの外国人店員、通勤電車で隣に座ってる人などよく知らないという理由でうっすら怖いと思ってしまうが、実はみんないいヤツと思うことにするだけで世の中が少し良くなりそう。体制やビジネスの仕組みはこのままでも普段接触の少ない人にも思いやりを持って接する必要があると感じた。
Posted by ブクログ 2022年04月17日
人間の本質は善であるということを解き明かした上巻の内容をもとに、ではなぜ現に人類は戦争や犯罪や差別など、悪によってもたらされる事象が起こっているのか?どう対処していくべきなのか?を提案した内容。本質である善は自分が共感する対象に限られており、その対象から外れた存在には向かないから、というのはとても納...続きを読む得できる理由だ。70億人全てに共感することは難しいからこそ性悪説を盲目的に信じることをやめて、性善説に基づいて社会のシステムを組み立てるとともに、共感できなくても理解と思いやりを持つことが大事なのだと理解した。
Posted by ブクログ 2022年02月20日
上下両巻を読んで
私は「人間の本質は善である」という考えに懐疑的な人間の一人だ。というのも、私たち人類はその核心が善か悪かで語れるほど単純な生き物ではないからだ。個人的には人間は善も悪も持っていると考えている。
いや、むしろ最近ではより多くの日本人が利己的な行動をとっているように見える。本書でも...続きを読む触れられているように、それは私がネガティビティバイアスに囚われているからかもしれない。だから、自分のそうした観念を払拭するためにも本書を手に取った。
本の帯では「人間観を一新してくれた本」とユヴァル・ノア・ハラリが語っている。たしかに、本書を読み進めていくと、人類がいかに相手に優しさと思いやりを持っているかがわかる。しかし、それは本書を読まずとも経験則として私たちは身につけている。なにも目を見張るようなことを主張しているわけではない。本書は私の人間観を覆すには至らなかった。
本書を読んでいると多くの疑問点が浮かんだ。それは私の理解のキャパを超えていたからかもしれない。「人間は利己的だ」という考えを払拭しきれず、結論ありきで読んでしまったからかもしれない。著者ルトガー・ブレグズマン氏の主張を理解するためにも、もう一度読み直すあるいは別の文献も参照するということが必要なのだろう。
いずれにしても、疑問点やツッコミが生じたことは事実であり、それをこのようなパブリックな場で共有することは良いことだと個人的には考えている。そのことで解決の糸口になりうるからだ。以下その疑問やツッコミの一部を記す。
・まず、そもそも筆者の考える「善」が何かわからない。「人間は利己的だ」という考えを否定していることから、善=利他心と捉えているだろうか。しかし、ナチスやテロの箇所を読むと「正義」という意味にもとれる。筆者の考える「善」とは何かその定義を明白にする必要がある。でなければ、建設的な議論は不可能である。
・大災害の後では協力の波が起こる(上巻27頁)と筆者は指摘しており、その事例をいくつか列挙している。それはもちろん素晴らしい。しかし、事後に協力の起こった事例だけを取り上げて「私たちは大災害の後には自発的に協力をする生き物だ」と主張することもできる。心理学で言う「確証バイアス」だ。人間は都合の良い情報だけを収集するきらいがある。したがって反証をする必要が生じる。新型コロナウイルスが流行した初期にはSNSにおけるデマが原因でトイレットペーパーの買い占め騒動が起きた。また、今から100年前に起きた関東大震災では中国や韓国人に対するデマが吹聴され虐殺されるという事件も勃発した。これらの事例はどう説明するのか。
・「はっきりさせておこう。本書は人間の美徳について説くものではない。明らかに、人間は天使ではない。人間は複雑な生き物で、良い面もあれば、よくない面ある。問題は、どちらかを選択するかだ」(上巻31頁)とある。この主張は人間の本質は善ではないことと同義ではないのだろうか。良い面/良くない面という部分が抽象的でわかりにくいが、良い面=善と捉えるのであれば、私のように疑問符がついてもおかしくない。この文の後ろには、危機に陥った時人は必ず自分の良い面を選択する、というようなことが書かれているが「良い面」が何を意味しているのかあまりにも不明瞭だ。このことはやはり筆者が「善とは何か」をはっきりさせないまま論を展開しているからだろう。良い面=利他心=善であるならば、あまりにも「善」という概念を狭めすぎてはいやしないだろうか。
