【感想・ネタバレ】曲亭の家のレビュー

あらすじ

神田の医者の娘として自由な家風で育ったお路(みち)が嫁いだのは、稀代の人気戯作者・曲亭(滝沢)馬琴の一人息子。横暴な舅の馬琴に、病持ち・癇癪持ちの夫と姑。過酷な環境の中、大きな苦労を背負ったお路だが、3人の子どもにも恵まれ、時には心折れることもありながらも夫亡き後には馬琴の執筆を助け力強く己の人生を切りひらいていく。“人間”と“人生”を優しく深く見つめ、作家の業と、人の心の機微を鮮やかに描く傑作長篇。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

親に何も言えない癇癪持ちで病がちの夫、人の気持ち等お構い無し、しかし戯作者としては後世に残る傑作を書く舅の馬琴、家事能力欠如の姑。とんでもない家族とは暮らせないと、一度は家を出た路。しかし、修羅の家に舞い戻り、度重なる難題に忍耐強く立ち向かいます。夫の死後は、視力を失い、時代の波に翻弄される、馬琴の戯作者としての執念に寄り添い、口述筆記を手伝い、里見八犬伝を完成させます。馬琴の死の床で、初めて感謝の言葉を聞いた時には、グッと来ました。女性が筆の力で一家を支えるという、時代の先駆けにもなり、お見事、路さんと、最後は拍手でした。

0
2022年10月23日

Posted by ブクログ

しんみりとした読後感。お路が生きた時代に想いを馳せ、家族、夫婦、親子とは、を考えさせられた。昔とはいえ、お路の辛抱強さに唯々感服。

0
2021年07月10日

Posted by ブクログ

西條さんの時代小説に登場する主人公の女性たちは皆、その時代の当たり前の女の幸せとは異なるものを求め、男たちに理不尽な仕打ちを受けても言い返せる強さがあって好きだ。
お路が舅姑と夫と、腹を立てながらもうまくやっていき、自分がいなければ回らないことは時に生き甲斐にもなっている。
代筆が行き詰まって舅に鬱憤をぶちまけた後飛び出して行った街なかで、著作を待ち焦がれる読者たちの声を耳にし覚醒する場面が清々しい。
『読物、絵画、詩歌、芝居、舞踊、音曲…… 衣食住に関わりないこれらを、何故、人は求めるのか?』
感染症対策において「不要不急」と自粛を求められる今の世にも通ずる問いのようで、強く心に残る場面だった。

0
2021年06月19日

Posted by ブクログ

江戸時代、町人文化の花開いた時代につづく、粛清の時代を経て、曲亭馬琴の里見八犬伝を通じての、馬琴の長男の嫁、お路の一生を描く作品。

西條奈加さんの本は、私にとってハズレはない。

今回の本の内容も、すばらしい。

蘭学粛清、華美厳禁で多数の文化人が手鎖、没収、板木の焼却など幕府からの圧力を与えられ、あるものは筆を折り、あるものは投獄され、あるものは自死。
そんな時代の中でも、時代考証を始め、細部にまでこだわりを貫く馬琴の強情でしつこい性格で、幕府の付け入る隙を与えなかった。

馬琴以外の妻や子は体が弱く、嫁入りしたお路が一家の運営することになる。

一度離縁を申し出家出するが、馬琴の病で、戻る。

生家のユーモアあふれ笑い声の絶えない家風と全く違う滝沢家。

その苦労は大変なものであった。
感激し通しで、涙無くして読み終えることはなかった。

0
2021年06月12日

Posted by ブクログ

読み進めているうち、北斎を扱った朝井さんの作品「眩」と重なる。歴史に名が残った陰には当然支えた人たちがいたこと、改めて思い知る。直木賞作品より読み応えあった。「それまでの世間の常識が、人為でくるりとひっくり返る。それが政治というものだった」「必要だけの会話は角が立つ。女はそれを本能で察し、笑いや愚痴や噂に紛らして互いの距離を縮める」「人の幸不幸は、おしなべて帳尻が合うようにできている。不幸が多ければ、幸いはより輝き、大過がなくば、己の幸運すら気づかずに過ぎる。西條さんの温かで慎ましやかな一方で、社会を刺す鋭い眼差しに感服。

