【感想・ネタバレ】螢・納屋を焼く・その他の短編(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

秋が終り冷たい風が吹くようになると、彼女は時々僕の腕に体を寄せた。ダッフル・コートの厚い布地をとおして、僕は彼女の息づかいを感じとることができた。でも、それだけだった。彼女の求めているのは僕の腕ではなく、誰かの腕だった。僕の温もりではなく、誰かの温もりだった……。もう戻っては来ないあの時の、まなざし、語らい、想い、そして痛み。リリックな七つの短編。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

『蛍』
ノルウェイの森の原型。
主人公と、親友と、親友の彼女。親友は自殺し、二人は取り残される。
この、大切な人の『死』が決定的に二人を損なって、その傷に気付かまいとする、なんともいえない空気感が好き。

『納屋を焼く』
薬でトリップしているときに唐突に「時々、納屋を焼くんです」と彼女の新しい恋人に告げられる。
近くの納屋を焼く予定だともいい、主人公は探すも、結局焼かれた納屋は見つからず。後々会った時には、焼いたと言われるが……。そして、彼女は『消え』、音信不通となる。

普通だったら、主人公が代わりに捕まっちゃいそうなもんだけど、そんな簡単な話になるわけなく。
分からなすぎて、色々解釈を読みましたけれど、どの読み方も唸らせられますが、そんな多重に解釈できるメタファーが、こんな短い小説の中にどれだけ込められているの!?となって、そのことに驚愕。
さすが、ニューヨーカーに掲載された小説は一味違うぜ……。

『踊る小人』
象工場で働く僕は、夢の中に出てきた小人に、同じ職場で働く女の子を欲しいという願望を吐露することになる……。
声を出せば、小人に身体を奪われ、森の中で踊り続けることになる。小人は、女の子の肉体が腐っていく幻影を主人公に見せるが、主人公は幻影を見抜き、耐え忍ぶ。
働いている象工場がそもそもファンタジーなのだが、話の流れは、ちょっとした怖い話のテイスト。
メタファーや、バックボーンまで見抜けていませんが、革命など寒々しいイメージが、根底に蠢いている気がします。

『めくらやなぎと眠る女』
耳の疾患が、恐らく精神的なもの……。この世界との馴染めなさの一端を表しているような気はしているのですが……。
もう一遍の「めくらやなぎと、眠る女」と比べてみて考察してみたいです。

『三つのドイツ幻想』
まーじで、夢の中!?
幻想小説にも程がある!

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2025年10月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

村上春樹の小説は初めて読んだけれども、短編集はそもそも好みなのですらすらと読むことができた。
個人的には踊る小人が1番印象には残っている。終わり方が良かったからな気がする。
納屋を焼くは「バーニング」を見たので流れはわかっていたが、それでもとても示唆的で面白く読めた。
他の小説たちも、言いたいことがあるようで、だけど答えは定まっていないような感じだった。そんな「近すぎず遠すぎず」の文意が心地よく感じられるのは、村上春樹という偉大な作家の為せる技なのかなと思った。

0
2024年02月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

村上春樹作品は本当にどれもダメなのか……と色々とレビューや感想を見て回って、そういえば村上春樹が好きと言っているブロガーさんがこの本をお勧めしていたなぁと思い出した。以前から色々な感想を書いていてブログ読者になって数年。紹介された作品の何作かを読んでいる。

ブログには、ちゃんと『こういう人には向かない』という事も書いてあるので嫌いではない。ただ、価値観は違うなと思う点は多々あるので、期待値は低かった。



それと同時に、「ノルウェイの森」のレビューを読み直していると、「蛍」を読んでみたらいいと言うのも見かけたというのもある。

ともかく、読んでみたいかもと思えたので読んでみる事にした。





読んでみて思ったのはこの本を先に読んでいたら、村上春樹作品への嫌悪はこんなに膨らまなかったかもしれないという事。

短編一作ずつ感想を書いてみる。



蛍::
ノルウェイの森を先に読んでしまったので、比べてしまう。ノルウェイの森の冒頭部分を凝縮したようなお話しだった。実際は逆でこの短編から話を膨らませて、ノルウェイの森になったらしい。

ここでは性描写は実にあっさりと書かれている。
『その夜、僕は彼女と寝た。』
この一言で説明が終わっている。あのよく分からないポルノシーンは何だったんだと言いたくなるほど、実にあっさりと『文学的』という言葉が合いそうなほど上品な仕上がりになっている。

