【感想・ネタバレ】すみれ荘ファミリアのレビュー

あらすじ

愛ゆえに、人は。

『流浪の月』『滅びの前のシャングリラ』本屋大賞受賞&二年連続ノミネートの著者が描く、家族の物語。

すみれ荘のその後を描く「表面張力」を収録した完全版。

下宿すみれ荘の管理人を務める一悟は、気心知れた入居者たちと慎ましやかな日々を送っていた。そこに、芥と名乗る小説家の男が引っ越してくる。彼は幼いころに生き別れた弟のようだが、なぜか正体を明かさない。真っ直ぐで言葉を飾らない芥と時を過ごすうち、周囲の人々の秘密と思わぬ一面が露わになっていく。
愛は毒か、それとも救いか。本屋大賞受賞作家が紡ぐ家族の物語。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

題名と表紙からほのぼの下宿話かと思って読みすすめてたら、中盤から一気にサスペンスに。

鈴蘭みたいに、じわじわくる怖さがたまらなくよかった。

この本は一貫して、人にはいろんな一面があることをわかりやすく題材にしてくれてるから読みやすかった。展開も読めるはずなのに、ハラハラドキドキできた。

青子は私は一生許さないので、主人公の判断には少しモヤモヤしてしまったが、子を持つ親としてそこまでの考えに至らなかったので少しだけ尊敬?してしまった。

エピローグは、正直いるかな?と思っていたが、オチにはヒヤリとしたが大満足だった。(ヒトコワ好き)

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2025年09月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

◾️record memo

誰かを守ろうとする愛情は、ときとして他人への排除になる。

「結婚してるの?」
「してた。三年前に事故でね。これは仏壇にあげる花」
芥はまた、ふうん、と聞き流した。
さっきまでと違い、それを気楽に感じた。子供のころからの定期検診と同じく、同情にも慣れている。同情はありがたく、重く、いただきすぎると疲れてしまう。

自分の身体なのに思いどおりに動かせない歯がゆさ。肉体的苦痛が長く続くと精神もやつれてくる。あがくほどダメージは増し、諦めて現状を受け入れることが一番楽だと気づく。それがたとえじわじわと未来をも殺していく遅効性の毒だとしても。

「みんなそうならまだ耐えられるけど、なんで自分ばっかりって思っちゃうのがまたしんどいんだよ。自分だけで呑み込むしかないのはきつい」

「大多数の意見なんて、ユメマボロシでしかないんだから」

もういいやと愛されることを手放した。はい、わたしは欠陥品です。修理不可能なので捨ててください。そう開き直ると、いくぶんかは楽になった。

「別にかわいそうとかじゃないよ。無駄な努力はしない、あたしはあたしのままで生きてくしかないってだけだから。高望みさえしなきゃ楽になる。それがわかった」

「ごめん。あたしPMSで月の半分を食い尽くされちゃってんの。だから残りは楽しいことしかしないって決めてるの。あたしにとって本気の恋愛って楽しいことじゃないし、自分が毎日生きるだけで精一杯だし、誰かの夢の応援する余力はないし、逆にあたしが応援されたいくらい。だからアンディのさっきの言葉聞いてドッと疲れた。なんか夢から覚めたというか、強火オタって言ってたけど、担下りしたくなった感じ。もうアンディで萌えられない。楽しめないコンテンツにお金は払えない」

「そんな文句言われるくらいなら、毎月痛み止め飲んで働いて、自分で稼いだお金で楽しいコンテンツ買って、幸せ補給して、あとは好きにぶっ倒れていられる今の暮らしのほうが千倍マシなんです。わかったら人の領域にずかずか入ってこないで」

そもそも闘うための武器が武器の形をしているとは限らない。人によっては甘い菓子だったり、宝石だったり、ぬいぐるみの形をしている。

みな、それぞれになにかを抱えて生きている。それが透けて見える人もいれば、普段の態度からはけっして見えない人もいる。外見と内面の不一致。一見イケメン好きで軽い生き方をしている美寿々が内側に秘めている強いもの。冷笑で世間を斬りにかかる隼人が、夢の尻尾を捨てきれず隠し持っている弱さのこと。

「ありのままの自分ってなんだ?自分が何者なのか、なにを望んでるのか、みんなそんなにはっきり把握してるのか?少なくとも、俺は自分のことなのにわからないことがたくさんある。自分ですらわからないものを、他人がどう赦して受け入れるんだ。そもそも赦されなくても、受け入れられなくても、生きていくことに変わりはないだろう?」

「『天は自ら助くるものを助く』って言葉を知ってる?昔、俺に教えてくれた牧師がいたよ。どれだけ手を差し伸べられても、その手をつかむかどうか決めるのはきみだ。本当の意味できみを助けられるのはきみだけだ、神はその道しるべをくれるだけ、それを見落とさないよう、自分で自分を愛してあげなさいって」

