【感想・ネタバレ】月まで三キロ(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

「この先にね、月に一番近い場所があるんですよ」。死に場所を探す男とタクシー運転手の、一夜のドラマを描く表題作。食事会の別れ際、「クリスマスまで持っていて」と渡された黒い傘。不意の出来事に、閉じた心が揺れる「星六花」。真面目な主婦が、一眼レフを手に家出した理由とは(「山を刻む」)等、ままならない人生を、月や雪が温かく照らしだす感涙の傑作六編。新田次郎文学賞他受賞。(対談・逢坂剛)

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Posted by ブクログ

ネタバレ

タイトルに惹かれて購入!!
やはり今回も傑作だった…
登場人物みんなが人生の迷い人で、そんな彼らの迷いを科学の魔法がそっと手助けし、照らしてくれる。

『月まで3キロ』
仕事も結婚生活も破綻し、自殺場所を探す男性。そんな男性が出会ったのは、ちょっと変わったタクシー運転手。彼は「月に1番近い場所」まで男性を連れていってくれるそうだが…そこで判明する運転手の壮絶な過去と「月に1番近い場所」の意味を知ったとき、鳥肌が立った。

『星六花』
四十路目前で食事会することになった富田。そこで出会った奥平は気象庁に勤務し、天気に詳しい。そんな彼が主催する「首都圏雪結晶プロジェクト」に参加し接するうちに富田は彼に惹かれていく。そして彼に告白するも富田は振られてしまう。そこには秘められた彼の想いに胸が苦しくなった。

『アンモナイトの探し方』
朋樹は受験勉強の静養という目的で母の実家の北海道に来ていた。そんな彼が出会ったのは、ひとりでノジュールを叩き続ける戸川という老人だった。緻密なノジュールを当てられればそこに化石がある可能性があるらしく、戸川は黙々と崖を金づちで叩いていく。そんな戸川との出会いを通して、朋樹は自分のこれからについて真剣に向き合っていく。

『天王寺ハイエイタス』
父は真面目にかまぼこ屋を営み、兄はつくばの国立環境研究所で勤務するほどのエリート。ただ、伯父は元プロのギタリストだが、今はプー太郎。それでも伯父にはほとんど知られていないかっこいい一面があった。その真実と科学の融合に、とてもワクワクした作品。

『エイリアンの食堂』
いつも食堂に来てくれる変な女性。彼女はお馴染みのローテーションで定食を頼み、そして空に向かって何かを叫んだりする。そんな彼女のことを気になった私の娘は彼女に色々質問し、親睦を深めていくことに…彼女が話す宇宙の話、クォークの話とても好きだなぁ。

『山を刻む』
日光白根山を下山しながら、おかしな教授と学生に会った私。でもその教授の話にとても惹かれ、そんな彼にこき使われる学生にも好印象を持つ私。私は家族のことでギクシャクしており、その2人との出会いを通して、自分の人生の舵を自分でとる勇気をもらうことに!!最後に待ち構える、決意表明に胸打たれた作品。

『特別掌編 新参者の富士』
富士山に対して、引け目を感じている女性。しかし富士山の思わぬ情報をとある教授に教えてもらう。その話を聞いて、富士山を愛おしく思うようになった女性に思わずこちらまで笑みがこぼれてしまった。

特に好きな作品は『天王寺ハイエイタス』と『エイリアンの食堂』。

伊与原さんの紡ぐ科学はこんなにも優しい。
学校で習う科学もこんなに温かくて面白かったらいいのになぁ。
月を見上げるたびに、私はきっとこの作品と登場人物たちを思い出し、またがんばろうと勇気をもらえるだろう。
落ち込んでいる人にオススメしたい科学の魔法の温かさを感じられる1冊!

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2025年11月08日

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