【感想・ネタバレ】夜空に泳ぐチョコレートグラミー(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

思いがけないきっかけでよみがえる一生に一度の恋、そして、ともには生きられなかったあの人のこと――。大胆な仕掛けを選考委員に絶賛されたR-18文学賞大賞受賞のデビュー作「カメルーンの青い魚」。すり鉢状の小さな街で、理不尽の中でも懸命に成長する少年少女を瑞々しく描いた表題作他3編を収録した、どんな場所でも生きると決めた人々の強さをしなやかに描き出す5編の連作短編集。(解説・吉田伸子)

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Posted by ブクログ

ネタバレ

おおよそ、同じ町を舞台とする5編の短編小説であり、登場人物それぞれが生々しい苦しみを抱いている。
それは過去の悔やみであるものもあれば、生来のもので向き合っていくしかない苦しみもあり、それぞれの渦中で巻き起こっていく。

恥ずかしながら、読んでいくうちに『この物語はどういうふうに他の短編と繋がりがあるのだろう』という好奇心を抑えられないで読む自分がいた。
しかし、最後の短編『海になる』でそれを悔やんだ。
というのも、話の最後に『うみのいりぐち』という助産院が登場し、「この中では世界中の哀しみや苦しみから逃げられる」と言われる。これを受けて、それまで狭まっていた視界が大きく、大海を見下ろすように広まったように感じた。小説内の繋がりのみならず、現実世界の、万人の苦しみと繋がっていたのだ、と思った。

現実世界で苦しむ人々が、この本を読んでそれぞれの思い描くチョコレートグラミーとして、暗い夜空の中で、見えない繋がりと慈愛を思い出せることを願う。

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2025年11月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

何回読んでも大好きな本。短編だけど全部繋がってて、私が大好きなタイプの一冊。
チョコレートグラミーっていう魚の名前がまず可愛いけど、飼育は結構難しいらしい。熱帯魚って狭い水槽の中で泳いでて何考えてるかわからないけど、人がそれぞれ必死に生きてるように魚ももヒレ動かして生きようともがいてて、なんだか人も魚も愛おしくなった気がする。人の居場所と生き方って難しいと改めて思った、1人で生きてるわけじゃないから。
他の作品で「死は恋を盛り上げる」的な文があってそれを思い出した。なんとなくサキコとリュウちゃんのお話は、おばあちゃんの死によってより一層生を際立たせているなと思った。啓太の誕生しかり。

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2025年09月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

町田その子さんの『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』
5つの短編から成っています。登場人物は少しづつ重なっている感じです。

「カメルーンの青い魚」
サキコは、中学生の時に幼馴染のりゅうちゃんのケンカを止めに入り前歯二本を折ってしまう。サキコの前歯は差し歯になった。中学校卒業と同時にりゅうちゃんは町を出るが、ヤクザをやっているとか、悪い噂ばかり入ってきます。しかし、数年後に彼はサキコの祖母の通夜にフラリと帰ってて…。

「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」
ほぼ話の主役は晴子という中学生の少女。晴子は母親とほとんど断絶した関係にあり、祖母・烈子に育てられてきました。クラス内でいじめを受けることが続いた晴子ですが、夏の間新聞配達のアルバイトをしている同級生・啓太と出会い、少しずつ心を開いていきます。ある日、おとなしい晴子はいじめっ子のクラスメートを殴ります。

「波間に浮かぶイエロー」
軽食ブルーリボンのオーナー芙美さんは「おんこ」だ。そんな芙美さんの元に、昔の同僚環さんが転がり込む。環さんは妊娠していました。おそらく不倫している夫には知らせず子供を産むと言います。芙美と従業員沙世と環は共に生活を始めます。芙美さんは、赤ちゃんの啓太の面倒をみたこともあり子供を育てることが手伝えると言います。

「溺れるスイミー」 —
主人公の唯は幼少期に父を失い、以後は母と二人で暮らしてきます。唯は地元のお菓子工場で働いており、同僚との結婚の話が持ち上がるなかで、自身の生き方について迷いが生じます。唯はやがてトラック運転手の宇崎と出会い、父親のような「移動する生き方」に惹かれていきます。

「海になる」
3回の流産のあと子供を死産し、夫に暴力を振るわれるようになった桜子。
貧血で倒れた時、雪が降る中ネグリジェ1枚で夫に外に追い出された時、助けてくれたのは長髪の男性・清音だった。そして今まさに命を絶とうとする桜子の前に清音があらわれます。

どの話にも強い女性が出てきます。1人で子供を育てる、若くして自立を決意する、子供の産めなくなった身体を抱えて生きていこうとする。
町田その子さんの作品はたいてい女性が主役である気がします。
現代という生きづらい世の中で、苦しみながらそれでも立とうとする女性が描かれています。
わたしが好きなのは「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」かな。

「そして初めての世界があの魚にとって優しいものでありますように。生きやすい場所になりますように。」

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2025年11月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

町田さんが描かれる人々の、不器用さと優しさが好きです。
短編集だと、のめり込み感が少ないかな?って思ったけど、それぞれの話がちょこっとずつ繋がっていく感じが好きでした◎
また再読して、もっと深めたいと思う1冊です。

ベスト1節 p96
「この水槽の中で哀しい思いをしないように、辛い思いをしないように、私が守ってあげる。焦らなくっていいんだよ。あんたのペースでいい。いつか自分で旅立てると思えるその日まで、私の中にいたらいいんだよ」

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2025年10月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

★★★☆☆星3【生きる】
本の感想は読んでいる時の自分の状態に大きく左右されている。この本を読んでいた時は非日常で忙しい間に隙間を縫って途切れ途切れに読んでいた。普段より疲れていて集中できなかった。
なんでこうなってしまったんだろう。人生において、その時の小さな選択が、のちの大きな結果に繋がり、気づいたら取り返しのつかないことになっていた。でも、不器用だけど必死に生きる人たちがここにいました。暴力、いじめ、ジェンダー、DV、浮気、衝動。みんな何かを抱えて生きている。

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2025年10月13日

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