何故ノルウェイの森はポルノにしたのだろう?本当に意味が分からない。

ノルウェイの森がダメな人は『蛍』を勧めるとレビューしていた人の気持ちが分かる。
友人の恋人と寝て、その恋人が消え去った寂しさを儚く飛び去って行く『蛍』に合わせている。というのがテンプレートな読み方なのだろう。後は各々好きに読むのだろうが……私はこういうものがあまり好きではないので、テンプレ以上の読み取りは出来ない。



そして、ノルウェイの森もいろいろと書きながら、そう言う話なのだろう。ノルウェイの森はこれでもかとポルノが挟まれるので、何が言いたいのかを読み取る前に怒りしか残らなかった。



納屋を焼く::
これも蛍に続いて読みやすい。性的描写や残酷描写がないという点において。
あらすじ。
知り合った女性の彼氏さんが「納屋を焼く」という話をしてから、主人公は「どの納屋が焼かれるのか」が気になりずっと観察を続けるが、納屋が焼かれる事はない。女性とは連絡が取れなくなる。彼氏さんとは再び偶然会う事が出来て、納屋の事を聞くと「もちろん焼きましたよ」と答えが返ってくる。

……ざっと書くと、何とも意味不明な物語だ。

しかも納屋を焼く理由は分からないが、『(納屋が)僕に焼かれるのを待っているような気がする』と彼氏さんは言う。

焼く納屋は『大きな火事にならないもの』『誰も悲しまないもの』らしい。



意味は分からないが、そこにぞくっとしたものを感じる。さらにそれを見つめると、その『自分に都合がいい解釈』は犯罪者のそれと同じだとも思う。
痴漢が『触られたいからミニスカートを履いている』と思いこむようなものである。さらにはその子をじっくり見つめて『家族がいない』『相談する人がいない子だ』と思えば、触る以上の事をして痴漢では済まなくなるだろう。

と考えると、性描写も残虐描写もないが、この物語はものすごく『グロテスク』なのかもしれない。

でも、あまりにも綺麗に書かれているので、この作品が嫌いとか嫌だという感覚はない。ただ『何となく不気味なもの』の裏側に犯罪者思考があるだけだ。それが意図されているのか、それとも全く別の意図で書かれているのか。いや。納屋を焼く行為が犯罪であるとは書いてあるのだから、やはり犯罪者の思考を書いているのだろうか?

正直どこまでが、意図されたものなのかが分からない。

映画にもなっている……と聞いたが、この短編をどう映画にしたのだろう。



踊る小人::
グロテスク表現が好き。ただし、苦手な方は要注意な作品だなと思った。

物語は踊る小人に『好きな女の子をモノにする願い』を叶えてもらうが、引き換えに「声を出したら、その身体を貰う」という約束もする。
最終的に官憲に追われる事になる。そこで、小人が囁く。身体をくれれば、逃げ切れる。代わりに森で踊り続ける。どちらを選ぶかで主人公は迷う。

最初は夢なので、そういうものかなと読んだ。が、設定はしっかりとファンタジー。ファンタジー設定は好き。



この作品の面白いのは、願いが『女の子をモノにする』つまり、自分のモノにするという事なのに、その為には『小人に身体を渡さないといけない』という点。
小人は女の子が欲しいわけではないので、主人公の身体を得るために『女の子をモノにする前に声を上げたら、身体を貰う』という条件になっている。話せないが、女の子をダンスで惹きつけてモノにする。

たぶん男の『女の子の前でかっこつける』というものが含まれているのだろうが、失敗したら『小人に身体を乗っ取られる』=『自分ではいられないほどのショック』という風に考えると……リアルだなぁと思う。

※『女の子をモノにする』というのは差別的だなぁと思うケド、その設定が物語に必要であるという事が分かるので嫌悪はない。



めくらやなぎと眠る女::
いとこを病院に送る話。
病院に送って、食堂で診察を待つ間に昔の事を思い出す。友人と友人の彼女のお見舞いに行った事を。

『友人と友人の彼女』が出てくると、ノルウェイの森?と思ってしまう。しかも、この短編の『友人』も若くしてなくなっている。この短編も、ノルウェイの森の元になっているのだろうか?……いや。気持ち悪くて、細かく調べる気もない。(調べたわけでもないのに、自動で情報が入って来る不思議。ノルウェイの森の元になってるらしいです。)



昔の友人の彼女の妄想話に『めくらやなぎと眠る女』の話が出てくる。
『めくらやなぎの花粉をつけた小さな蠅が、耳からもぐりこんで女を眠らせるの』
いとこは耳を悪くして病院に通っているので、めくらやなぎという過去の話と現在のいとこの話が繋がる。

舞台は現代(昭和?)だろうけど、めくらやなぎのファンタジー感が上手く絡まっていて好き。



三つのドイツ幻想::
1.冬の博物館としてのポルノグラフィー

最初の一文に惹かれた。
『セックス、性行為、性交、交合、その他なんでもいいのだけれど、そういったことば、行為、現象から僕が想像するものは、いつも冬の博物館である』

