【感想・ネタバレ】女が死ぬのレビュー

あらすじ

「女らしさ」が、全部だるい。天使、小悪魔、お人形……「あなたの好きな少女」を演じる暇はない。好きに太って、痩せて、がははと笑い、グロテスクな自分も祝福する。一話読むたび心の曇りが磨かれる、シャーリイ・ジャクスン賞候補作「女が死ぬ」含む五十三の掌篇集。『ワイルドフラワーの見えない一年』より改題。〈特別付録〉著者ひと言解説


(「あなたの好きな少女が嫌い」より)

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

不思議な世界観の、まるで風刺画のような短編たち。
面白い中に皮肉もいっぱいで、ときどき怒りも感じる。

ものすごい感性だと思った。
松田さんが見ている世界をもっと知りたい。

小説でもエッセイでもないような、本当に不思議な体験だった。
風刺画を見ているようだったというのが自分で1番しっくり来る。

“どうしてカミングアウトしないと、存在が認められなかったり、秘密を隠していることになるんだろう"
という言葉にはっとさせられたり、
子供たちのいる部屋を"武器庫"という表現で表すことで戦争の影を感じさせられたり、
女性が感じている違和感を色んな角度からこれでもかと見せつけられたり。

突然、“3年着ていなかったセーター"の視点で話が進み出して訳わかんない気持ちになったり。

全然うまく言えないんだけどとにかく好きです。
文体も好きです。

それから私も、猫を不死身にしなかった神は馬鹿だと思います。

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2024年06月04日

Posted by ブクログ

凄く良かった。小説というか一冊のアートみたいな短編集。最後に著者のひと言解説が付いているのも面白い。
日々感じる違和感を直接主張するんじゃなく、こうやって芸術として伝えることができるんだと、ハッとした気分。

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2024年03月28日

Posted by ブクログ

楽しかった。面白かった、よりも、楽しかった、が私にはぴったりの読書時間だった。好きなのたくさんあるのでひとつひとつは語れないけど本当にたくさん好き。やっぱり私短編とかショートショート大好き。
持続可能な魂の利用、今度読む(メモ)あと神は馬鹿だ。間違いない。

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2023年07月03日

Posted by ブクログ

短編のオムニバス
女が死ぬってタイトルの短編が一番良かった。全体を通して面白かった。
世の中のフェミ的にあれ?ってどうなの?モヤァっとするものを痛快に切っていってくれたように思う
そして猫は正義なのです

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2022年12月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

確かに黒波以外の綾波ってこうだ…という第一話から心を掴まれました。自由な短編集、どれも面白かったです。
猫を讃える2篇や、「バードストライク!」みたいになにこれフフッ…となるのも好き。
「武器庫に眠るきみに」はいつ読んでも怖いと思いますが今読むととても怖い。
ベティ・デイヴィスさん検索しました。AKIRAのキヨコ演じさせたかった気持ちもなんとなくわかりました。
松田青子さん読みたいと思っていてようやく読みました。楽しいだけではありませんが楽しかった。他の本も読みます。

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2022年11月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

◾️record memo

あなたの好きな少女が嫌いだ。あなたの好きな少女は細くて、可憐で、はかなげだ。間違っても、がははと笑ったりはしない。がははと笑うような少女をあなたは軽蔑している。というか、それはもうあなたにとっては少女ではない。では、がははと笑う少女はどこに行けばいいのか。

あなたの好きな少女が嫌いだ。あなたの好きな少女は弱くて、非力で、不器用だ。困ったやつだなあと、あなたはあなたの好きな少女を庇護してやらねばという気持ちにかられる。親でもないのに。

あなたの好きな少女が嫌いだ。あなたの好きな少女は、我がままで、自由で、子猫のように移り気だ。また、あなたの好きな少女は、そのような特質を備えつつも、あなたの言うことだけは素直に聞き、あなたの思い通りになる。女児が幼少期に心の赴くままにお人形を操り、様々な物語を構築して遊ぶのはよく知られたことだが、あなたの好きな少女も、まさにそういった都合のいいお人形のようである。

