あらすじ
青春時間SFの傑作『サマー/タイム/トラベラー』の著者が発表してきた短篇小説を集成。十九世紀のメキシコを舞台に『竹取物語』の翻案が繰り広げられる歴史改変SFである表題作をはじめ、情報技術の未来を疾駆するポストサイバーパンクSFや青春小説など多彩な作品集。伴名練=編による作家別傑作選第2弾。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
――
SFはここまでできる。
楽しく読むためにはこんなにも注意深くならなくてはいけないのか、という恐ろしさもあるけれど、まぁそれはなんでもか…。
ほんとにひとことで云えば、情報過多作家である。短編から掌編まで、どんな細かな設定にもタグがぶら下がっていてそこからどこへでも飛べるような。そして飛んでいるうちにここが何処か解らなくなって、着地したら別の短編に居るような。まさにトラベラー。夏だしもう一回読むか。
本編もそうだけれど、伴名練による解説…解説と云うには膨大な新城カズマ論も情報過多。しかしこういうのがあると、不真面目な読み手である私のような人間は非常に助かります。
SFに出来ることを、これでもかと詰め込んだ短編集。というかこのひとの場合、思い付いたことを書こうとしたら今回はSFになっていました、ということなんだろう。SFならではの、現在を緩やかに掠める風刺的な部分もあり(それが10年前くらいに書かれているという、それもまたSFならではの驚きもあり)、歴史もの仕立てのSFも抜群に巧い。そのぶん一編一編を読むのに体力は要るけれど、ぎゅっとしたSFを沢山持ち歩きたい方にはおすすめです。
表題「月を買った御婦人」は再々再読くらいになるんだけれど、やっぱり好きねぇ。ハインラインへのリスペクトがあり、「竹取物語」や『月世界旅行』へのオマージュもあり、民族的で幻想的なストーリーテリングの中に荒唐無稽なふりをした多量のアイデアが散りばめられていてユーモアに溢れ、その上で〆があまりにも美しいなんて。
この一編だけでも一冊持っておく価値はあると思います。
これからいろんなSFを読みたいな、という方は同じく伴名練編の『日本SFの臨界点[恋愛編]』にも収録されているのでそちらをどうぞ。そちらもどうぞ。
新城さんに新作を書かせるとしたら伴名さんのような編集者なのかもという感じがしますね。
…伴名さんに新作を書かせる編集者さんは誰でしょうね?
☆3.8である。