あらすじ
思いがけないきっかけでよみがえる一生に一度の恋、そして、ともには生きられなかったあの人のこと――。大胆な仕掛けを選考委員に絶賛されたR-18文学賞大賞受賞のデビュー作「カメルーンの青い魚」。すり鉢状の小さな街で、理不尽の中でも懸命に成長する少年少女を瑞々しく描いた表題作他3編を収録した、どんな場所でも生きると決めた人々の強さをしなやかに描き出す5編の連作短編集。(解説・吉田伸子)
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Posted by ブクログ
短編というのはその都度、感情がリセットされるので、
どちらかと言えば苦手な部類なのだが、この作品は別格だった。
大きなみたらし団子にかぶりついたら、差し歯がとれたサキコ。
そんなサキコが差し歯になった原因を作った乱暴者のりゅうちゃん。
サキコが幼い頃からずっと付き合ってきたのに、
今はどこかへ行ってしまったりゅうちゃんとの思い出、
そして思いがけない再会を描いた『カメルーンの青い魚』
夏休みにバイトに勤しむ中学生の啓太と、
啓太の同級生であり曰く付き少女である晴子との
交流を描いた『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』
恋人に突然自殺され取り残された沙世。
彼女が働く軽食ブルーリボン。
店主は男から女に変わる途中、名称をつけるなら「おんこ」だという
ゴリゴリの女装で身を纏う芙美。
その芙美がまだ男だった時代を知っていて尋ねてきた環という妊婦。
そんな三人が織りなすドタバタ劇である『波間に浮かぶイエロー』
製菓工場で働く唯子と、しるしが見えるという男・宇崎。
ひょんな出会いから宇崎に連れられ
彼が運転するダンプの助手席に乗りドライブする『溺れるスイミー』
夫の止まない暴力に苦しみ死を決意した桜子。
その死を決意した日に再会した死神との物語である『海になる』
全5編の短編なのだが、どれも緩やかに繋がりのある連作短編。
個人的には『波間に浮かぶイエロー』が断トツだった。
これほどまでに深い愛で締め括られる物語はそうそうない。
どの作品も登場人物たちは生き方を模索している。
読んでいるだけで辛くなる理由のものもあれば、
少し理解し難いものまで多種多様である。
だが、そのどれもが必死に踠いている。
そしてその溺れるような踠きが、泳ぎへと変わっていく。
簡単なようで難しい。
その泳ぎ方に辿り着けないまま、終わってしまうことだって多々ある。
どれもこれもハッピーエンドとは言い難いが、
でも、読み終えた後の読後感はどこか光が射している。
そんな気持ちにさせてくれる作品だった。
Posted by ブクログ
すり鉢状の小さな街で「ここ」と「ここではないどこか」で生きる決意をする人々の物語。
連続短編集になっていて、毎回冒頭の一文に心を掴まれてわくわくしてしまう。
「ここ」を選んでも「ここではないどこか」を選んでもきっと正解で、人はちょっとした奇跡みたいなものを信じて生きていくしかないないんだろうな。
チョコレートグラミーの生態には驚いたし、物語に重ね合わせるとその生き方に無性に泣きたくなる。
Posted by ブクログ
最後の解説にも書いていた通り、物語の1行目が秀逸で、グッと心を捕まれ物語に引き込まれていく感覚を味わいました。
5篇の中でも「溺れるスイミー」が特に好きで、自分が居るべき場所を離れていくことに安堵や心地良さを感じる主人公の気持ちに凄く共感しました。
表題作の「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」では、思春期特有の人間関係の縺れを表現する文章が絶妙だと思いました。また、啓太と晴子がおにぎりを頬張りながら交わした会話がとても好きでした。
Posted by ブクログ
冒頭からグッと心を掴まれ、その先の展開が気になって読む手が止まりませんでした。
リアリティに満ちていて目を覆いたくなるような描写もありましたが、現実を突きつけられた気がしました。
さまざまな登場人物は、水槽を泳ぐ魚として描かれています。
自分の居場所を求めて、今いる場所に留まる魚、旅立っていく魚、戻ってくる魚、死を選ぶ魚。
それぞれが、水槽しか知らない魚たちです。
彼らは悲しみも苦しみも循環し昇華してくれる“海"の存在を知りません。