あなたの好きな少女が嫌いだ。あなたの好きな少女は、センスが良くて、前途有望で、いろいろ教えがいがある。教えてあげるのはもちろんあなただ。あなたは知識のすべてを総動員して、少女を教育したいと思う。学校の先生でもないのに。

あなたの好きな少女が嫌いだ。あなたの好きな少女は、繊細で、感性が豊かで、誰よりも敏感に世界を感じとることができる。あなたの好きな少女は世界の残酷さに涙を流す。しかし、力を持たない少女には何もできない。それでも、あなたの好きな少女は自らを犠牲にし、血を流し、あなたのことを守ってくれる。この時、あなたは少女を庇護したいと思った気持ちを、すっかり忘れてしまっている。

あなたの好きな少女は太らない。あなたの好きな少女は嘘のように体が軽い。あなたの好きな少女は頭以外に毛が生えない。どこもかしこもすべすべのつるつるだ。髪の毛には天使の輪が光っている。膨らみはじめたばかりの小さな胸は、あなたを怯えさせることもなく、脅威にもならない。

あなたの好きな少女は透明感に溢れている。シミもニキビももちろんない。あったらそれはあなたの好きな少女ではない。では、シミやニキビのある少女は一体全体どこへ行けばいいのか。頑丈な太ももの、ごわごわの髪をした少女たちはどこへ。

あなたの好きな少女は皆似ている。天使のようで、聖母のよう。そして小悪魔の一面を、あなたにだけ見せてくれる。

あなたの好きな少女は、あなたの中で大量生産されていく。まるでヘンリー・ダーガーの絵のように、あなたの好きな少女は異形だ。わたしはそう考えるが、だけどそれがあなたにとっての正統派の少女であり、それ以外の少女はあなたの目には映らない。

わたしは時々、あなたの目に映っているであろう、あなたの好きな少女を想像してみる。そして、彼女たちに何か添えたい気持ちにかられ、実際頭の中でそうしてみることがある。

わたしは、イスにお行儀よく座ったあなたの好きな少女に鼻眼鏡をかけさせる。貧弱な体を強調するような、ミニスカートとレースのブラウスを脱がせ、頑丈なオーバーオールを着せてみる。あなたの好きな少女の髪の毛を枝毛だらけにしてみる。ポパイとお揃いの錨模様のタトゥーを腕にいれてみる。そのタトゥーが目立つように、あなたの好きな少女の、そっちの腕だけ筋肉隆々にしてみる。あなたが一番傷つく言葉を、あなたの好きな少女に言わせてみる。

アフロのウィッグ。通学時に下駄。常に口の中でねりけしをガムがわりに噛んでいる。わたしは頭の中であなたの好きな少女にワンポイントを足し続ける。あなたがあなたの好きな少女にがっかりすればいいと思いながら。幻滅すればいいと願いながら。そうすれば、少女はあなたの好きな少女じゃなくなる。あなたの目に映らなくなる。あなたから消去された世界で、たくさんの少女たちが自由に太ったり、痩せたり、好きに動いて、好きに笑う。あなたの目に映らない楽園で。

世の中のいろんなこと、いろんな物語は、ヴィクトリアの好きな状態ではなかった。世界にはもっといろんな色があるはずなのに、どれもがわかりやすいかたちに整えられているか、汚い色、つまらない色をしていた。だけど、素敵な物語や素敵な色が見つかることもあって、そんな時はとりわけ幸せな気持ちになった。

高校生になったヴィクトリアは髪をいろんな色に染め、穴の開いたブラックジーンズによれよれのバンドTシャツを着て、バッジをいっぱい留めたバックパックを背負って学校に通っている。もう最終学年だ。

そもそもヴィクトリアもテリッサも、こういうあからさまにセクシーぶった下着は好きじゃない。

「なんかだるいよね、最初からいろいろ決まっててさ。まあでも、わたしはいつでもヴィッキーの味方だから、カミングアウト?とかそういうのいつでも応援するし。ていうか、自分のセクシュアリティなんて、わたしもわかんない」

