あらすじ
「わたしはうんと歳をとってから宇宙に強い興味をもった。大人だって、特に大人の女性だって宇宙が知りたい(矢野顕子さん)。「宇宙は誰にでも開かれていて、思っているより近くにあって、みんながそれに気づいてくれるのを待っています(野口聡一さん)。2020年、スペースXの新型宇宙船「クルードラゴン」運用一号機への搭乗を控え2人の対談が実現。「誰もが宇宙に行ける時代」を迎えた今、2人が語る宇宙の奥深さと魅力とは?
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Posted by ブクログ
NY在住のミュージシャン・矢野顕子さんが、宇宙飛行士・野口総一さんに宇宙のことをたずねる対談本です。矢野顕子さんは宇宙に行きたくて行きたくて、宇宙飛行士になるために必須の「水泳」を、それまでは金づちだったのにがんばられて習得されたそうです。宇宙に関する知識・情報集めや勉強も盛んで、だからこそ、野口総一さんに対する質問が初歩的だったり表面的だったりせず、そればかりか質問自体からも教えられるものがあるレベルにありながら、そんな低くないレベルの質問に答えてくれる野口さんの発言も真正面から真摯なものなので、お互いのやりとりに読ませるものがあるのでした(たぶんに、お二人から様々な方向へ飛び交う言葉を、うまくまとめられた林公代さんの腕あってのことでしょう)。
本書による宇宙飛行の知識。たとえば、宇宙服は約120kg。同僚に手伝ってもらいながら、約三時間かけて着込むそう。行われる船外活動は約7時間が限度。酸素やバッテリーの限界があるからです。そして船外活動を行う、宇宙ステーションの外である宇宙空間は絶対的な「死の空間」を意識せざるを得ないのだと。そういったところから、あまり知らなかった宇宙飛行士の内面的なところなどをも知ることができます。
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宇宙空間に出た途端、「ここは生き物の存在を許さない世界である」「何かあったら死しかない」ことが、理屈抜きにわかります。(p76)
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物がぶつかっても音がなく、周りには生き物の気配はまるでなし。そして、一切の命を拒絶する、絶対的な闇がある。ゆえに、「死の空間」だと即座に感じられる。
船外活動の訓練は地球でもプールの中でたくさんの時間を使って行われているそうです。それでも、実際に宇宙空間に出るとほんとうの無重力にとまどってしまうといいます。たとえば手や足を伸ばしているのか縮めているのかも、重力を感じていないためにわからなくなる、と野口さんはおっしゃっている。また、45分毎に昼と夜がやってきます。そのため、宇宙服の冷却装置のON,OFFや、ヘルメットのバイザーの上げ下げを繰り返さないといけない。これらは、船外活動ならではの体験でしょう。
宇宙飛行士チームの話もおもしろかったです。「結果が出せない人は価値がないのか」という行き過ぎた能力主義の話から続いていく話だったのですが、弱さを見せ合えたチームのほうがうまくいくのだ、と。このあたりでは、東大先端研のアスリートや宇宙飛行士の当事者研究として「安心して絶望できる人生」というすごい言葉が出てきます。結果が出せなかった自分は価値がない、と絶望することがあると思いますが、そういうときの追いつめられた絶望はほんとうにつらいです。でも、「安心して絶望できる人生」というのは、絶望をチームにみせてよくて、チームもその絶望を包摂してくれる。こういうイメージというか、モデルというかは、復活するチャンスにあふれていて、生きやすいだろうな、と思えてきました。
あと、おもしろかったのは、イーロン・マスク氏率いるスペースX社をひきあいに、日米のビジネスモデルや研究開発モデルを比較したところ。日本の現状としては、どうも石橋を叩いて橋を渡ってばかりいるきらいがある。それが進んでいくと次のようになるのでは、と野口さんは指摘するのです
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結局一番安全なのは、橋を渡らないことになってしまう。あらゆる挑戦は避ける判断をするほうが楽なんです。リスクがないから。(p197)
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これって、僕の生活範囲にもありふれていて、この文章を読んだことで「これって、日本的な問題だったんだ!」と目からウロコでした。こういうことを言ったりやったりするのって、個人単位の問題じゃなかったんですねえ。
というように、抜き出し書きの感想を書くと、以上のようになります。いくつかの大きなテーマに沿って本書は進んでいきますが、その箇所その箇所での話のふくらみ方が豊かですし、なんというか知的好奇心を刺激してくる楽し気な対談になっていました。宇宙から、そして宇宙体験から、それまではまったく視界の外だったような知見が得られます。ほんとうは実際に宇宙旅行をみんなが経験できると、みんなの価値観がわーっと花開くのでしょうけれども、なかなかそうもいかないので、そういった新たな体験や価値観のちいさな欠片を本書から拾うことにしましょう。
