【感想・ネタバレ】安楽死を遂げた日本人のレビュー

あらすじ

NHKスペシャルで大反響。

ある日、筆者に一通のメールが届いた。
〈寝たきりになる前に自分の人生を閉じることを願います〉
送り主は、神経難病を患う女性だった。全身の自由を奪われ、寝たきりになる前にスイスの安楽死団体に入会し、死を遂げたいという。実際に筆者が面会すると、彼女はこう語った。
「死にたくても死ねない私にとって、安楽死はお守りのようなものです。安楽死は私に残された最後の希望の光です」
日本人が安楽死を実現するには、スイスに向かうしかない。お金も時間もかかる。ハードルはあまりに高かった。だが、彼女の強い思いは海を越え、人々を動かしていく。

〈本作を読んだ多くの方が考えただろうことを、私も考えた。もし小島ミナと同じ境遇に置かれたら、はたしてどのような選択をするだろうか、と。
著者が作中で記しているように、現にそうした状況に直面したわけでもない者の考えなど、しょせんは切迫感に欠けた想像や推測の類にすぎない。ただ、それでも考えてしまう。彼女のように安楽死を望み、それを選択するだろうか、と〉――解説:青木理

(底本 2021年7月発行作品)

※この作品は単行本版として配信されていた『安楽死を遂げた日本人』の文庫本版です。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

安楽死を遂げた日本人

著者:宮下洋一
発行:2021年7月11日
小学館文庫
初出:2019年6月(単行本)

安楽死にまつわる世界6カ国での現場を取材した「安楽死を遂げるまで」(2017)を上梓し、高い評価を得た(講談社ノンフィクション賞)著者による、その続編とも言うべき本書。前作を借りに行ったがたまたま貸出中で本書を読む。2冊セットで読まないと価値は半減以下かもしれない。

本書は、前作以降、メルアドを公開している筆者のもとに、メールを寄せた小島ミナという女性が、日本人として合法的に安楽死を遂げるまでをルポしたもの。彼女は多系統萎縮症という病気で、小脳以外の脳幹が萎縮し、全身、とくに胸、肩、腕の痛みはひどく、段々と動けなくなり、食べられなくなり、呼吸も危なくなってくる。イメージとしてALSに近いかもしれない。故郷の新潟で、2人の姉に世話になりつつ暮らしているが、車椅子であっても、なんとかスイスにまで行ける体力が残っているうちに安楽死を遂げたいと強く望んでいた。

最期を迎えたのは、2019年11月、スイスだった。巻末の資料によると、その時点で安楽死または自殺幇助が認められていたのは、オランダ、スイス、ベルギー、ルクセンブルク、アメリカの一部の州、カナダ。オーストラリアは90年代に一部の州で成立したが97年に連邦議会が廃止したものの、2019年6月にビクトリア州で自殺幇助が認められていた。

スイスには、ディグニタスという1998年に設立された世界最大の自殺幇助団体がある。会員数1万382人で、それまでの幇助者数は3248人、外国人も受け入れている。小島ミナが希望していたのは、著者が前作で紹介したライフサークルという団体。エリカ・プライシックという女性の医師が設立した団体で、会員登録した希望者の中から、厳正な審査を経てプライシックが認定した人だけが自殺幇助してもらえる。もちろん、会員登録の段階でも厳しい書類審査があり、ここがまず関門となる。また、年間に行う数を制限していて、その範囲内でしか行わない。

小島ミナは高校を卒業すると韓国に渡り、1年間言葉を学んだ上、ソウル大学に入って4年間を過ごす。帰国後、韓国語の通訳と翻訳をしていたが、英語には強くなく、それが大変な苦労だった。英語で、自分の意志でしっかりと伝えなければいけないが、英語でメールをすること自体にも苦労している。もちろん、医師の診断書など必要書類もすべて英訳する必要がある。

苦労を重ねてライフサークルに会員登録をしたが、自殺幇助は断られてしまった。2020年3月まで空きがないので、ディグニタスかエックス・インターナショナルを試してくださいと返事が来たのだった。3月までは自殺幇助の対象となるかどうかの検討すらできない、ということだった。彼女は3月まで自分の精神状態が持つかどうかという問題があったため、失望していた。ところが、突然、〝キャンセル〟のようなことが起き、2019年の11月に空きが出た。

姉たちは、自分が最後まで世話するからと説得していたが、最終的にはスイスまで2人ともついていき、立ち会うことになる。本人の希望どおりにいかなくてまだまだ現実感がなかったのが、突然、年内に出来ることになった時の気持ちは大変だったことだろう。本人の心境はどうだったんだろう。表面的には希望がかなってよろこんでいるが、覚悟を決めるというのは、やはり時間的なものが必要のようにも思えるが・・・

当日、プライシック医師の兄であるルエディが手伝う。著者は彼の車で移動したが、途中で薬局に寄って「ペントバルビタール」という薬物を入手した。一瞬で死に至らしめる薬物が、数百円で売られていた。ルエディは幇助の際にビデオカメラを設置して、警察に見せる動画を撮影する役割を担っていた。自殺幇助のたび、警察は殺人の疑いがないか1回1回調査を欠かさない。直後には検死官もやってくる。

プライシックは、普段と変わらぬシンプルな服装で現れた。ワインレッドのスウェットパーカーに黒のジーンズ。彼女が白衣を着ることはほとんどないそうだ。必要な説明をし、本人に名前と生年月日を聞き、なぜライフサークルに来たのかを聞くと、点滴の針がささっている、ストッパーを開けるとどうなるかわかるか?と最後の質問をして答えを聞く。そして、「死にたいのであれば、それを開けてください」と。

小島ミナは、一瞬の迷いもなくストッパーをこじ開けた。30秒で眠りに入ると説明されていたが、60秒が経過した。みんなにお礼をいう彼女。やがて頭を支える筋力がふっと抜ける。51年の生涯に幕をおろした。苦痛の声もなにもなく、静かに眠っていった。

その様子は、NHKもルポし、オンエアされた。最後の瞬間、ディレクターは足もとの方でマイクを持ちつつ、涙を流している。カメラマンはぶれないように必死でカメラを支えながら大粒の涙を流していた。

著者は、安楽死を望む人からメールやDMを多くもらうが、ほとんどに返事をしない。彼らが望むのは、ライフサークルなどへの口利きやアドバイス。しかし、安楽死や自殺幇助の手助けをすることにつながる行為は一切しない。それは、著者自身が安楽死に対してはっきりした考えをいまだ持ち得ない面があるのだろう。小島ミナのケースでは、自分がプライシック医師にNHKの取材のことで連絡をとったがために、プライシックが年内に優先的にほどこしてくれたのではないかという心配がよぎっていた。

著者は、安楽死に対して未成熟な日本において、安楽死合法化の議論はまだすべきでないと考えている。

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自立心があり、勉強家というのは、安楽死を選ぶタイプの人間に共通することを、著者は取材を通して学んできた。ある程度の収入があって、子供を持たない人間も希望者に多い。小島ミナはどれもが当てはまった。

スイスでは積極的安楽死が禁止されているため、厳密にいうと「安楽死」という用語は間違いで、自殺幇助といわなければいけない。

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2023年03月25日

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