あらすじ
中世は「暗黒の」千年紀、文化と文明が壊滅的に失われた停滞期だったのか? 11の通念をとりあげ、中世の歴史的実像を提示する。
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Posted by ブクログ
ファクトとフィクションという副題どおり、中世ヨーロッパに関して広まっているフィクションを取り上げ、何がファクトだったのかについて紹介する。いかにフィクションは生まれたか、実際はどうだったのか? と順を追って解説されている。フィクションを生み出した叙述やフィクションが形成されるために恣意的に使われた史料、そして、ファクトを示す史料も取り上げられていて目から鱗である。訳者による筆者の著述に対する疑問や訂正が入っている箇所もあり、面白い。中世ヨーロッパを知るのに必読の一冊。
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「中世は暗黒時代だった」、「中世の人々は地球は平らだと思っていた」、「中世の人々は魔女を信じ、火あぶりにした」など、中世ヨーロッパに関する11の通俗的見解について、一次史料をふんだんに引用して、そのフィクション性を明らかにする。11のフィクションを取り上げた各章は全て、①フィクションの概要(人々が起きたと思っていること)、②フィクションの成立過程(物語はいかに一般に流布したか)、③フィクションの基となった一次史料、④実際に起きたこと、⑤実際に起きたことを支持する一次史料という構成となっている。
通俗的見解を糾弾する論じ方がちょっと大仰すぎる気はしたが、歴史学における史料批判を追体験でき、知的面白さを感じた。
また、訳者あとがきにおける、間違った歴史観を構築するに当たって普遍的に見られる3つの「くせ」(①短慮軽率型、②優劣比較型、③人身御供型)の指摘が興味深かった。
Posted by ブクログ
歴史は必ずしも事実が定説になるとは限らない。中世ヨーロッパもそうだ。
見ていくといろいろな思い込みで事実と虚構が入り混じっている。今回の本ではその点について知ることができる。
コロナウイルスが発生してから今まで、どこかで一度は見聞きしたことあるのは、ペスト医師のマスクだ。
まるで鳥のくちばしに見えるマスクをした医師で、ペストが流行したヨーロッパの状況を表すとされてきた。
ところが、ペストの流行は中世の間ずっとではなく、はじめと終わりの時期だった。しかも、ペスト医師の偽物ではない図像が現れるのは、17世紀以降になる。
あの姿は絵になるので、人々の話題に上がるから今までも中世のペスト流行の象徴になってしまう。
人々の好奇心をかきたてるといえば、魔女だ。中世の人々は魔女を信じて、火あぶりの刑にしたと長年言われてきた。
しかし、15世紀以前に魔術を使ったとして処刑された女性は1人だった。現代人が抱く魔女に対する扱いは、16世紀から17世紀になってからのことだった。
今まで言われてきた歴史と実際にあった歴史の違いを知るのは興味深い。1+1=2と単純に割り切ることができないのか歴史だ。人間の営みで出来ているのだから。
Posted by ブクログ
中世は長い時代で、その一時期にしかなかったようなことなどが誇張されて膾炙していることがある。そのようなことについて反駁を加える書である。
流布していること、そのことについての資料からの引用、実際のこと、資料の引用のパターンで書かれている。
引用部分が大変長かった。
Posted by ブクログ
中世は暗黒時代の思い込みはウソという惹句が良く、前評判も高かった。悪くはなかったが、期待ほどではなかったというのが、正直なところ。
中世の人は地球は平らだと思っていた、魔女を火炙りにしていた、などの言説が、後世に意図的あるいは無知によって作られたことを、中世の一次資料を元に示す。だが、中世がどのようではなかったかを示しても、どのようであったかを示しているとは言えない。
例えば、農民は不潔で風呂に入っていなかったという迷信に対して、ヒポクラテス学派の入浴の健康に対する効能書、バースやポッツオーリの公衆浴場、デューラーの浴場の版画を反例に上げている。しかし、「入浴は、多くの病に効果を発揮する。ただし、恒常的に入浴療法を用いるべきものと、そうでないものがある。」(ヒポクラテス)という文を見せられた場合、入浴は特別なものであり、一般的かつ日常的に行われるものではなかった、と見える(治療としての入浴で、しかも恒常的に行うべきではない場合があるものが一般的だったとは思えないね)。確かに入浴が無かったとは言えない、という根拠にはなるだろうが、農民は、風呂に入っていたのだろうか?
あることを証明する時、いつも(全てが)Aである、という説を覆すのは、反例を一つ挙げればいいので簡単なのだけれど、じゃあBであると言えるのかと言われれば、そう簡単にはいかない。
本書を読んで言えることは、中世という時代区分は広すぎるということである。紀元500年〜1500年ローマ帝国の滅亡からルネサンス直前、それこそデューラーまでを一括りにしようという方に無理がある。本書でも取り上げられている中世に対する迷信は、歴史を見る場合の過度の単純化によるものでもあり、それに対してとるべき態度は、Aとは言えないということを示すのではなく、中世の多様さ(時間的、空間的に)を示すことなのではないか。
また、本書の欠点としては、「一般にこう考えられているが」という「一般」が英米に偏って(というか、ほとんどアメリカ)おり、迷信と言われても、は?となる。