Posted by ブクログ
かなりディープ
対談形式
子供達に向けた明るい希望ある話ではなく、死と隣り合わせの世界、地球と言う生の世界の話やこれから先の宇宙開発と人類の話
宇宙は神秘的な世界だと漠然と思っていたけれど、音がない、熱量を感じない、無重力の世界がどれほど怖いものか具体的に知るきっかけになった
重力のある世界と無重力の世界はパラレルワールドと言える、時間感覚もまたパラレルワールド、不思議な感覚だ
野口さんは2020年クルードラゴンに搭乗、2021年無事帰還
この頃は暗いコロナのニュースが多かったので、これは明るいニュースでしたね
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野口聡一さんが地球に出稼ぎに帰ってきて、日本のTVで出まくっていたので、積読にあったよなと取り出して読んでみた。昨年末のBRUTUSの読書特集で宇宙を読み解く副読本として紹介されていた。
誰もが感じる、なぜ矢野顕子?という素朴な疑問は冒頭で解決させてくれる。
スペースシャトル、ソユーズを経験し、クルードラゴンに乗る前の野口さんの体験談を矢野顕子が引き出す。
宇宙開発でのロシアとの協調が崩れ、ここでも中国が抜け駆けかと言われているところが、地上の色んなニュースとつなげて読んじゃうな。
Posted by ブクログ
3度目の宇宙飛行が決まった野口さんに、矢野さんが様々な疑問をぶつけていく。矢野さんの質問っぷりがとても良い。野口さんの魅力をとても引き出している本になっていると思う。
Posted by ブクログ
宇宙飛行士の野口さんが宇宙船外をさんずの川を渡る思いがすると表現していることがまず衝撃的だった。宇宙について、地球について、宇宙飛行士であることをとても素直に具体的に、わかりやすい言葉で話してくれている。
Posted by ブクログ
地球が眩しすぎて、地球が昼の間は宇宙空間は真っ暗闇であること。
100%死の世界である宇宙空間にいると、100%生の世界である地球に躍動を感じること。
死の側から見ると、地球の命は特別だと感じられること。
地球に命があるのは偶然が重なった結果で、即ち奇跡であること。
命は危ういバランスで成り立っていること。
地球から離れて宇宙空間から地球を見るという「離見の見」によって、生きている地球を、地球の尊さを感じられること。
野口さんの分かりやすい説明によって、宇宙について様々なことを知ることができた。
常に新しいことに挑戦し続けている野口さんに感銘を受けた。
この本を野口さんがISSに滞在している今読むことごできたのは、大きな意味があると思う。
「石橋を叩いて渡ることが本当に信頼性を上げることになるのか。安全第一という名目で判断を回避しているだけではないのか。」
「カーリングが人生ではなく、人生の中にカーリングがある。」
「出来ることをする。一日一日を積み重ねる。」
ISSを追跡できるアプリをインストールしたり、野口さんのTwitterをフォローしたりして、私と宇宙の距離が少し近くなった気がする。
宇宙に行ってみたい。宇宙から地球を見てみたい。
Posted by ブクログ
とても興味深く読めました。
私は矢野顕子さんのファンで、彼女が宇宙に対して並々ならぬ思いを抱いているのは知っていました。どんな思いなのかを知りたくて読んだのが理由です。
それも面白かったですが、野口宇宙飛行士の宇宙飛行についての思い、死と隣り合わせの空間での作業で感じること、今後の宇宙開発な宇宙産業についての考えなど、報道されてる事は一部の表面的な事で、その奥には色々な考えや思いがあって、そこがとても素晴らしかったです。
おそらく矢野顕子さんが、宇宙について勉強していて、自分の考え方や想像などあったからだと思います。
今はTwitterで野口さんから送られる写真を楽しみする毎日です。
宇宙には興味があるけど、難しそうで…と敬遠してる人に読んで欲しいです。
Posted by ブクログ
"生き物の存在を許さない世界"が印象的。コロナ禍の現状も含め、宇宙にまつわるバックヤードが分かり面白かった。野口さん3度目の任務成功を祈りながら。
Posted by ブクログ
10月15日にSpaceXのDragon 2 でISSに向かう宇宙飛行士 野口聡一氏の矢野顕子との対談
宇宙飛行士とは宇宙とは宇宙で過ごすとはなど今回で3回目となる宇宙へ向かうひとの話にはさまざまに有益なことが多い。
打ち上げを迎えるまでに読んでおく必須の一冊。
Posted by ブクログ
宇宙に行きたい!って怖いので思ったことがなかったけど、矢野さんの熱量がすごくてもっと知りたい!と思うようになった。日本人として活躍される野口さんの存在があってのことなので、同じ日本人として本当に誇りに思います。対談では宇宙から見た地球だけでなく、訓練や宇宙飛行士のキャリア、重大事故からの学びなど表には語られないような話を知れたのがよかった。1番印象に残ったのは宇宙活動の表現方法で、絶対的な闇・漆黒、孤独。船外活動での死の世界に対する生きている地球と表していた部分。地球の写真をこれまでも見たことはあったけど、写真と実体験は違うとわかっていても少し見え方が変わる感じがしました。
