あらすじ
神田の医者の娘として自由な家風で育ったお路(みち)が嫁いだのは、稀代の人気戯作者・曲亭(滝沢)馬琴の一人息子。横暴な舅の馬琴に、病持ち・癇癪持ちの夫と姑。過酷な環境の中、大きな苦労を背負ったお路だが、3人の子どもにも恵まれ、時には心折れることもありながらも夫亡き後には馬琴の執筆を助け力強く己の人生を切りひらいていく。“人間”と“人生”を優しく深く見つめ、作家の業と、人の心の機微を鮮やかに描く傑作長篇。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
「南総里見八犬伝」を著したことで有名な、曲亭馬琴(滝沢馬琴)の息子に嫁いだ、お路(みち)の生涯。
人気戯作者の息子と、我が娘との縁談!とややミーハーな両親は舞い上がり、馬琴のせっかち(実は占いに従ったともいう)も手伝って、見合いから約半月で結婚した。
しかし、夫・宗伯(そうはく)は病的な癇癪持ち(DV?)、姑もエキセントリック、そして舅の馬琴はいちいち口うるさく事細かく、女中が居つかない。
もう!「リコカツ!!」と実家に帰るところから始まるが、お路の人生という船はすでに大海に漕ぎ出して、後戻りはできなかった。
なんとも壮絶な、女の半世紀だった。
嫁いだ頃は、“ただの戯作者”何がそんなに偉いのか、と腹の底で思っていた。
辛い経験を積んで、人生を一段ずつ登るごとに、それまで見えていないものが見えるようになっていった。
お路本人の前では決して口にしなかったが、馬琴の篤い信頼をも得て、あんなに夫・宗伯が求めてやまなかった境地へ、辿り着くことができたのだった。
一 酔芙蓉(すいふよう)
二 日傘喧嘩
三 ふたりの母
四 蜻蛉(かげろう)の人
五 禍福
六 八犬伝
七 曲亭の家
・印象に残ったのは、あれほど不仲であった夫を、長い看病の末に喪うくだり。
・もう一つは、版元の丁子屋平兵衛が、本が売れなくなったと嘆くところ。
天保の改革前後の厳しい言論統制、有名作家が次々と逮捕され、板木を召し上げられて失意のうちに病没し、力のある書き手がいなくなった。
それに加えて、後に続く作家たちも捕縛を恐れるあまり、萎縮して無難なものしか書かなくなった。面白いはずがない。
皆が楽しんで読めるものを世に出すのが生きがいなのだ、と語る。
今に通じる、編集者の肉声。
星5つでも足りない読み応えでした。
ちょっと、宮尾登美子を彷彿とさせる。
Posted by ブクログ
江戸一番の売れっ子作家・曲亭(滝沢)馬琴の息子に嫁いだお路の半生を描いた物語。
厳格で頑固な馬琴一家に何かと振り回されるお路。
「どうしてこんな家に嫁いでしまったのだろう」と後悔しつつも、嫁としての役割をこなしていた。
やがて病により失明する馬琴の右腕となって、馬琴の思い描く物語『南総里見八犬伝』を紙に写し取ることになる。
私も以前仕事でテープ起こしをしたことがあるけれど、人が話していることを筆記していくのは思った以上に難しい。
私はワープロ打ちだったからまだいいけれど、お路は手書きなので余計に大変だったことだろう。
しかもあの気難しい馬琴相手ともなると、相当神経をすり減らしたに違いない。
何度も罵倒され挫折しかけても、世間に求められる物語を紡ぐ喜びを知ったお路は学問の楽しさを発見していく。
苦労があるからこそ、その陰で見つけた幸せは色濃く映る。
置かれた環境の中で穏やかな幸せを掴むお路の生き方に好感が持てた。