あらすじ
「返還」前夜の香港。和志は恋人の死の謎を追い、交換留学生として再びその地を訪れる。幽霊屋敷に間借りする活動家、ベトナムのボートピープル、「共産党員」と噂される大物建築家。次第に浮かび上がる香港の実相。やがて、和志は民主化運動の渦に呑まれてゆく。生と、自由の喜びを高らかに謳う、圧巻の社会派エンタメ。
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Posted by ブクログ
イギリスから中国への変換が目前に迫った香港に帰ってきた主人公瀬戸和志。建築学勉強のための留学という名目だったが、本当の目的は3年前になくした恋人の死因をさぐるためだった。
中国共産党の手により香港から民主主義が消えていく、という社会情勢を縦軸に、和志の成長譚を横軸に、さらには国籍問題や難民問題、貧困層の生活描写なども色濃く反映しつつ、織りなされる物語は、想像していたものと全然違ってよい意味で濃い味つけで読み応えもしっかりしていた。
現実に起こっている香港の状況や事件、台湾や南インド洋における中国の覇権主義。何も中国だけが悪者でもないんだろうが、政治に翻弄される庶民の生活を考えるとたまったものではない。「日本は平和で民主主義で良かったな」と安どするのではなく、ほっておくと暴走して生活を脅かすのが「政治」だということを肝に銘じて、行動する必要がある。
といっても、デモに参加したり署名運動に加わったり、テロを起こせとかそんなことを言っているのではなく、信頼できそうな情報(まだマシそうな報道など)を客観的に分析し、政情がまだましだと思える方向に少しでも傾くように選挙に行こう、投票しよう。ってことだけ。
なんとも頼りなく思えた主人公が、成長し大変貌をとげる最終章に、「得体のしれない政情ってバケモノに対してでも、俺たちにも何かできることはあるはず」って希望を見いだせたのがとてもよかった。