性行為が堂々と書けてしまうのはそう言う意味なのかと思ってしまった。村上春樹作品の中の性行為シーンは全て『絵画を見ている=現実世界から離れている』という意味で読み流せばいいのだと思う。

性行為に性行為の意味を持たせてないから、あんなにくどくどと無意味とも思えるシーンが書けてしまう。いや。他のシーンもほとんど意味が分からないものが多いのだけど……そして、最終的にまとめると『女性への郷愁のようなものを書いているだけ』な気がしてならない。どの作品もそれ以上のものが私には読み取れない。人様の感想を読んでいても、イマイチ何が良いのかさっぱり分からない。



ちょっとオシャレなパーツが入っていたり、気取った言葉が入っていたりするが、性行為がそれらの全てを台無しにしていて残念と思っていたが、性行為=博物館めぐりと考えると作者の中では性行為すら『気取ったもの』なのかもしれない。世間一般の『ポルノ』という感覚ではないのだろう。

物語のあらすじは冬の博物館で勃起する話。
勃起すら博物館の展示物らしい。……私には意味が分からないが、そう言う世界観なのだろう。



2.ヘルマン・ゲーリング要塞 1983
ヘルマンゲーリング要塞に観光に行った話。
観光後に入ったお店のウェイトレスの描写が酷い。
『彼女はまるで、巨大なペニスを讃えるといった格好でビールのジョッキを抱え、我々のテーブルに運んでくる。』
この前後に性的なものは何もないのに、なぜかここでいきなり『ペニス』が差し込まれている。
博物館の展示物という感覚で書いているからこうなのだろう。

だから、私は村上春樹作品が嫌いなんだと改めて思わせてくれた。



3.ヘルWの空中庭園
空中庭園を見に行った話。

ファンタジーなのだろうが、いまいち分からない。ドイツの地図を描けたらまた別なのか、地名はベルリンくらいしか分からないが、ベルリンがどこにあるかまでは頭に入っていない。
私の頭にあるのは『ベルリンの壁が東西を分けていた』という冷戦時代の話。それさえも詳しく知っているわけではない。
おそらく冷戦の話が混ざっているのでは?と思うのだけど、何を二人が話しているのかが半分くらい理解できない。

半分理解できないという事は物語が分からないという事だ。

それでも、『庭園が浮いている』という部分だけは理解した。読者の知識次第で理解力が変わりそうだ。



理解できないので、面白いとは思えなかった。

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2024年02月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

5~6年ぶりに再読。「螢」では自宅近くの情景(和敬塾、椿山荘等)が記されており、特に親近感を持って読むことができた。また、「納屋を焼く」や「踊る小人」は率直にどのようにそのような世界観を着想する/提示することができるのか...と感じさせられた。久々に著者の初期作品の文体に触れ、なんとも言えない読後感を体験。以下の通り、印象に残ったフレーズはありつつも、やはり自分は著者の長編作品を好むのだと再認識した。

特に印象に残った箇所は以下
・しかし僕の友だちが死んでしまったあの夜を境として、僕にはもうそのように単純に死を捉えることはできなくなった。死は生の対極存在ではない。死は既に僕の中にあるのだ。そして僕にはそれを忘れ去ることなんてできないのだ。何故ならあの十七歳の五月の夜に僕の友人を捉えた死は、その夜僕をもまた捉えていたのだ(p.31)
・失った経験のない人間に向って、失われたものの説明をすることは不可能だ(p.129)
・「つまり誰の目にも見えることは、本当はそれほどたいしたことじゃないってことなのかな」と僕は言った(p.175)

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2025年05月26日

Posted by ブクログ

ネタバレ

まあ悪くないけど特別良くもないかなぁという感じ。もう村上春樹は飽きちゃってるのかもしれない。慣れているから安心して読めるから手に取ってしまうだけな気がしている。そろそろ別の作家を見つけたい。
螢。ほんとにそのままノルウェイの森。人物に名前がなくて、ミドリが登場しない。
小人の話は割とよかった気がする。御伽話のような感じ。欲に目が眩んだ主人公がいっときは欲しかったものを手に入れるけど、結局のところうまくいかない。彼は最終的にどちらを選んだのだろうか。俺なら踊り続ける気がするな。
従兄弟の病院の付き添い。病院に対するイメージはノルウェイの森で書かれていたのとどこか共通するものがあるような気がする。病院を特別なものとして捉えているのだろうか。
最後の三つの短編はよくわからない。正直流し読みした。

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2024年04月19日

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