あらすじ
街外れで暮らすジャズベーシストの男と、場末の飲み屋で知り合った年上の女。スティービー・ワンダーの名曲に導かれた二人の会話が重なりあい、大阪の片隅で生きる陰影に満ちた人生を淡く映し出す。表題作の他、女性のひとり語りの短篇「大阪の西は全部海」を収めた、話題の社会学者による哀感あふれる都市小説集。
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Posted by ブクログ
ゆっくりゆっくりと語られるなんということはないエピソード。
最初はひとりでシュノーケルを持って海に潜る話。
それからスナックで知り合った10こ年上の美沙さんとの付き合い、会話。
美沙さんが好きなリリアンの話、音楽のコードの話、ふたりの昔を思い出す話。
主人公は音楽で一応食べているけれどやめようかと悩んでいる。
ひとつひとつのエピソードは脈絡がないようで、物語が進んでいくと何度か同じ話を繰り返しながらつながり意味が編まれていく。ゆっくりのペースを乱さないように。
物悲しい雰囲気を終始保ちながら少しだけの希望を持って終わったように思う。特に夢も希望もないけれど、ふたりが一緒にいられそうだということだけで。
作者が若い頃の話がベースになっているようだけど、大阪の街は執筆時点にアップデートされている。ちょっと時代がズレている気もする。
万博記念公園のソラードが出てきて嬉しかった。
千里山のニュータウンてそれどこのことやねんと、そこだけは気になった。千里山はニュータウンやないねん。
千里ニュータウンをそのへんのニュータウンと一緒にするなんて失礼な話やわ。
ふつう、こういう作りのん物語は退屈だったり飽きたりするが、本作はそんなこともなく面白く読めた。稀有なことだと思う。
Posted by ブクログ
何が起こるってわけでもない、だけどそこにひっそりと愛がある、そんな話。
海と街を重ねた描写が心地よかったです。
「優しいやつは、役に立たんのや」という言葉にはハッとさせられました。
優しい人の言葉って、本当に苦しい時には何の救いにもならなかったりする。
じゃあどうしたらいいのか。
多分、物語の終わりの主人公と美沙さんみたいに、ただ側にいられればそれでいいのかな、と本作を読んで思いました。