あらすじ
唾棄すべき軍国主義なのか? それとも誰もが持つべき愛郷心なのか?
かつて「21世紀には滅んでいる」といわれたナショナリズム。ところが世界はいまも、自国ファーストや排外主義にまみれている--。今年の元旦に放送され、話題となった特別番組「100分deナショナリズム」。4人の論客がナショナリズムを読み解くための入り口となる名著を持ち寄って議論した。大澤真幸氏が『想像の共同体』(ベネディクト・アンダーソン)を、中島岳志氏が『昭和維新試論』(橋川文三)を、島田雅彦氏が『君主論』(マキャベリ)を、ヤマザキマリ氏が『方舟さくら丸』(安部公房)を。この番組をベースに追加取材をして編んだ本書は、これら4つの作品を通して「国民・国家」とリアルな「わたし」との関係を考えてゆく。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
100分de名著シリーズ、コンパクトに物事の争点が把握できるので(深さとか、広さについて異論はあるでしょうが)、いいですよね。「ナショナリズム」という概念、私には、なかなか把握の難しい代物で、理解するためにいろいろと試行錯誤が必要でした。まだ、考えはまとまっていないものの、この一冊は、視点を与えてくれるものでした。
Posted by ブクログ
4人がそれぞれ一冊ずつ紹介するスタイル。
アンダーソンという人の想像の共同体が面白かった。
過去と正しく決別できていないからこそ、未来の日本人に対する無関心がある。
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第二に、歴史家の客観的な目には国民(ネーション)は近代的現象に見えるのに、ナショナリストの主観的な目にはそれは古い存在と見える。要するに、新しいのに当事者には古く見える。これこそ、ナショナリズムの最もふしぎなところです。
逆に、ヨーロッパのいずれかの国に植民地化され、まとまった行政単位として扱われたという事実が、結果的に、植民地の人々に「我々 ○ ○人」という意識を植え付ける結果となった、と考えるほかありません。
現代の日本は、実際、そのような状況にあるのではないでしょうか。しかし、現在、僕らが直面している重要な問題のほとんどが、現在生きている人たち以上に、これから生まれてくる人たちに関わっています。人口問題にせよ、環境問題にせよ、安全保障や憲法の問題にせよ、すべてそうです。これらの問題についての現在の日本人の意志決定の影響を受けるのは、主として、現在の日本人の大半が死んだ後に現れる将来世代です。 自分たちの後にくる未生の世代への異様な無関心。これが現代の日本人の特徴であるように思えてなりません。その原因はどこにあるのでしょうか。少なくともそのひとつの原因は、戦後の日本人が「我々の他者」を失ったことにあるのではないか。これが僕の仮説です。
Posted by ブクログ
とてもいい内容だと感じました。
私は虫が苦手ですが、内容は文句なく素晴らしいです。
表紙にある四冊が主軸で、人類の歴史と多くの人々、関連する書籍も紹介されています。
政治や体制の主義主張などを叫ぶだけの眠たいものを想像していたら、驚くほどに人の持つ陰のような部分を浮き彫りにしていました。
・服従したがる本能(生存目的)
・強烈な承認欲求
・生まれてきた不安
どれも普段は無視しできる範囲で暮らしています。
そして、本題の「ナショナリズム」。その生まれ、価値、その危険性にも堂々と切り込んで、具体的に示してくれています。私が常々「ナショナリズム」を唱えるメディアから感じる薄気味悪さの正体が、しっかりと理解できました。簡単に表現すれば同調圧力。価値観(想像)の共有が強制されること。
この一冊を読むことで、人類が多くの組織や共同体を時代に合わせて生き延びるために育てきた考え、その変換点を学べます。
その上で、各主軸の本を紹介してくださる四名の想いが鋭い。
大澤真幸さんは将来世代である「未来の他者」との繋がりを。
島田雅彦さんは人の本能の陰を意識して戦う必要を。
中島岳志さんも、ナショナリズムの構造を理解して「付き合っていく」「議論する」と。
そのために必要なものとして、最後、ヤマザキマリさんが提示してくれた三点。
・知性の力を備える
・自立した精神を鍛える
・人間の生き様を観察する能力を持つ
時間を置いてから、また読み直したい一冊です。
虫が、苦手で……。