わかんないけど、どうしてこっちがカミングアウトする側なんだろう。彼らだって、カミングアウトするべきことがあるんじゃないのかな。実は差別主義者ですとか、一度も募金をしたことがありませんとか、毎日ネットで悪口を書いていますとか。どうして彼らはカミングアウトされるのをのうのうと待っているんだろう。まるで自分たちにはカミングアウトすることなんて一つもないみたいに。カミングアウトは勇気ある行動だっていうなら、彼らもカミングアウトすればいいのに。

どうしてカミングアウトしないと、存在が認められなかったり、秘密を隠していることになるんだろう。まったく、嫌になることばっかだ。

テリッサはヴィクトリアの手をとると、そのまま元気な子どもが乗ったブランコみたいにぶんぶん大きく揺らし、にっこり微笑んで言う。
「ヴィクトリアには秘密なんてないよ」

わたしたちはできない!
できないことはできない!
向いていないことはできない!
面白くない話に無理に話を合わせられない!
面白くない話は面白くないから!
自慢話に愛想笑いできない!
すごいですねと相槌を打てない!
相手の自己顕示欲を満足させることができない!
場を丸くおさめるために謙遜できない!
自分を卑下できない!
そうする必要はないから!
それは義務ではないから!
「男を立てる」ことができない!
「三歩下がる」ことができない!
面倒くさいから!
馬鹿馬鹿しいから!
時間がすごく無駄だから!
性差別的な言動を許すことができない!
性差別的な社会を受け入れることができない!
そんな人生はまっぴらだから!
いい加減にしてほしいから!
わたしたちはできない!
したくないことはできない!
わたしたちは絶対にできない!
わたしたちは死んでもできない!

それでもわたしは、街のいたるところに、若い時代と悲しみ、を見る。
空いた夜の電車で、リクルートスーツを着た女の子がドアにもたれかかって外を見ている、その無表情な顔がガラスに映っているのを見た時、若い時代と悲しみ、とわたしは思う。
スターバックスで、若いカップルが退屈そうな顔をして向かい合っている時、若い時代と悲しみ、と隣の席に座っているわたしは思う。

若い時代が人生で一番いい時だなんて、輝いている時だなんて、一体全体誰が言ったのだろう。たとえいい時だったのだとしても、それを教えてくれる大人は誰もいなかった。大人たちは、劣るものとして、わたしたちを扱った。大人たちに植えつけられた不安と劣等感に怯えている間に、わたしの体は老い、心は老い、若い時代は終わった。若い時代は悲しかった。あとずっとお金がない。

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2025年11月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

どれも面白かった。
とくに「テクノロジーの思い出」が印象深い。
メロンソーダを出す機械から戦争という黒いテクノロジーに繋げた著者の感性に脱帽した。
しかし「男性ならではの感性」があまりにも凡作すぎて拍子抜けした。これを書いた作者がこの本に収録されている何十とある名作を書けるのかとその凡庸さに驚いた。
この短編についての著者の解説コメントを読むと「イラッとして書きました」と書いてあった。
怒りながら書くとこのような作品が出来上がるのかと思い少し納得した。

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2025年10月02日

Posted by ブクログ

面白かったーっ!日々を生きてて、うわ、これだるいなって思ったことある場面がちょこちょこ来て、共感がすごい その物を直接的に言葉に出さずに、でも頭にその物を思い浮かばせる、天才 さいこーっ

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2025年09月05日

Posted by ブクログ

正直よくわからない作品もあったけど、それでも全体がバラバラに感じなかったのは、ミソジニーを中心とする常識に対して、ユーモアを交えながら異議を唱えてる著者の姿勢が一貫しているからだと思う