0
2021年05月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「南総里見八犬伝」を著したことで有名な、曲亭馬琴(滝沢馬琴)の息子に嫁いだ、お路(みち)の生涯。
人気戯作者の息子と、我が娘との縁談!とややミーハーな両親は舞い上がり、馬琴のせっかち(実は占いに従ったともいう)も手伝って、見合いから約半月で結婚した。

しかし、夫・宗伯(そうはく)は病的な癇癪持ち(DV?)、姑もエキセントリック、そして舅の馬琴はいちいち口うるさく事細かく、女中が居つかない。
もう!「リコカツ!!」と実家に帰るところから始まるが、お路の人生という船はすでに大海に漕ぎ出して、後戻りはできなかった。

なんとも壮絶な、女の半世紀だった。
嫁いだ頃は、“ただの戯作者”何がそんなに偉いのか、と腹の底で思っていた。
辛い経験を積んで、人生を一段ずつ登るごとに、それまで見えていないものが見えるようになっていった。

お路本人の前では決して口にしなかったが、馬琴の篤い信頼をも得て、あんなに夫・宗伯が求めてやまなかった境地へ、辿り着くことができたのだった。

一 酔芙蓉(すいふよう)
二 日傘喧嘩
三 ふたりの母
四 蜻蛉(かげろう)の人
五 禍福
六 八犬伝
七 曲亭の家

・印象に残ったのは、あれほど不仲であった夫を、長い看病の末に喪うくだり。
・もう一つは、版元の丁子屋平兵衛が、本が売れなくなったと嘆くところ。
天保の改革前後の厳しい言論統制、有名作家が次々と逮捕され、板木を召し上げられて失意のうちに病没し、力のある書き手がいなくなった。
それに加えて、後に続く作家たちも捕縛を恐れるあまり、萎縮して無難なものしか書かなくなった。面白いはずがない。
皆が楽しんで読めるものを世に出すのが生きがいなのだ、と語る。
今に通じる、編集者の肉声。

星5つでも足りない読み応えでした。
ちょっと、宮尾登美子を彷彿とさせる。

0
2021年05月19日

Posted by ブクログ

曲亭馬琴とその息子の宗伯、そして息子の嫁さんの路の生涯、路の苦難の人生、なかなか含蓄のある物語、その他知った人物も出て読み易かった。最後に"人の幸不幸はおしなべて帳尻が合うようになっている"は名言だ。感動した!

0
2021年05月01日

Posted by ブクログ

馬琴の息子に嫁いだ路の半生の物語。

曲亭馬琴と言えば「南総里見八犬伝」ですね。
子供のころNHKの「新八犬伝」を食い入るように見ていましたし、朝日新聞に連載していた山田風太郎の「八犬伝」(馬琴の世界と八犬伝の世界をリンクさせた名作)を毎日読んでいましたので、久しぶりの馬琴物で嬉しかったです。
馬琴の日記があるので、それをベースに嫁の視点からの馬琴及びその一族を描かれていて、時代小説としても良い出来になっていました。

0
2022年09月02日

Posted by ブクログ

「南総里見八犬伝」の著者・曲亭(滝沢)馬琴の息子に嫁いだお路の半生を描いた物語。

昔、子供向けに優しく現代語訳にされた「南総里見八犬伝」を読ませてもらった私だけど、まさか著者がこんな偏屈&傲慢クソジジィだとは思わなかったな。そして、その作品の完成には息子の嫁であったお路の助けが必要不可欠であったことも知らなかった。滝沢家は嫁ぎ先の家としては最低最悪で、特に前半はどこに良いところがあるのか探すのが難しすぎるくらい。その中でも日々の小さな幸せを見つけ出すお路の逞しさと賢明さには恐れ入った。後世に残る超大作に携えたことは彼女の人生の大きな誇りになるかもしれないけれど、それはその時にはまだ分からなかったはず。一介の嫁で終わることなく、天才戯作者の右腕の役を全うしてくれたお路さんに現代から拍手を送りたい。