愛という名の器に注がれた毒。
罪を犯した人間が、悪人であるとは限らない。
罪は罪で、悪は悪で、愛は愛で、単純であってくれれば楽なのに。

美寿々は開き直ったように言う。人生の半分を呪いに等しい苦痛と二人三脚で生きている美寿々は、世間一般の評価というものからすでに逸脱している。諦観と紙一重のその価値観に、関係のない他人が口出しする権利など一ミリもない。

友人も恋人もいないが、たまに牧師と会って話をするだけで充分だった。なぜ世の中が『ひとり』イコール『独り』と定義するのかもわからなかった。『ひとり』を寂しいとは少しも思えず、逆に集団に交じったときのほうが居心地の悪さを感じた。

「神さまは人にとって無駄なものは与えないって牧師さまは言ったけど、こう次々トラブルが起きるなんて、そもそも人って欠陥品なんじゃないかな」

そうかもしれない。なによりも尊いとされている愛ゆえに子を捨て、愛ゆえに子を虐待し、愛ゆえに夫を刺し、愛ゆえに毒を盛り、愛ゆえに無理心中を図り、愛ゆえに火をつける。毎日、毎日、世界中で愛ゆえのトラブルが起き続けている。

神さまは人にとって無駄なものはなにもお与えにならない。冬が長く続き、きみの心は植物の種のように眠っている。けれどいつかふたたび芽を出す。

「あたしには、あたしの稼ぎだけで成り立ってて、他人に侵害されない、不条理に奪われない、誰にも気兼ねせずに安心してくたばれる場所が必要なの。冬眠中のクマの巣穴みたいなものかな。それは恋とか愛とは別の次元の話なの」

一ヵ月の半分を死んだように生きながらも、美寿々は自らの人生の手綱を自分の手にしっかりとにぎり続けようとする。

世の中の人すべてが理解し合い、許し合えるなんてのは幻想だ。だからといって希望を捨てることはない。世界にも、心にも、グレーゾーンというものがあっていい。

今、目の前にいる『この人』は、何用の『この人』だろう。仕事用、知人用、友人用、恋人用、身内用、自分専用、同じひとりの中に、いろんな『この人』がいるんだろうなと、つい想像してしまう。

いつも朗らかで場を和ませる人が、家に帰ると不機嫌を隠しもしないでソファで力尽きているかもしれない。わたしが恋人だったら、一日中酷使されたハンカチみたいに皺くちゃになった姿を愛しいと感じるだろう。でも愛が冷めてしまっていたら、うんざりして目を逸らしてしまうだろう。

義妹だけでなく、昔から特に誰かを嫌ったことがない。誰かを嫌うというのは心の負担になる。嫌いなら見ないふりをすればいいだけなのに、みんなよくそんな疲れることをするものだといつも不思議に思う。

友人、恋人、義理の両親、檀家さん、みんな話を聞いてもらいたがる。本当の自分を理解されたがる。わたしは父の教えどおり、黙って話を聞く。みんな、わたしといると落ち着くと言ってくれる。
わたしはたまに自分を花瓶のように感じる。みんな、わたしの中に自分という名の花を生けたがる。わたしは沈黙の器になる。わたしはなにも考えない。

『普通そうにしてても、みんな、誰にも見せない顔がある』

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2025年07月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

愛で歪む人間の弱さと身勝手さを、日常的なストーリーの中で丁寧に切り取っていて人間の真理を描いた作品だなと思った。親子愛、兄弟愛、パートナーへの愛、自己愛、色んな愛の形を、不器用に懸命に(どこかでは諦めながらも)生きる人間達を通して描いていて、ストーリーとした楽しみながらも、色んな角度から考えさせられる内容だった。

疎遠の弟が身元を隠し現れるという何かがありそうなイベントをスタートで出しながらも、すぐには真実に触れず日常のほっこりした描写で読者を癒やしつつ、少しずつ深層に近づいていく展開が心地よい。一人一人にスポットを当てた章が毎度期待をこえてくるし、央二の過去やその先など期待を裏切らず収めてくれた印象。(最後に変な因縁とか別の秘密とかが出てくること無く終わって安心して読み終えられた)

設定としてあくまでホームである「下宿」が舞台であることが、必然と登場人物の素の部分にフォーカスされていて話の展開や会話の内容にも納得感があった。
人物のバランスとしても、気弱で気遣いの和久井に対し正直すぎる性格の美寿々と隼人と芥という住人がいることによって、会話の推進力となって読みやすい。言いたいことをスパスパと言ってくれるから終始清々しい。(けど本人には悪意はなかったり、結局は仲良かったりという設定が世界観にも合っていて◎)

美寿々と隼人の章では、それぞれの夢と現実とその葛藤をテーマにしていて面白かったが、章のタイトルが「〇〇の告白」と続く中で急に青子の罪の告白が始まって驚いた。紅茶の描写が細かいことからきっと何かはあるかと思ったが、和久井の高校時代から毒を盛り体調不良を起こさせていたと思うと本当に不憫。だが、それでも亡き妻や娘を想い青子を憎み切れない主人公がリアルだったと思った。特に、義父と義母の「桜子のために和久井を憎み、青子のために和久井を赦す。そんな手のひら返しに理不尽を感じながら、自分は喜びに嗚咽した。」っていう部分が好きだと思った

何より、芥(央二)の人物設定や憎めない描写がキャラとして魅力的すぎる。(ここは語ると長くなりそうだから割愛)。あとは、和久井が作るご飯の描写が丁寧で、作風として好きだった。
総じて、凪良ゆうさんの本もっと読みたいと純粋に思った作品でした!