読んでいて、自分でも気づかないうちに抱えていた価値観や視点にハッとさせられる瞬間が何度もありました

次はぜひ、長編にも挑戦してみたいです

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2025年07月20日

Posted by ブクログ

好き嫌い分かれそうな
作品だけど私は大好き


男性に読んでほしいと
切に思う。

噴火する前触れで黒い
噴煙を上げる、

女性という火山の火口
を間近に感じてほしい。

私はフェミニスト?と
聞かれたら、うーんと
考えてしまう立ち位置。

ウーマン・リブは賛成
だけど女性は護られて
当然という甘えは嫌い。

男性社会のなかで男性
の感覚を学んできて、

フェミニズムに対して
多くの男性が面倒臭い
と感じるのも分かる。

同時に、多くの男性が
女性は護られて当然と
思ってることに違和感。

それって男性が強くて
女性は弱いという固定
観念が前提にあるから。

私はレディファースト
に反対派。

なんてのたまってると
どんどん面倒くさい奴
になるので独言は以上。

発想の斬新さが私好み。

特にワイルドフラワー
の佇まいを象った、

短篇とも詩ともとれる
一篇がとても気に入り
ました♡

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2024年10月29日

Posted by ブクログ

めちゃめちゃおもしろかった
ユーモアに溢れている
ふふって笑えるものから全く訳わからないのまである
著者のひと言解説があるのも楽しかった

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2024年08月20日

Posted by ブクログ

先日新代田にあるエトセトラブックスに行って松田青子さんに関心を持ったので読んでみた。本全体にフェミニズムが通底している。
私はフェミニズム的精神をあまり持たずに大人になってきたけれど、自分自身がセクハラされたことがなくたって、物語のなかで男性主人公の成長のために女が殺されたり、「女性ならではの気遣い」が求められることにはて?って言っていいんだよなと思ったりした。
面白かったのは男性ならではの感性。

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2024年07月30日

Posted by ブクログ

おもしろい読書体験だった!
最後の著者自らのひとこと解説で、松田青子さん好き…もっと作品を読もうと心に誓う。
女性としてのつらさがあるなら、男性としてのつらさもあるはず。どっちも立場やら役割をふりかざさないで素直にしんどいわって言えるといいけれど

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2024年04月14日

Posted by ブクログ

「少年」最後の一言がきいてる。
「男性ならではの感性」
めためた面白い。
「ボンド」『でもしょうもない奴だったら絶対やんねー。』最高だな。

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2024年03月04日

Posted by ブクログ

天才がいた。
このひとの本、全部読みたい。

「モヤ対談」に出てきて知った本。
むちゃくちゃ面白かった。

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2024年01月15日

Posted by ブクログ

帯には「女らしさが、全部だるい。」と書いてありますが、そんな気持ちがこの作品を読んですーっと晴れました。
ショートショート。って面白い!奥深い!

お気に入りの一文。
「この世には、何かで気を散らさないと、やっていられないことがある。」(「みつあみ」より)

特に印象に残った話。
「少年という名前のメカ」
「あなたの好きな少女が嫌い」
「お金」
「You Are Not What You Eat」
「ハワイ」
「男性ならではの感性」
「週末のはじまり」
「リップバームの湖」

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2023年12月20日

Posted by ブクログ

ショートで読みやすい。

全てに共感という感じではなく
どれか刺さるものがある。という感じ。

男性ならではの感性が個人的には好きだった。

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2023年12月14日

Posted by ブクログ

サクサク読める短編たちだが、心には引っ掛かりまくる。共感度はまちまち。「男性ならではの感性」が可笑しかった。岸田首相が、女性閣僚に"女性ならではの感性"を期待する発言が批判を呼んだのが記憶に新しく、それを男性に置き換えるとモヤモヤもありつつ、女性に限定した物言いが改めて偏ったものであることがあらわになる。そんな世にしれっと居座る常識的なものを、おかしくないか?と疑わせてくれる一冊。

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2023年11月04日

Posted by ブクログ

星新一のショートショートのような、森絵都さんの「できない相談」のような、ピリッと辛いアクセントの効いた短編集。とても面白かった。
「男性ならではの視点」が特別キレがあって笑ってしまったが、後書き?を読んでさらに笑った。
ヴィクトリアの秘密が1番好き。話さなかったら隠してて、秘密なのか。そうじゃないよなあ。