0
2022年01月21日

Posted by ブクログ

『南総里見八犬伝』の作者・滝沢(曲亭)馬琴の息子に嫁いだ路(みち)の物語。
なんともバラバラ、不仲な家族なのです。
「智に働けば角が立つ」を地で行き、家族を含め周囲の人間と衝突を繰り返す舅の馬琴、癇癪持ちで馬琴と路の不義を邪推する姑のお百、病弱で突如激昂するDV夫の宗伯。一方、路も「善き嫁」ではなく、それらに強く反発し、頭に血が登れば人を傷つける発言をします。もっとも、そんなみんなが頑なで不仲な修羅の家庭を、小さな喜びを日々に探しながら、何とか繋止めているのも路でなのです。路の頑張りが報われ、ごく稀に家族が寄り添うシーンも有ってホッとします。
並行して馬琴の創作に対する執念についても語られます。片眼の視力を失い医者から止められても創作を止めず、全盲になってなお不仲な嫁を叱咤し口述筆記(しかも矢鱈と難字を使う)で作品を完成させる。先日読んだ『渦』(大島真寿美)の近松半二もそうでしたが作家としての業(ごう)を感じさせます。

そういえば朝井まかてさんにも『阿蘭陀西鶴』(井原西鶴の盲目の娘・おあい)や『眩』(葛飾北斎の娘で女絵師・応為)の様に、江戸時代の芸術家の娘を主人公にした作品が有りました。北斎を支える応為の様に、最終的には路も馬琴の死後に弟子・琴童として八犬伝を仮名で書き直した『仮名読八犬伝』などを執筆するのですが、朝井さんとはまた別の味わいのある作品でした

0
2021年12月24日

Posted by ブクログ

『南総里見八犬伝』を著した滝沢馬琴の息子に嫁いだ、お路のお話。『八犬伝』と言えばその昔、薬師丸ひろ子主演の映画で見たり、日本史や国語の年表で見たくらいですが…いやはや、中途失明からの口述筆記という物語があったとは知りませんでいた。ただでさえ扱いづらい夫や姑がいて、子育てや家事全般をこなすのも大変だろうに、しょっちゅう変わる女中の仕込みやら、引越しひとつとっても考えるだけでゲンナリです…。それでもへこたれずに凛と生きる女性を描くのが西條さんは実に上手いですね。

0
2021年08月24日

Posted by ブクログ

曲亭馬琴の息子に嫁いだお路、癇癪もちで病がちな夫と口ばかり達者な姑に極め付けの偏屈な舅、女中も居つかない滝沢家で苦労しながら自分の居場所を見つけていく。
戯作者の苦悩、ことに八犬伝にかける思いも伝わってくる。特に最後の口述筆記のあたりは神気迫る迫力だった。

0
2021年07月24日

Posted by ブクログ

西條奈加さんの直木賞受賞後第1作。南総里見八犬伝の作者,滝沢馬琴の家に嫁いだ女性・路の物語。日本人で知らない人のない小説誕生の裏にこんな物語があったとは全く知らなかった。こう言うとこに目をつけるのが西條さんらしい。そして江戸時代後期の幕府の迷走ぶりが文芸にも影響を及ぼしていたことに驚き。

0
2021年06月18日

Posted by ブクログ

日本経済新聞夕刊に連載された「秘密の花壇」(朝井まかて)では曲亭馬琴の偏屈な生涯を描いていたが、こちらは息子の嫁の立場から曲亭馬琴に振り回される家族を描いており、どちらも良かった。子供の頃NHKで放映され、夢中で観ていた人形劇「八犬伝」がすごく懐かしい。

0
2021年05月20日

Posted by ブクログ

『心淋し川』で直木賞を受賞した西條さんの受賞後第一作(書き下ろし)。タイトル通り、曲亭(滝沢)馬琴の息子に嫁いだお路を主人公にした作品だ。前半と後半でガラリと印象が変わる。前半は家内のあらゆることを仕切る舅や気の利かない姑、癇癪持ちの夫への憤りなどで胸が塞ぐが、後半はいかにして晩年の馬琴を支え『八犬伝』を完結させたかが描かれていく。数々の悲嘆を乗り越え、日常の些細なことに幸せを感じるお路の姿に自分を重ね、先の見えない今を生きる勇気をもらった。