しかし、人との出会いによってその海の存在を知り、それぞれの幸せを見つけにいく物語で、「自分の居場所」「幸せ」「大切な人」「約束」「生きる」について深く考えさせられました。
各短編小説が絶妙に絡み合う構成もとても素敵でした。
「大切な人」がどこか遠くに離れてしまったとしても、その人は心の中で生き続けます。
自分が離れる側になったとしても、誰かにとってそうであるのかもしれません。
もし別れが訪れると分かっているのなら、後悔する前に「大切な人」であることを、言葉だけでなく態度でもきちんと伝えたいと思いました。
その人の心に残ろうと別れを選ぶくらいなら、そばにいられる道を選びたい。
それでも一緒にいられないのなら、「あなたは大切な人です」と伝えておきたい。
ーーそんな思いを抱きました。
Posted by ブクログ
おおよそ、同じ町を舞台とする5編の短編小説であり、登場人物それぞれが生々しい苦しみを抱いている。
それは過去の悔やみであるものもあれば、生来のもので向き合っていくしかない苦しみもあり、それぞれの渦中で巻き起こっていく。
恥ずかしながら、読んでいくうちに『この物語はどういうふうに他の短編と繋がりがあるのだろう』という好奇心を抑えられないで読む自分がいた。
しかし、最後の短編『海になる』でそれを悔やんだ。
というのも、話の最後に『うみのいりぐち』という助産院が登場し、「この中では世界中の哀しみや苦しみから逃げられる」と言われる。これを受けて、それまで狭まっていた視界が大きく、大海を見下ろすように広まったように感じた。小説内の繋がりのみならず、現実世界の、万人の苦しみと繋がっていたのだ、と思った。
現実世界で苦しむ人々が、この本を読んでそれぞれの思い描くチョコレートグラミーとして、暗い夜空の中で、見えない繋がりと慈愛を思い出せることを願う。
Posted by ブクログ
夜空に泳ぐチョコレートグラミー
町田そのこ
読ませる力が強い。
残酷で、温かい物語たちが、緩やかに、密接につながっている。
希望に満ちてるわけでは決してないけど、優しさはある。
優しさがないと、絶望しか残らない。
ひとから叩かれたら痛い。
だけど同じことができる手のひらを、自分も持ってる。
叩かれるのは、痛いのは嫌だ、だから、叩かないことを選びたい。
Posted by ブクログ
前からタイトルが気になっていて、ようやく読むことができた、町田 そのこさんのデビュー作品で、5編の連作短編集。
『52ヘルツのクジラたち』や『宙ごはん』、『星を掬う』同様に心にズキズキと突き刺すような描写が多いけれども、決して嫌な読後感にならないのが、魅力の作家さんです❗️
また『うつくしが丘の不幸の家』のように、少しずつ物語が繋がっていて、読後にはこう繋がっていたんだと、ちょっと驚いてしまうのも魅力のひとつではないでしょうか⁉️
個人的に好きな話しは、『波間に浮かぶイエロー』と『溺れるスイミー』ですが、特に『波間に浮かぶイエロー』は群を抜いてお気に入りの作品です❗️
時々読み返したいと思える素敵な話しでした。
Posted by ブクログ
やっぱり町田さんの本はすらすら読める。
溺れるスイミーが特にすきだった。なんとなく日頃感じてるモヤモヤを、宇崎くんが撫でてくれるような錯覚になる。終わりは切なかったけど、後味は不思議といい。
読んでよかった。
Posted by ブクログ
とても切なく、儚いストーリーでした
この人といたら絶対に幸せになれるだろうと思う相手と離れ離れになるシーン。とても心惹かれました
私もこんな小説が書きたい!と心から思う1冊でした
ノスタルジックな話が好きな方にはとてもおすすめです
Posted by ブクログ
巻末に描かれていた事、読む中でも感じた「ここではないどこか」と「ここ」を選ぶ事。私はきっと後者なんだろうな、前者になりたいけどなれない自分を見つめて、「ここ」で生きる術を身につけないとなと考えるきっかけになる作品でした。
Posted by ブクログ
全ての短編に引き込まれた。
人生という海をそれぞれの泳ぎ方を見つけたり、選択していく登場人物たち全員に、自分はどう泳いでいくか、どんな魚になっていくのかを考えさせられた。
題名にもなった夜空に泳ぐチョコレートグラミーが好きだった
Posted by ブクログ
なんだこの本は…!!これがデビュー作…!?
