あらすじ
文学は心に残る「問い」との出会い。「いま」を切り取る最前線、ベスト短篇アンソロジー。
【収録作品】
石田夏穂「ヘルスモニター」
李龍徳「反男性」
滝口悠生「煙」
今村夏子「三影電機工業株式会社社員寮しらかば」
山下紘加「わたしは、」
朝比奈 秋「雪の残照」
市川沙央「こんぺいとうを拾う」
金井美恵子「夢の切れはし」
川上未映子「わたしたちのドア」
角田光代「星ひとつ」
小野絵里華「夜のこども」
グレゴリー・ケズナジャット「痼り」
牧田真有子「水くぐりの夜」
くどうれいん「スノードームの捨てかた」
【編纂委員】
磯﨑憲一郎
伊藤氏貴(解説)
金原ひとみ
川村湊
島田雅彦
【装幀】
帆足英里子(ライトパブリシティ)
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
2024年に文芸誌に載った短編、十四編。よかったのをいくつか。
『煙』滝口悠生
長男、長女、次女、次男、三女、三男の六人兄妹。視点は三女の息子(二十代独身)。長男、深志おじさんを介護施設に入れるのに、兄弟が勢ぞろいし、三女の息子はその運転手をする。深志おじさんは、しばらく行方知れずで、路上生活もしていたらしいが、そのことを伝えるのに重さ暗さはない。どこにでもある一家の、これから減っていく人たちの描写。書かれていることはどうということもないのに、読ませるのは、人の営みの愛しさを感じるからか。
『三影電気工業株式会社社員寮しらかば』今村夏子
仕事を辞め、遠距離恋愛用マチアプで知り合った恋愛関係にある男の家に越すことにしたが、リフォーム中だからと断られ、その近くの工場の寮に入ることになった二十八歳。十八で実家を出てから、恋人や友人の家に同居を繰り返してきた彼女。仕事の覚えが悪く、共同生活にも向いていない、どこまでも孤独という、今村さんの小説といえばこれという、社会の常識から落っこちた女の子。妻子があるに決まってる男のことを丸ごと信じる。けなげというのか、寄る辺ないというのか、ピュアすぎるバカ? でもあんがい芯は強くて、真面目に毎日を積み重ねていく。工場に居ついてしまったよ。困った。切ない。
『こんぺいとうを拾う』市川沙央
主人公の尖った性格と、こんぺいとうのとげとげと。さらには、オルゴールのとげとげも。宝塚をくさし、ジブリをくさし、エスカレータを歩く人を認めない(そのために大怪我を追い、無職になった)。自分を性格が悪いと認識している主人公。かつて、千羽鶴とともに入院している同級生へ送った寄せ書きへの痛烈な批判(健康で壊されることのない日常を送っているものからの、治ることがない病気を患ったものへの白々しい空疎なエール)はもっともだが、そこにさらに性格の悪い一言を付け加えてしまう。ずばずばと、共通認識とされているものを斬る知的な文章が気持ちいい。
『わたしたちのドア』川上未映子
今にも崩れそうなアパートに住む老いた女が、隣人に思いを馳せる。「人生がひとりでに折り畳まれてゆく頃になって」という表現がよかった。
『星ひとつ』角田光代
父親が戦後始めた定食屋を継いだ二代目が、定食屋と日本の歴史を振り返る。頑固おやじの店として持ち上げられたこともあった。遠方から来る客で、行列ができたことも。今は閑古鳥が鳴いている。食レポサイトに酷評が書き込まれたからで、しかし、そうなる以前から、客は少なくなっていった。子供は巣立ち、妻が先に逝ってしまった今、店で一人、子供が小さかった頃、店の帰りに三人で見上げた一番星のことを思い出している。
『スノードームの捨て方』くどうれいん
婚約破棄された友人を慰めるべく集まった、高校時代の友人三人組。年は三十。それぞれ、美容師、看護師、会社員で、既婚子あり、婚活中、未婚のままでもいい、と仕事もスタンスもばらばら。夜、酔った勢いで、公園に穴を掘りにいく。どの仕事が立派とかない、とか、結婚と独身が同程度に幸せとか、とてもやさしくて、気負っていない。若い人の感覚だなー、羨ましいなーと思った。
Posted by ブクログ
石田夏穂さんと今村夏子さんのがめちゃくちゃ面白かった。
読後すっきりするのがエンタメ、
もやもやするのが文学
今を生きる14の問
というテーマ故、いつもと違う視点で文学らしく読んでみたものの、想像力の乏しさから、物語のその先の問は全く思い浮かばず。しかし、解説を見ながら
『そんなたいそうな』と思いながらも
文学というものをもう少しだけ理解できたような気もする。
Posted by ブクログ
今村夏子「三影電機工業株式会社社員寮しらかば」
今村夏子さんが描くイマイチ掴めない人物像の主人公が大好き。今回も相変わらず影が薄くて、基本静かなのにいきなりたくさん喋り始めるところとか、謎めいてる感じが好きだった。遠距離恋愛を希望する人同士のマッチングアプリという時点でアウトでしょと思ったけど、最初からリフォームの話は嘘だったのか明確に明かされないまま終わったからモヤモヤした。社員寮での他人との関わりや、共有スペースでの描写が良かった。短いお話だから物足りなくて、もっと読みたかった。
山下紘加「わたしは、」
全部わかったときは、すごい忙しかったじゃんと思った。「わたしは他人と出会いたいというより、「自分」と出会いたかった。自己愛に近いのかもしれない。誰かと出会うことで、「自分」から派生して枝分かれした、自分A、自分B、自分Cなるものに触れたかった。」という文章で一気に種明かしされた。同級生の遠藤が不憫。
くどうれいん「スノードームの捨てかた」
3人の友情の距離感がいい意味で大人で、サッパリしていながらも、それぞれが心の拠り所にしている感じが良かった。題名の通り、スノードームの捨て方について触れてる部分もあった。雪だけが舞うスノードームを気に入る2人は結婚するべきだという言葉に魅了された。