0
2021年05月18日

Posted by ブクログ

「人の幸不幸はおしなべて帳尻が合うようにできている。」の言葉が胸にくる。日々の暮らしの中笑顔を見せて生きて行くように努めたいと思う。

0
2021年04月28日

Posted by ブクログ

映画八犬伝を観た後に、曲亭馬琴の息子嫁のお路さんに興味が湧いて購入。
お路さんの性格、心の声、共感できる物ばかりで楽しく読めた。

0
2025年02月16日

Posted by ブクログ

曲亭馬琴と言われてもピンとこないが、南総里見八犬伝の作者と言われれば誰でも知っているか。失明後に代筆に励んだ嫁を中心にみた物語だが、気になって調べてみると背景が正確で、当時実際にあったことも本書で語られることに近かったのではと、リアルに感じられた。

0
2025年02月06日

Posted by ブクログ

読みやすくて面白かったです
戯作者の家に嫁いだ主人公お路の苦労は大変なものでしたが、まっすぐな気性には好感が持てました
現代でも人気の八犬伝、家族の多大な犠牲の上に成り立っています

0
2022年05月09日

Posted by ブクログ

私はその存在をはじめて知ったのですが、曲亭馬琴の半生を語るには外せない存在のようですね、土岐村路。長男の嫁であり、最終的に盲いた馬琴の筆記助手となった。独立wikiもあった。へえぇ。
馬琴は日本ではじめて筆一本で生計が成った存在とは言われるけど、こんな強烈な性格だったのかぁ、天才は、得てして、己も周囲も削るものではあるけれど。貞女の鑑と傍目には見えたかもしれないが、内情こういうかんじなら、ほんとに大変だったろう。芯の強い女性の話であることは間違いない。自分なら、路のようにはとても生きられない。そこに己の役割と矜持を見ていたのかもなあ。強い。
馬琴がほんとに思いやりがなさすぎて(なんなら姑も夫も)お路目線のストーリーは一緒に心削られちゃうところもあるんだけど、貫き通した人生はきっとまんざら悪くない、という読後感で終われるところは救い。西條作品まだそんなに数がないので8割は読んでるとおもうけれど、実在の人物をとりあげた作品も西條界ではわりと珍しいので、一読の価値ありな一冊。

0
2021年12月13日

Posted by ブクログ

舅の馬琴を始め、とんでもなく傲慢・我儘・癇癪持ちで、とんでもなく面倒な家に嫁ついだお路の半生。なんでこんな家に嫁いでしまったのだろうと思う環境の中、大変な苦労をしながらも、人に馴染み、与えられた役割を見いだし、小さな楽しみや幸せをみつけ、たくましく生きたお路に、勇気をもらった。
苦労が多いからと言って、不幸せとは限らない。
幸せはそもそも小さいもので、似たような日々の中に小さな楽しみを見つける。
人の幸不幸はおしなべて帳尻が合うようにできている。
私もこれから先、苦労や悲しみが襲ってくると思う。その時に、この作品を思いだし、少しでもお路みたいに歯をくいしばって生きれたらなと思う。自信はないけれど・・・(笑)
でも、幸せを見過ごさないで生きていきたいなと思わせてくれる作品でした。

0
2021年11月25日

Posted by ブクログ

偏屈な舅に小言ばかりの姑、癇癪持ちの夫、その3人とも多病だなんて自分なら堪えられない…お路さん本当に辛抱強い
その当時は必死すぎて分からなくても、自分にしか出来ないことをやり遂げたとまわりからの声で気づいた時どれほど幸せだったろう
苦労の多い人生でも本人にとっての幸せはきっとある、見つけられるはず!