・「実のところ、子どもの頃に暴力的な映像を多く見たことと、大人になってからの攻撃性との相関は、アスベストとがん、あるいはカルシウム摂取量と骨量との相関よりも強いのである」(上巻66頁)この指摘については、昔読んだ文献と結果が異なる。たとえば、攻撃的暴力的なゲームをしたからといって子どもがそのような性格に育つわけではない。このように矛盾した結論が出た以上、これらの情報を鵜呑みにせず、慎重に検証していく姿勢が求められる。
・ネアンデルタール人はホモサピエンスよりも賢かった。それはホモサピエンスよりも脳が大きいからだ(上巻87頁)
つまり、知能は脳の大きさに比例するということだろうか。では、しかし人間より脳が大きい動物はいくらでもいる。たとえば、クジラは地上最大の脳を備えている(らしい)のだが、ホモサピエンスのように高度な文明を発展させただろうか。ネアンデルタール人がホモサピエンスより実際に賢かったかどうかは別として、その判断において脳の大きさだけで断定しようとするのはいささか不十分すぎると言えよう。
・「しかし、300人越えの兵士の中で引き金を引いたことを確認できたのは、わずか36人だった」(上巻114頁)
この兵士がどのように選抜されたのか気になるところではある。それによっては、戦場でも相手を殺したくないという優しい人の集いにたまたまなった可能性がなくもない。
・「第二次世界大戦の退役軍人への聞き取り調査を行い、半数以上が、敵を一人も殺していないことを知った」(上巻116頁)
どのように質問したのか。それによっては答えも変わる。ストレートに「あなたは戦時下に人を殺しましたか?」と尋ねれば「殺していない」と答える可能性の方が高い。戦争は特殊な状況であり相手を殺すという感覚がなかったとしても不思議ではない。ゆえにどのように聞き取り調査をしたのか、そこが重要になってくる。また、対象者の選抜もどのように行ったのか気にかかる。
この他にもたくさん疑問点があった。相手を殺すという特殊な環境で芽生えた利他心は、些細な日常生活でも芽生えるものなのか。狩猟採集社会が代表するような平等社会における独占者の追放システムがなぜ機能しなくなったのか。独占者が武器を持つようになり逆らえなくなったという指摘も本書にあったが、多勢に無勢で追放できなかったのか。そもsも武器を持つ前に追放できなかったのか。
自分のメモを読み返してみると、あまりにも多くの疑問点があったのでここで切り上げたい。
私は筆者の「人間の本質は善である」という考えを否定するつもりはない。むしろ賛同したい。しかし、人間の本質がどうであれ利己心の方が利他心よりも社会を覆っているのは事実だ。それは筆者も認めている。だからこそ、人間の本質は何なのかという疑問を抱くことになったのだ。
これほどまでに人間の利己心を抉り出したのは行きすぎた資本主義であろう。資本主義は競争を原理とするゲームだ。私たちはそのゲームにどっぷりと浸かっている。そしてその競争はますます熾烈になっている。ゆえに私たちには相手を思いやる理解するという余裕がない。
筆者は不信感が蔓延る世界を変えるには相手を思いやり理解することが重要だと説く。無知は偏見を呼び、偏見は恐怖を生む。そして恐怖は差別へと繋がる。こうした負の連鎖を断ち切るには相手を理解することが重要なのだ。
しかし過度な資本主義が私たちからその余裕を根こそぎ奪い取る。本書はたしかに多くの人の人間観を根本的にひっくり返す良書になるかもしれないが、喫緊の課題として、この苛烈な資本主義あるいは増幅する格差を何とかしなければならない。現時点で本書『Humankind─希望の歴史─』は世界を変革せしめるほどの影響力はないと思う。しかし、真っ暗闇を孤独に走り続ける私たちにとって、本書は心を温かく照らす希望の光になってくれるだろう。