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2023年10月19日

Posted by ブクログ

もっと真面目なフェミニズム的なやつだったらどうしようと思っていたが、違ってよかった。
「ボンド」が最高。Qが好きな人の気持ちもわかる。

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2023年06月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

女性なら、フッと笑ってしまったり、スカっとしたり、よくぞ描いてくれた、と思うことが散りばめられている。けれど、これを男性が読んだとき、どんな風に思うのだろうか。
反発するのだろうか。女の嫌な面を見てしまったと思うのだろうか。それとも、そもそも何が問題なのか分からないのだろうか・・・せめて女が何を言いたいのかには気づいて欲しい。反感を持ったとしても、きっといつもニコニコしているアナタのそばの女性たちもこんな風に思っている人が沢山いるのだと言うことには気づいて欲しい。
以下おもいきり抜粋(ネタバレ)です。

ーボンドー(これは男性にはお薦めできない苦笑)
「ねえねえ、そんなにいいの、ボンドって?」
「うーん」「まさか、そんなこと聞かれるとは」
「・・・・・正直な話、なんだこんなもんかってわたしは思ったわ」
「でも、まあ、悪くないふりをしたわよ、それはね、だって相手はボンドなんだから」
「あの、やらなくてもいいんですよね?」
「もちろん、そうだけど、でもどうして?」
「いくら何でも、皆簡単にボンドと関係を持ちすぎではないかと思うんです。愛情からならまだしも、油断させる目的で関係を持つ時もあって、でもそういうやり方は古いんじゃないかと。愛情にしても、毎回毎回ボンドも軽くないですか。そろそろわたしたちの美しさを、もっと別の方法で打ち出していくべきじゃないかと思うんです」「わからないけど、一回やっとけって」「いいから、いいから、やっとけって」「そのほうがハクがつくでしょ?」「減るもんじゃないし、やっとけって」
「真面目な話、それはやっぱりやっておいたほうがいいのよ。やらないとね、見てる側も肩透かしをくった気持ちになるし。」

ーあなたの好きな少女が嫌いー(でもこれはお互い様な面もありますよね。女が好きな男像も男性は嫌いかもしれない)
あなたの好きな少女が嫌いだ。あなたの好きな少女は細くて、可憐で、はかなげだ。間違っても、がははと笑ったりはしない。
あなたの好きな少女が嫌いだ。あなたの好きな少女は弱くて、非力で、不器用だ。困ったやつだなあと、あなたはあなたの好きな少女を庇護してやらねばと言う気持ちにかられる。親でもないのに。
あなたの好きな少女が嫌いだ。あなたの好きな少女は、我がままで、自由で、子猫のように移り気だ。また、あなたの好きな少女は、そのような特質を備えつつも、あなたの言うことだけは素直に聞き、あなたの思い通りになる。
あなたの好きな少女が嫌いだ。あなたの好きな少女は、センスが良くて、前途有望で、いろいろ教えがいがある。教えてあげるのはもちろんあなただ。あなたは知識のすべてを総動員して、少女を教育したいと思う。学校の先生でもないのに。
(まだまだ続きます、、、)

ー女が死ぬー
女が死ぬ。プロットを転換させるために死ぬ。話を展開させるために死ぬ。カタルシスを生むために死ぬ。・・
女が死ぬ。彼が悲しむために死ぬ。彼が苦しむために死ぬ。彼が宿命を負うために死ぬ。彼がダークサイドに落ちるために死ぬ。・・・
女が結婚する。話を一段落させるために結婚する。そのままなし崩しでエンディングに持っていくために結婚する。・・・
女が妊娠する。新たなドラマをつくるために妊娠する。新たなキャラクターをつくるために妊娠する。・・・
女が流産する。恋人たちに試練をあたえるために流産する。そう簡単に幸せになっては中だるみするので流産する。・・・
女がレイプされる。彼を怒らせるためにレイプされる。彼の復讐心に火をつけるためにレイプされる。・・・
女が死ぬ。ストーリーのために死ぬ。・・・
我々はそれを見ながら大ききくなる。もう別に何も思わないし、感じない。そもそもたいして気にしたこともないかもしれない。大きくなった我々は、その日映画館を出る。

ーWe Can't Do It!-
わたしたちはできない!
できないことはできない!
向いていないことはできない!
面白くない話に無理に話を合わせられない!
面白くない話は面白くないから!
自慢話に愛想笑いはできない!
すごいですねと相槌を打てない!
相手の自己顕示欲を満足させることができない!
「男を立てる」ことができない!
「三歩下がる」ことができない!
面倒くさいから!
馬鹿馬鹿しいから!