Posted by ブクログ
空間識失調
宇宙では筋肉が重力を感じないので自分の手足の位置がわからない。
耳石の縦方向センサーも働かない。視覚の横方向も基準がない。
指先
音は伝わらないが振動が伝わる。
温度は伝わらないがグローブのシリコンの硬さで温度変化が伝わる。
ISSのトラスを触り水平がわかる。
Memorial Trees
NASAジョンソン宇宙センター 事故死した人の木。
スペースシャトル 135回の飛行、2回の事故で14人が命を落とす。
60年間で 570人が宇宙へ行っている。
ISS
45分ごとに昼と夜 3か月ごとの補給 高度400km
片道6時間でISSへ。以前はソユーズで片道2日。最短で3時間も可能。
ISSへの輸送費用5800万ドル(ボーイング スターライナー)
ISSは無機質でグレーの世界。色も、動くものもない。
地上のほうが圧倒的に刺激的。
宇宙服
14層 120kg 0.3気圧の酸素 3時間かけて着る。7時間の船外作業に耐える。
下着は水冷式。
酸欠では苦しくなる前に意識がなくなる。
スペースX
実績と革新 変化への対応とスピード感ある実際のオペレーション。
100%内製化、開発から打ち上げまで同じメンバー(スペースシャトルは分業)
クルードラゴン
全自動でISSとドッキング
液晶パネルの操作+物理ボタン、
インテリアもヘルメット一体式の宇宙服も、白と黒
満足感よりも、全員の不満にバラツキが出ないことを目指す。
活動を止めることによる目に見えない社会的精神的マイナス。
状況に応じ、プロとしてできることをやる。小さい積み重ね。
多様性は強靭さにつながる。
矢野顕子
視力が弱く、手術するまで、
月が一つに見えない、星も見えなかった。
聴力に優れ、声で人を区別していた。
音で部屋の広さや車のエンジンの調子を知る。
ニューヨークでは何で有名かではなく、何ができるのか?
Posted by ブクログ
100%命に満ちた地球と100%死の世界である宇宙空間を隔てているのは、薄い大気の層一枚。一切の生を許さない宇宙の中で地球だけが命を内包し眩しい光を放っているという言葉に奇跡と神秘を感じます。現在ISSに長期滞在されている野口さんからは宇宙からの光景がインターネットを通じて発信されていますが、やはり体感しないと得られないものは多いようです。気配もなく、音もなく、絶対的な闇は想像しても難しい。スペースXとボーイングの違いなどを話もとても面白かった。
Posted by ブクログ
矢野さんが部屋で手をたたく話、目をつぶってにおいを嗅ぐとか触ってみるとかみたいなものかなと思った。水泳を始めて、泳げるようになる話とかすごく素敵。
Posted by ブクログ
無重力状態で夜になると、自分の足が曲がっているのか伸びているのか全くわからなくなるらしい。重力を感じないということでそんな影響があるんだと驚いた。
宇宙から見るかけがえのない地球についての野口さんの体験と矢野さんの憧れに満ちた対談は、コロナ感染が広がる2020年に行われた。遠くに想いを馳せつつ、日々を大切に感謝して過ごしたいと思った。
Posted by ブクログ
宇宙に関する物理的な話だけでなく精神論や哲学的な話もあり興味深い。3章にてチャレンジー号事故の話もあり尊い犠牲の上に成り立つ技術開発であることを再認識。対談者に矢野氏を選択したのも面白い。
Posted by ブクログ
最近のニュースで、日本人初の宇宙飛行士秋山さんが〈宇宙よりも土いじり〉みたいなことを言われていたのが印象に残っていて、ふと、人間は「土から離れて生きられないのよ」という『天空の城ラピュタ』の有名なセリフを思い出しました。(あ、いえ本書はとても面白かったので決して誤解されませんように)
感想
1.宇宙飛行士のリアルがよくわかった
2.人間の〈業〉も改めてわかった
3.地球で生きる意味も考えた
◯ ◯ ◯
「闇が襲ってくる」とは宇宙飛行士ならではの表現じゃないでしょうか。自分は高所恐怖症なのでそこまで宇宙に行きたいとは思わないのですが、野口さんは、そこは未知の世界だからと言い、矢野さんは、国境がない宇宙でピアノを弾きたいと言います。(矢野さんは宇宙に行くため苦手な水泳を克服さえします。このように夢を持ちながら、より良い生き方をしていくことはとても意味があると思いました)
しかし、国境はなくても「宇宙開発」という新しい〈争い〉が中国やロシア、アメリカなどの間で(ここでも)始まっていることにも触れられています。人間は未知の世界を開拓してここまできたので開発は止められないでしょう。
願わくは、夜空の星たちが戦場となりませんように、子どもたちにまだ夢を与える場所でありますようにと流れ星を探して空を見上げましたが、曇りでした…。
願い事。 平和叶えて! 流れ星
(lem心の俳句)