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2025年07月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ふと、凪良ゆうさんの作品に通底するままらなさを味わいたくなり手に取った一冊。

すみれ荘の住人たちは、他人より家族に近い立ち位置で、お互いほどよく干渉しながら暮らしている。愛憎うずまく人間模様の中で生まれたそれぞれの罪。最後は兄弟の絆を回復してよかった。

泣きたい時に泣けない。泣くべき場面で泣けない芥。最近読んだ涙の箱を思い出した。

凪良さんの作品、読むの何作目だろう、、
と数えてみると、
流浪の月→神様のビオトープ→わたしの美しい庭→汝星の如く→すみれ荘ファミリア
5作目でした。



次作も楽しみ。

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2025年09月17日

ネタバレ 購入済み

愛は怖い

他人から故意に人生を悪い方に仕向けられるって…ほんとうにこわい。
すずらんを挿していた水でって、子供の頃に夾竹桃が毒だと教えられたことを思い出しました。

#切ない #深い

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2023年01月17日

Posted by ブクログ

ネタバレ

和久井一悟
三十三歳。実家は「すみれ荘」もちつ下宿を経営している。管理人代理。幼いころから身体が弱い。虚弱体質で高三の夏以降は入退院を繰り返して就職もできず、すみれ荘の大家代理に落ち着いている。妻を亡くしており、娘は妻の両親の下で育てられ、今年で五歳になる。

芥一二三
和久井が乗る自転車に衝突される。事故で右手の甲にヒビが入り、和久井に仕事を手伝ってもらうためにすみれ荘に入る。二十九歳。小説家。右目の下に涙形のほくろがある。三年前に妻を事故で亡くす。本名は斉藤央二。二十四年前に別れた一悟の実の弟。

玉城美寿々
二十歳ですみれ荘に入居し、六年目を迎える。PMS(月経前症候群)で体調の悩みを抱えている。大学卒業後、子ども用品を扱う会社に勤めている。

上郷青子
三十六歳。すみれ荘の一番の古株住人。フラワーショップの店長。和久井の亡き妻・桜子の姉。

平光隼人
テレビ番組の制作会社に勤める。弁が立ち、押しが強く、人の心をつかむのがうまい。大学時代は映画サークルを主宰していた。

悦実
和久井の母。すみれ荘の大家。夫と離婚したあと、幼かった一悟を連れて実家であるすみれ荘に戻った。

三上
和久井の母の恋人。家庭菜園が趣味。
駅前にビルを持つ地主。

居酒屋の店長
町内会で顔なじみの二代目。

アンディ

桜子
亡くなった一悟の妻。

前野
隼人の大学時代の映画サークル仲間。

一咲
一悟、桜子の娘。

藤田
すみれ荘の隣のお爺ちゃん。

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2025年12月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

内容は日常的な出来事で、興奮するものはなかったが、時々ハッとする一文があった。「世界は面倒なことであふれている。けれどあらゆる面倒な仕事や面倒な人間関係 のしがらみこそが、自分を支えていたりもする。それらがなければ しんどい思いをして面倒ごとに立ち向かう理由はどこにあるだろう。 そうして手間をかけるほど、ますますそれらは大事なことになっていく」
「もう何が正しくて何が間違ってるのかわからない まるだったら 当事者がよければそれでいいじゃないか まる全ては 精錬にすることができないのなら 濁ったまま それでも少しでも良い方に進んでいきたい。」

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2025年10月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

寝る前にちょこちょこ読んで、やっと読み終わった本。

まず、ミスズのPMSがキツそうすぎて読み進まなかった。
そして隼人もまあ、業界人って・男の友情って
そんな感じなのかな〜くらいの感想。

しかし、
青子さん、、、え、、、、和久井をちょっとずつ殺しにかかってたなんてすごい試み。気付かなかったわあ( ̄д ̄;)
今までと展開なんだが違くない??
これも愛だなんて、拗らせまくってる、これは面白くなってきた、、?!と思ったけども、
このパートのみが最初で最後のピークって感じだった。
といっても、悪いとわかっていることをしつつ、なぜ祈るのか、私にはよくわからなかったけどねえ。
全体的にあんまり共感できる人がいなくて、ずっと集中力切れてたかも。

芥は、兄に接触して目標は達成したのかい?

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2025年09月20日

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