あらすじ
容姿や年齢、結婚、セックス、お金とプライド…
本音の見えづらい関心事を正しい姿という共通のモチーフで鮮やかに切り取る短編集。
不倫に悩む親友にわたしがしたこと(「温室の友情」)、
同じマンションに住む女に惹きつけられる男(「偽物のセックス」)、
残り少ない日を過ごす夫婦の姿(「幸福な離婚」)――。
偏見や差別、セックス、結婚、プライド、老いなど、
口にせずとも誰もが気になる最大の関心事を、正しさをモチーフに鮮やかに描く短編集。
解説・桐野夏生
※この電子書籍は2018年6月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
この方の作品によくある、短編だけど人物がどこかで繋がってるってシステムで、桐生夏生さんの解説が最後良い仕事をしてくれていた。(イツキ先生はどこで繋がってた?とおもってた)最後の話がやっぱり良くて不気味で、よくこの話をまとめられてるなーと思った。
Posted by ブクログ
「偽物のセックス」「幸福な離婚」がよかった。
「偽物のセックス」は登場人物の誰かが好きということはなく、かと言って全く理解できないこともない、そう考える人もいるよねという程度。ただ女の「正しいセックスが好き」というのが良かった。わかる。正しくないセックスにはそれなりの良さはあるのだけど、正しいセックスの心地よさと開放感がいちばん。不倫モノの背徳感を描く作品は多くあるけど、それに対して正しいセックスの方が良いのだとしっかり説く作品は初めて読んだ。他にあるなら読みたい。
「幸福な離婚」は期限付きの幸福感が鮮明に伝わってきて、苦しくてしんどくてどうしようかと思った。かけがえのない幸福な生活。一緒に生活する中で食のサイクルや好みが似通ってくるところ、そもそも食の好みや食に対してどれくらいのコミットするのかが一致する相手はそう多くない。たくさんの人間がいる中でいわゆる「相性」というものが相当合う2人なのはよく伝わるのに、うまくいかなくなっていった様子があまりにもリアルだった。
Posted by ブクログ
【不倫も、おそらく夫婦も、きっとすべては演技だったのだ】
6つの物語で構成された連作短編集。千早茜さんが紡ぐ言葉は、いつも私の心に響く。どこか身に覚えがあって、一度は頭の片隅に置いてきたはずのかつての自分自身の記憶が蘇るような感覚に陥るのだ。本作もその1冊。全ての短編の内容が濃密で、読み応え◎だが、特に『幸福な離婚』が好き。その文中で離婚を決め離婚届を提出するまでの期間を「結婚の死を看取る」と表現する作者の感性にも魅了される。「正しさ」の価値観は人それぞれで、時として凶器にもなりうる取扱注意なものだと思う。
Posted by ブクログ
「別れることが決まった途端、イツキとのありふれた日常は脱皮するようにまあたらしいものになった。すべての瞬間が鮮やかで澄んでいて、かけがえのないものに思われた。」
それが長く留守にするものであっても短いものであっても、楽しみにしていた予定ほど出かける直前、なぜだか家族とのやり取りやいつもと変わらない時間が急に愛おしく貴重に思え、ウキウキする気分がしぼんで、もう出かけるのはやめてこのまま家族と家で過ごしたい、と、締め付けられるような気持ちになることがよくあるけれど、その感じが『幸福な離婚』の主人公の気持ちとオーバーラップし、終始、切なかった。
別れを目前に、思いやりを持てるのは、主人公が思う期間限定のものだからでは決してなく、その大切さや愛おしさを再認識し、初心に返るからこそだと思いたい。
Posted by ブクログ
千早茜さんの文章すごく好きだな〜!なんでこんなに読みやすいのに、いつもかゆいところに手が届くような、言語化しにくい繊細な気持ちにさせてくれるんだろう。
千早先生の食事の描写が好きで、今回は、想像すると美味しそう…ではあるんだけどどこか白々しかったり、毒々しい食べ物の描写が印象に残った(桃とか、アフタヌーンティーとか…おいしいはずなのに…)。幸福な離婚の食事だけはおいしそうだった!桃のプライドの「季節感のあるものを楽しめるのは余裕のある人間だけだ。」にすごく共感して、だからこそ季節感のあるものを楽しむようにしたいなと思った。