0
2021年10月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

江戸一番の売れっ子作家・曲亭(滝沢)馬琴の息子に嫁いだお路の半生を描いた物語。
厳格で頑固な馬琴一家に何かと振り回されるお路。
「どうしてこんな家に嫁いでしまったのだろう」と後悔しつつも、嫁としての役割をこなしていた。
やがて病により失明する馬琴の右腕となって、馬琴の思い描く物語『南総里見八犬伝』を紙に写し取ることになる。

私も以前仕事でテープ起こしをしたことがあるけれど、人が話していることを筆記していくのは思った以上に難しい。
私はワープロ打ちだったからまだいいけれど、お路は手書きなので余計に大変だったことだろう。
しかもあの気難しい馬琴相手ともなると、相当神経をすり減らしたに違いない。
何度も罵倒され挫折しかけても、世間に求められる物語を紡ぐ喜びを知ったお路は学問の楽しさを発見していく。

苦労があるからこそ、その陰で見つけた幸せは色濃く映る。
置かれた環境の中で穏やかな幸せを掴むお路の生き方に好感が持てた。

0
2021年09月10日

Posted by ブクログ

最初の章『酔芙蓉』は、『南総里見八犬伝』で有名な曲亭馬琴の息子で医者の宗伯(そうはく)の妻になったお路が、嫁いで間もなく離縁を言い出て滝沢家を出る所から始まる。そのまま離婚を経たお路の再出発物語かと思いきや、一日で変化を遂げる酔芙蓉の花のように婚家へ戻る。期待を裏切られた気分だが、馬琴の舅ぶりに興味もあった。馬琴と云えば、あまり評判が良くない物書きで、時代小説に悪し様に描かれて登場するのが多々。かなりの御人ではあるが憎めない戯作者だった。
夫の宗伯は父親・馬琴を尊敬しすぎてコンプレックスの塊になり、何かスイッチが入ると暴力的になる。お路は、のぼせやすい馬琴の妻や、子供らと滝沢家を切り盛りする扇の要となっていく。宗伯は医者にもかかわらず病弱で早世、また長男にも先立たれる。その後、視力を失った馬琴に執筆の手伝いを請われ「里見八犬伝」の完結に尽力し、馬琴を見送る。やがて、出版元に頼まれ、曲亭金童の筆名で「仮名読八犬伝」を手掛けた生涯。
何てたくましい女性なのだろう、天性の女性の鑑じゃないか。といっても共感までは持てない。今まで読んで来た西條奈加さんの著書と比べて辛口になった。
『女同士はまず会話を通して親睦を深める。愚にもつかない無駄話を長々と繰り広げるのは、本音や論点をうまく避けるため。必要だけの会話は門が立つ。女はそれを本能で察し、笑いや愚痴や噂に紛らして互いの距離を縮める。対して男は総じて口下手だけに、この芸当は到底真似できない。そもそも礼儀というものが、話術の乏しさを補うために。男社会で進化した様式ではなかろうか。礼儀にうるさい馬琴を眺めていて、お路はそう思い立った』
上記の文章を読みながら、述べられた女性の芸当を持てなかった私は歯噛みしたいほどの、羨ましさを感じずにはおられなかった。私って、どちらかと云えば男の感性に近いのかな、お路が揶揄する男どもに似ていると苦笑い。

0
2021年09月02日

Posted by ブクログ

小早川涼さんの包丁人侍シリーズでお馴染みの曲亭馬琴。そちらで描かれる馬琴はケチで食い意地が張っていて、物書き以外のことは一切やらないのに人には上から目線であれこれ指図する。鮎川惣助も毎度ウンザリする面倒な人物だ。

本作で描かれる馬琴はそれに輪をかけて面倒な人間だった。何事も細かい…というかわざと煩雑にしているのか?と思うほど。身内のためなら賂だろうがおべっかだろうが何でもやるが家族含め他者の気持ちは全く思いやらない。
気に入らないこと思い通りにならないことがあれば癇癪を起こす。
更に言うと面倒なのは馬琴だけではない。その妻・お百もだ。家事の切り盛りはまるで出来ないのに雇った女中にはあれこれ文句を言う。
そして意外だったのが息子・宗伯。包丁人侍シリーズでも体は丈夫ではないようだったが少なくとも医師としての腕は確かで真面目で律儀な性質に描かれていた。
しかし本作では表向きはともかく、実際は馬琴以上に癇癪を起こしやすいし病弱で医師としての務めもままならない有り様だ。