ーこの国で一番清らかな女ー
ある国に、この国で一番清らかな女と結婚したい王子がいました。処女であることは言うに及ばず、自分以外の男にはどこにも触れられたことがないぐらいの女でなければいけないと王子は思いました。/王子はとうとう思い付きました。科学技術に頼るのです。/王子が作ってもらったのは、一度でも性的に触れられた場所が発光して見える特別な眼鏡でした。/清らかそうに見える若い女たちも必ずどこか光っています。ほうら見たことか。王子は悦に入り、右手で去れと言う合図を出し続けました。/年齢と比例して体の光っている場所も増えましたが、十歳に満たない少女でさえ、どこか光っていることに王子は驚きました。この国の女たちは堕落している。王子は嘆きました。王子は、性的に触れられると言う行為に、強姦や痴漢、性的虐待など、いくつかのバリエーションがあることなど思いつきもしませんでした。仮に知っていたとしても、王子の結論は同じだったでしょう。その女は清らかではない。ただそれだけのことです。

ー男性ならではの感性ー
男性ライターが男性ならではの感性で提案した男性向けの商品は、世間に驚きをもって迎えられた。/
この時流に目をつけた急進的な男流作家たちは、これからは男の時代であると、男性誌で連載しているエッセイで次々と取り上げた。/男性ならではの感性など信用できるかと渋い顔をしていた経営陣も、これには態度を軟化させるしかなく、男性ならではの感性も捨てたものではないというスタンスに徐々に移行していった。/男性ライターの成功は、社会に様々な変化をもたらした。「男性の感性的にはどう?」「男性ならではなの感性が我々には欠けているのでは?」「ちょっと待ってください。男性の意見も聞きましょう」/講演やトークショーの依頼も舞い込んだ。「男性が書くということ」「男性にとってキャリアとは何か」「男性の権利を考える」質疑応答では「男性が働き続けることのできる社会についてお考えをお聞かせください」「男性の理想の職場とは?」「男性の結婚と仕事の両立は可能だと思われますか?」/その後も、男性ライターと男流作家が何をつくり、何を書いても、それは男性性ならではの感性ということになった。男性ならではの感性にまとめられた。なんだかすべてが馬鹿みたい。別々の場所で、別々のタイミングで、男性ライターと男流作家は思った。

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2024年01月22日

Posted by ブクログ

表紙が可愛すぎて見つけた瞬間即購入。
「女だから」とか「女らしく」という概念へのアンチテーゼ。
ちょっと吹き出してしまうような毒も効いていて
エンタメとして面白かったです。

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2025年12月05日

Posted by ブクログ

「あなたの好きな少女」が嫌いだ。「あなたの好きな少女」は細くて、可憐で、はかなげだ。がははと笑うような少女をあなたは軽蔑している。では、がははとわらう少女はどこへ行けばいいのか。
「女らしさ」が、全部だるい。身勝手な幻想から私たちの心身を取り戻す53篇の掌編集。


翻訳家、小説家の松田青子さんの、ジェンダーに関係するような話が多めの(関係ないものもある)ショート集です。

確かに「女らしさ」ってだるい。きっと男性にも「男らしさ」って面倒だと思っている人や、それ以外の性別の人にもそれぞれの面倒さがあると思うけど。
男性から理想化された「女らしさ」を嫌いだと思うと同時に、自分を構成する趣味、メイク、ファッション、所作などの女性性は好きだし、ある種の男らしさを強調されたアイドルや、アニメキャラクターなどに熱を上げる。女の子をほめる言葉は「かわいい」だし、悪気なく「○○なのに」なんて言ってしまったりする。
だれしもそういった、何かを型にはめてしまったりするところはどうしてもあると思うけれど、少しでもそんな偏見を取り払って世界を見れるようになると良いな。