衝撃だった。こんなに、人間の言葉にできない感情や行動、意図を言葉で表せることができるなんて。全ての人が、抱えるものへ向き合い、前を向いて生きようともがいている、そんな作品だと感じた。涙が出た。私も、こんなに強く生きられるだろうか。優しさと強さが、最初から最後まで感じられる一冊だった。
Posted by ブクログ
何回読んでも大好きな本。短編だけど全部繋がってて、私が大好きなタイプの一冊。
チョコレートグラミーっていう魚の名前がまず可愛いけど、飼育は結構難しいらしい。熱帯魚って狭い水槽の中で泳いでて何考えてるかわからないけど、人がそれぞれ必死に生きてるように魚もヒレ動かして生きようともがいてて、なんだか人も魚も愛おしくなった気がする。人の居場所と生き方って難しいと改めて思った、1人で生きてるわけじゃないから。
他の作品で「死は恋を盛り上げる」的な文があってそれを思い出した。なんとなくサキコとリュウちゃんのお話は、おばあちゃんの死によってより一層生を際立たせているなと思った。啓太の誕生しかり。
とても綺麗な短編連作集でした。どのエピソードも出だしの一行で続きが気になりあっという間に読んでしまいました。そしてラストの胸が暖かくなる光が指すような締め。お見事でした。
匿名
今この瞬間に出逢えてよかった
人には浮き沈みがあるが、ひどく沈んでいる時にこの本に出逢えた。壊れそうなほど生々しく辛い事象達がずらずらと並んでいるのに、最終的には力強く前を向いている。まるで今の私に前の向き方を教えてくれる教科書のようだった。ぜひ読んでください!
匿名
短編集なにの長い長編を読んだみたいでした。
物語の登場人物が繋がってるのでそんな感じがするのかもしれませんが、読み終えた後の感動は凄かったです!
どれも前向で自分の心を強くしてくれた気がします!
夜空に泳ぐチョコレートグラミー
町田そのこ先生の連作短編集。彼女のデビュー作でもあります。
デビュー作?と聞き返したくなるほどの完成度です。
どの短編もぐっと引き込まれる魅力があり、切なくて愛しくなります。
Posted by ブクログ
それでも生きていく いろんな人がいて、いろんな人生がある。
関わりがないようで関わっていて、みんな互いに助けて助けられている。
この本を読むと、人は1人では生きられないのだと心の底が温まる。
ちょっとした偶然、ちょっとした思いやり、ちょっとした優しい嘘。
そう言うものが歯車を回し、方向を決めていくのだ。
読み終えた後に、言葉にならないものが胸を満たす。
それは満足であり、片鱗であり、わたし自身も誰かに助けられ、誰かを助け、互いに織りなす巨大なタペストリーの一部なのだと気付ける勇気なのだ。
人と関わるには勇気がいる。
この一言が相手を鼓舞し、この一言が相手を失望させる。
わたしたちはなんの気無しに人と関わるけれども、紐解けばどこでどう何が影響するのか、その影響の大きさすらも分からない。
それでも、関わることが互いの人生を、ほんの少し良い方向へと変えていく小さな方向転換器になる。そんなことを思わせれてくれる連作短編集で、それぞれの作品の関わりも絶妙でした。
Posted by ブクログ
4.0/5.0
世の中の隅っこで、もがき苦しむように生きている人々にスポットライトを当て、最後は希望を持たせて締めくくる、力強く、優しい物語だった。
Posted by ブクログ
ずっと気になっていた、初読みの作家さん。
連作短編集となっている本作の1篇目は町田さんのデビュー作らしいが、そんなことを思わせないくらい登場人物たちの息苦しさが生々しく伝わってくる。この連作集では、登場人物たちが今いる環境が息苦しくてここではないどこかへ逃げようとするか、その地で必死で息をしようとしている。
晴子のように殻を飛び出して新しい自分と向き合おうとする人もいれば、唯子のように差し伸べられた手を断ってその地に留まる人もいる。どんな選択をしても、それは間違った選択ではなく、それぞれの短編の主人公たちを応援したくなるような結末が待っていたのが救いだった。
Posted by ブクログ
水槽のおおきさは、うまれもって、きめられている。水槽のおおきさで、魚のおおきさも比例していくというけれど、ひともきっとそうなのではないかとおもった。ちいさな街。展望台から見下ろせるくらいの、それはそれは小さな。そこからもがきたいと、広いところを目指すひとや、そのもがき方は違うと自分なりの最善を探し続けるひとや、留まってなにをすることもせず受容するひと。水槽での過ごし方の正解はない。「いつか旅立てると思えるその日まで、私の中にいたらいいんだよ」と、わたしが今過ごしている街にも、そう包んでもらえてる気がした。さいごは海にかえる。そうして、みえないわたしになって、ひろい世界へと広がっていったならば、世の人々を包むなにかに成り行けるのかな。
Posted by ブクログ
町田その子さんの『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』
5つの短編から成っています。登場人物は少しづつ重なっている感じです。
「カメルーンの青い魚」