1話目の4人と同じくらいの年齢の女だからひりひり…ひりひり…しながら読んだ。女を食い物にする男、男を食い物にする女、女友達に覚える違和感…他にもたくさん、全部わかる感情だし現実にある話だからうわあ〜〜って読んでて辛かったんだけど、だからこそ海辺の先生とか桃のプライドの結び方にジンときた。海辺の先生すごく好きで、めっちゃいい話やないか!!と純粋に思ってたから、桐野先生の解説で示唆された海辺の先生と偽物のセックスの繋がりの可能性にひっくり返りました。そうだったらとんでもないな!!(好き)
Posted by ブクログ
「正しさ」をモチーフに
センシティブな女達の悩みを素直に描いた短編集
桐野 夏生さんの解説までも面白い
女の子たちの願望やコンプレックスを描き、
主人公は自分を正当化させ、見たくないもの・信じたくないことには蓋をし、自分の言動が正しいと言い聞かせる「温室の友情」
解説で考察されていた内容にドキッとした「海辺の先生」
正しいセックスとは何なのか。
人間の繁栄の根本であるセックスについて思想を持っている隣人の女に興味をそそられるセックスレス夫婦の夫。
いけない道だと、頭では理解しているものの、男性の脳が、本能が、身体が、嫌という程制御が効かず、動いてしまう。ラストは身体の制御が効かず、本能で食らいついてしまった奥さんに対して、ちゃんと反応してくれてるのを理解した瞬間、今までのセックスレスはなんだったのだろう、そして自分のしたいことはこの欲求を満たすことだったのかと自問自答に囚われ、虚しさの賢者モードへと覚醒する「偽物のセックス」
離婚を見据えているのにも関わらず、お互いがお互いのことを大切に思っていることをどうにか相手に伝えようともがき、反省し、それでも結果は変わらず、もどかしいながらも半ば諦めさえも感じさせてくれるが、最終的にはお互いが感謝を感じ、共に前を向いて歩いていく「幸福な離婚」
→このお話が1番好き。
誰しもが持っているプライドを細かく表現し、認めたくない自分の汚さ、堕落さをしっかりと理解するところまで描いた「桃のプライド」
男性目線で女性の年齢や容姿などをバカにしたり、 不憫に思ったりと男が女を下に見るような表現が多く、最終的には男に精神的苦痛を与える復讐劇のような「描かれた若さ」
5つの自分なりの正しさを見れたような気がして面白い短編集だった。キャラクターのセリフの中にもぐっとくるフレーズが何個かあり、自分自身、今後の生き方を見直せるようなそんな小説だった。
Posted by ブクログ
二話、四話目が連作とは桐野さんの解説を読むまで気づけなかった。最後の話が一番展開がありふれていなくて面白い。後離婚相手との温かい関係も◎
◯温室の友情
不倫する親友の為代わりに相手の妻に告げ口。私の顔は私を自分のものにしようとする母に似ていた。
↑文章が箇条書きを繋げたみたいなのに語り過ぎてる。不倫先の家に行く描写は事前には要らない。
私が書いて引っかかる文章に似ている。
◯海辺の先生
田舎のスナックの娘。客の「先生」に勉強を教えてもらい、東京の大学へ行くことを自ら選択。
↑三話目の男の昔の彼女?(行為中「先生」と呼ぶ)
◯偽物のセックス
同じマンションの女に欲情する男。「正しいセックスしかしたくないの」女に言われるまま妻を襲い拒否されない事に安堵。俺がしたかったのはこんなことか
◯幸福な離婚
離婚まであと四ヶ月半。夫婦は穏やかに過ごす。
↑三話目で女が口にする「イツキ先生」、ミヤを誘うメールの西村は一話目の恵奈の不倫相手。
◯桃のプライド
くすぶって売れなくなった女優の環。「あなたたちは求めるばかりで、求められることを考えていない」
一話目の脇役麻美、環が三、五話目に出てくる。
◯描かれた若さ
婚約者に肖像画のモデルになってと頼まれ行くと描くのは女子高生。依頼主は昔の恋人、婚約者は従妹で、彼女の前で昔の恋人の年齢を男は貶めていた。
↑「本当に沙耶香なのか」は展開が読めるので不要と思う。