ちなみに、文庫版には各作品について作者さんのひと言解説が載っていて、それもゆるくて面白いです。
折角なので、気に入った何編かについて私も真似してひと言感想。

あなたの好きな少女が嫌い……となると女子校って意外と楽園に近いところあるかもしれない。
バルテュスの「街路」への感慨……画像検索しました。
パンク少女がいい子になる方法/いい子が悪女になる方法……じゃあ妹のよく使ってる口紅ラスボスって名前だから、ダンジョン最奥で待っててもらおうかな。
TOSHIBAメロウ20型18ワット……こういう時めちゃくちゃある。
武器庫に眠るきみに……怖い。
履歴書……無為に生きてる人間だと心抉られる。
テクノロジーの思い出……ねるねる〇るねはテクノロジー
娘が恋人と別れると……女性の共感は愛情表現みたいなものだから……。
父と背中……これもまた深い愛情。

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2024年09月22日

Posted by ブクログ

ブログの延長とショートショートで構成されている感じ。ちょっとだれてきたなーと思い始めたあたりでホモソ社会への強烈な怒りが弾けて目が覚めるので、クラシックのコンサートみたいだ。この作品は置いておいて、松田青子さんの長編小説が読みたいと思った。

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2024年06月16日

Posted by ブクログ

まったく意味分からなかったのも、めっちゃ笑うのも、めっちゃ考えさせられるのも込み込みでジェットコースターみたいな読書体験。

まじで分からないって話があったから星3だけど、刺さるやつは星5すぎた。

みんなの感想見てたら私がよく分からなかった話に共感してる人がいたから、折々で読み返したい。

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2024年02月02日

Posted by ブクログ

初の松田青子さん。せいこさんではなく、あおこさん。短編集。「バルテュスの「街路」への感慨」で、笑い、「水蒸気よ永遠なれ」で、目が点。

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2023年10月04日

Posted by ブクログ

様々な構成や視点の文体が並ぶのが面白くて、章ごとに興味を掻き立てられる。視点は偏っているようにも思えるが、素直な筆者の叫びとして、リズミカルに疾走する文体にのって、こちらに届く。筆者がそれぞれの章を書くことになった経緯を走り書きしたような後書きも、楽しい

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2023年09月04日

Posted by ブクログ

比喩皮肉が多用されていて、短編集なのに深い。
ジェンダーを風刺したり、日常の出来事に鋭い意見を書いているので、この人は何かに怒ってるのかな?と思いながら読んでいたけど、最後に各話への一言コメントが書かれていて、そこで少しほっこりした。

とにかく面白かった。また別の作品も読んでみたい。にしてもかわいい表紙の割に冷めた文章だなーと思った。

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2023年03月15日

Posted by ブクログ

文庫本の帯で紹介されていた「あなたの好きな少女が嫌い」の文章がカッコよかったので読んでみました。
「あなたの好きな少女が嫌いだ。あなたの好きな少女は細くて、可憐で、儚げだ。」
うん,確かにあなたの嫌いな少女が好きです。

捉え方が少し類型的な気がするけど、シニカルな視点が魅力の掌編集です。
巻末に収録された、著者本人による全53話のひと言解説と照らし合わせながら読むとより面白いです。

いろんな視点をお持ちのようですが、ジェンダー以外の作品は切れ味が劣る事が多い気がするのが残念。

ざっと他の人の感想を見て、誰も褒めてないけど「TOSHIBAメロウ20形18ワット」にいちばん共感しました。僕にも囁いて欲しい。こういう事ってよくあります。

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2023年02月26日

Posted by ブクログ

ネタバレ

後ろの著者ひと言解説を読みながら
読みすすめると読みやすいかも…


最後の3分の1が面白いが 
中盤は良くわからず胸糞悪くなる

言葉遊びをしているような感覚

若い時代と悲しみがお気に入りです。

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2023年02月08日

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