サキコは、中学生の時に幼馴染のりゅうちゃんのケンカを止めに入り前歯二本を折ってしまう。サキコの前歯は差し歯になった。中学校卒業と同時にりゅうちゃんは町を出るが、ヤクザをやっているとか、悪い噂ばかり入ってきます。しかし、数年後に彼はサキコの祖母の通夜にフラリと帰ってて…。
「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」
ほぼ話の主役は晴子という中学生の少女。晴子は母親とほとんど断絶した関係にあり、祖母・烈子に育てられてきました。クラス内でいじめを受けることが続いた晴子ですが、夏の間新聞配達のアルバイトをしている同級生・啓太と出会い、少しずつ心を開いていきます。ある日、おとなしい晴子はいじめっ子のクラスメートを殴ります。
「波間に浮かぶイエロー」
軽食ブルーリボンのオーナー芙美さんは「おんこ」だ。そんな芙美さんの元に、昔の同僚環さんが転がり込む。環さんは妊娠していました。おそらく不倫している夫には知らせず子供を産むと言います。芙美と従業員沙世と環は共に生活を始めます。芙美さんは、赤ちゃんの啓太の面倒をみたこともあり子供を育てることが手伝えると言います。
「溺れるスイミー」 —
主人公の唯は幼少期に父を失い、以後は母と二人で暮らしてきます。唯は地元のお菓子工場で働いており、同僚との結婚の話が持ち上がるなかで、自身の生き方について迷いが生じます。唯はやがてトラック運転手の宇崎と出会い、父親のような「移動する生き方」に惹かれていきます。
「海になる」
3回の流産のあと子供を死産し、夫に暴力を振るわれるようになった桜子。
貧血で倒れた時、雪が降る中ネグリジェ1枚で夫に外に追い出された時、助けてくれたのは長髪の男性・清音だった。そして今まさに命を絶とうとする桜子の前に清音があらわれます。
どの話にも強い女性が出てきます。1人で子供を育てる、若くして自立を決意する、子供の産めなくなった身体を抱えて生きていこうとする。
町田その子さんの作品はたいてい女性が主役である気がします。
現代という生きづらい世の中で、苦しみながらそれでも立とうとする女性が描かれています。
わたしが好きなのは「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」かな。
「そして初めての世界があの魚にとって優しいものでありますように。生きやすい場所になりますように。」
Posted by ブクログ
初読みの作家さん
今までずっと合わないと思い込んでいたが一気にファンに。
今いるこの場所「ここ」で生きるのか、「ここではないどこか」へ行き人生を歩むのか。様々な環境に置かれている人たちを描いていた連作短編集
置かれた場所がすべてではなく、あくまで自分がどうするのか。
自分の意志で選択する場合も、置かれた立場からそうせざるをえない場合も、自分のいる場所を足場をどこにするのかどう生きるのか。
生きづらい日常を少しでも呼吸しやすいように、一歩を踏み出せるように寄り添う優しい物語。
Posted by ブクログ
泳ぐ 愛情と友情、生と死、幸福と孤独、親子、夫婦、仲間、色々な中をタイトル通り泳がせてもらいました。夜空に泳ぐチョコレートグラミーも連作短編で輝いていました。生きていこうという活力は貰えませんでしたが、生きていくのだなぁと考えさせられました。溺れるスイミーの時に公園で読んでいましたが、生きづらさに涙してしまいました。さすが、町田そのこさん、デビューからかっ飛ばしていました!
居場所を探して
人との繋がりや家族の在り方に揺れながら小さな水槽の一匹だけのメダカと同じで孤独を感じながらも今とは違う自分の居場所を求め広い世界へ飛び出そうとする登場人物達の姿が大きな水槽でのびのびと泳ぐ熱帯魚達と重なりました。
Posted by ブクログ
今いる世界でもがいている人たちの五篇の連作短編集。それぞれの状況はなかなか重かったりするのだけど、全体として優しい世界。
表題作が一番好きと感じたけれど、これがデビュー作ということで、完成度の高さにびっくり!
Posted by ブクログ
転変集で読みやすかったですが、それぞれの話にあまり惹かれませんでした。
「52ヘルツのクジラたち」は大好きな作品でしたので、好みの問題なのかな?
Posted by ブクログ
題名からはもっと軽めの恋愛小説なのかと思っていたら、なかなか重めの内容でした
連作短編集である本作、どの作品も「今いる場所」でないものに惹かれ、今に踏みとどまっている主人公たち
すべてが魚になぞらえていて、最終章が「海」
死に誘い、死を受け入れる海から、生命の人生の始まりを示す海に最後したことに、すべての作品の「魚たち」が海にかえったようで救われる思いがした
Posted by ブクログ
うーん。
デビュー作っていうこともあるのかもしれないけど、52ヘルツを読んだ後にこちらを読んだからか、ちょっと物足りなさを感じた。
再読したらまた印象が変わるかもしれない。
Posted by ブクログ
5編からなる短編集。
少しづつ繋がっているけど、どれも出だしでグッとつかまれる。
そしてどの話も主人公が重たい物をかかえている。
目を逸らしてはいけない問題だけど、ちょっと重すぎるかな…
町田さんはどんな思いでこんな重い話を書くのかなぁ?と読みながら考えてしまった。