こんな馬琴一家に嫁ぐことになったお路の半生を描いた物語は、お路の闘いの物語でもあった。
宗伯の癇癪、馬琴の鬱陶しいほどの細かさ、お百の押し付け。家族に振り回され、居着かず始終入れ替わる女中たちへの仕込みや家事の切り盛り。次男になるはずだった赤子が流れ、悲しみが癒えない中で勝手に決められた長女の養子話。
耐えきれず家を出たこともある。寝込んだこともある。
しかしお路は決して投げ出さなかった。宗伯とやり合い、お百や馬琴ともやり合った。結局折れるのはお路だが、腹に溜め込まずに言いたいことをぶつけた。
その結果、『病人の世話をするために、この家に嫁いだようなもの』と母に同情されるほど病に倒れる家族を看取った。
早世した宗伯に長男の太郎、お百に馬琴。

癇癪や偉そうな物言いはコンプレックスの裏返しでもあった。小心者であることを隠すための鎧でもあった。
お路の闘いの結末はこんな面倒な家族たちの面倒さを認めることだった。そして自分の面倒さやコンプレックスを認めることでもあった。

終盤は「八犬伝」の口述筆記という最後の闘い。失明した馬琴がお路に託した筆記作業だが、失明しても馬琴の細かさと面倒さと癇癪は変わらない。相変わらず衝突しながらの作業でお路の方が参ってしまう。

読みながら私なら女中たち同様、早々に退散しているなと思いお路の強さ頑張りに感心した。時代背景や子どもたちのためとは言え、三十路で夫を亡くしたタイミングで馬琴邸を去っても良かったはず。だが彼女が去らなかったのは子どもたちのためだけでなく、この堪らなく面倒な馬琴と馬琴の紡ぐ物語に引き寄せられるところもあったのだろうか。
「八犬伝」は虚構の物語だが、その時代背景や舞台設定にはリアルを求めた。そのために馬琴は執筆以上の時間を費やし歴史などの研究をした。馬琴が挿絵の細かな部分にも口出ししたのは時代や風俗考証のためだった。

怒濤のような闘いの日々が去り、晩年のお路が幸せで良かった。結果『帳尻が合う』人生だったということか。

0
2021年08月11日

Posted by ブクログ

ネタバレ

著名な戯作者・曲亭馬琴の家に嫁いだ路が主人公だが、彼女は本当に幸せだったのだろうか?
医師の娘だった路は、馬琴の息子で医師の宗伯と夫婦になるが、この宗伯がえらい癇癪持ちで、彼がなくなるまで苦労させられる…。
本来なら実家に戻るはずなのだが、馬琴に気に入られて曲亭の家に残ることになり、子供と舅姑の世話…。

0
2021年08月01日

Posted by ブクログ

あの時代、馬琴の立ち位置は、お上にファンがいたから出版できたのね。
家風が、違いすぎる結婚って、怖い恐いコワイー!

0
2021年07月21日

Posted by ブクログ

曲亭馬琴の息子の嫁、路をメインにした物語。
いやー、こんな婚家はしんどいわ。読む分には面白かったけど。

0
2021年07月17日

Posted by ブクログ

書き下ろし

滝沢馬琴の息子に嫁ぎ、失明した馬琴の口述を筆記して八犬伝を完成させたお路の物語。

作者のほんわかした人情話が好きだった。直木賞受賞作『心淋し川』で、読み手が切なくなる人の心の深さを書くようになったが、各話ごとに救いがあった。でも、この作品は書き下ろしのためか、前半までは小心の裏返しで尊大で癇癪持ちの馬琴と息子のためにひたすらお路が苦しむのに、読むスピードが上がらない。夫のDVで流産した場面では読むのをやめたくなった。
ラストを「人の幸不幸は、おしなべて帳尻が合うようにできている。お路は最近、そう思うようになった。不幸が多ければ、幸いはより輝き、大過(禍のまちがい?)がなくば、己の幸運すら気づかずに過ぎる。」で締めていいのかなあ。

0
2021年05月20日

「小説」ランキング