あらすじ
もしも荒廃した近未来アメリカに、 仏陀を信仰するインディアンが現れたら――未曾有の災害と暴動により大混乱に陥り、国民の多くが現実世界を見放したアメリカ大陸で、仏教を信じ続けたインディアンの青年が救済を語る書下ろし表題作のほか、VR世界で一生を過ごす少数民族を描く星雲賞受賞作「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」、『ヒト夜の永い夢』前日譚にして南方熊楠の英国留学物語の「一八九七年:龍動幕の内」など、民俗学とSFを鮮やかに交えた6篇を収録する、柴田勝家初の短篇集。解説:池澤春菜
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Posted by ブクログ
これは面白い。物語の世界に没入してしまう。
■雲南省スー族におけるVR技術の使用例
VRゴーグルを装着したまま一生を過ごすというスー族の話。食事とかどうしてるのか?などと思いつつ楽しんで読んでいたらラストで納得。
■鏡石異譚
素粒子衝突実験、時間経過の一方向性、予言などをベースとしながら、自分の過去や未来と向き合う話。これまたスッキリ。
■邪義の壁
家の分厚い白い壁を信仰する話。壁の秘密にゾクゾクする。歴史を絡めた妖しさがいい。
■1897年龍動幕の内
公園に出没するという天使を追う物語。ただのファンタジーや謎解きではないところに痺れる。南方熊楠の万能ブリが活かされてる。
■アメリカン・ブッダ
大水没から逃れたアメリカ人と残った先住民。先住民の一人のミラクルマンは、もう水没は終わったというが本当なのか。時間の流れのスピードの違いが生み出す混乱ぶりが面白い。56億7千万年
Posted by ブクログ
「伊藤計劃トリビュート』でその名を目にして依頼気になってた作家さん。
民俗学×SFの短編集、どれもおもしろー。
特に最初の「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」とタイトル作の「アメリカン・ブッダ」が好き。前者は論文の形を採りながらリアルに架空の民族の風俗を描く切り口が新しく感じた。絶対にいないはずなのに、ちょっと本当にいそうな気がする。近未来にはもしかしたら。
後者は仏教とメタバースとインディアン(ネイティブ・アメリカン)を組み合わせるというウルトラC級の盛り盛り大スペクタクル。拡げた風呂敷が最後綺麗に畳まれていく展開に感動した。
「鏡石異譚」はファンタジーみのあるタイムトラベルSF。
「邪義の壁」はこの中では異色なホラー作品。オチをはっきりと書かずに読者に想像させるのがかえってゾッとさせる。
「検疫官」少し「華氏451度」や「1984年」を彷彿とさせる正統派?ディストピア小説。この本全体的にテッド・チャンみを感じたけど、この作品が一番それを感じた。
良かった。他の作品も読んでみたい。
Posted by ブクログ
好き。すごいよかった!
短編集だけど、どれもよく出来てるなーって。
少数民族とVR、最先端科学技術と民俗学、インディアンと仏教と仮想現実。普通一緒に並ばないでしょっていう意外な組み合わせが起こす化学反応ったらもう。どの話にもノスタルジーみたいなものを感じる。のは、無機質なもの、未来的なものののなかに、失われた(失われるであろう)情緒的なもの、文化的なものを感じるからかもしれない。そういう淡い想い出に浸る感覚になれるような、物語の美しさ。好き。
特に最後のアメリカン・ブッダがいい。お話のつくりもなかなか劇的というかロマンティックというか。現実世界→仮想現実→宇宙という展開は描写的にはスケールが大きくなっていくけど、実はどんどん個人の内面だけで完結するようになっていって、壮大なようでいて個でしかない感じ。はたまた世界(アメリカ)の危機みたいな大きな話と思いきや、2人の登場人物のプライベートな話でもあるような。個の内面で壮大な箱庭世界をつくったと思ったらそれが現実世界に繋がってる、みたいな。マクロだったりミクロだったり、精神世界だったり現実世界だったり、階層なのか円環なのか、流動的なのがまたおもしろいのかも。最後のシーンやセリフは感動してしまったと同時に、はえーそーゆーこと?!って驚きと感心が。読み終わりアドレナリンどばどばだったー。
Posted by ブクログ
民族学SF!着眼点が面白い。
VR世界で生まれて死ぬ少数民族を描いた『雲南省スー族におけるVR技術の使用例』から始まって、人口の大多数がバーチャルに逃げたアメリカを描く『アメリカン・ブッダ』で締める構成がすごくきれいだと思った。
個人的には物語を病気として排除する『検疫官』が一番面白かった。
生まれてから一切の物語を見出さずに生きるなんてことは不可能なのでは??それが可能なのは洗脳されてる状態なのでは??って深く突っ込むとめちゃくちゃ恐ろしい思想統制ディストピアだ……
『一八九七年:龍動幕の内』も、キャラ主体の文章が軽やかで楽しい。あとで『ヒト夜の永い夢』も読もう。
面白い
ネットで見かけた「柴田勝家は才能の持ち腐れ、才能有り余ってる」って言葉に興味が湧いてこちらを購入。
ひとつひとつが長編になり得る題材なのに短編でまとめてしまっている。
これらの設定ひとつでどれほどのストーリーができるのだろう。
惜しみなくジャブジャブと注いだ短編集。
Posted by ブクログ
SF、ホラー、民俗学、どれか一つでも好きなら読んで損はないだろう本でした!
表題作のアメリカン・ブッダはなんせ広がりが大きいお話。生きていると、うまく行きすぎているもしくはあまりにもうまく行かない、と感じる時がありますね。あれはやっぱり誰かの手でもたらされていると思ってしまうのって、作家さんも感じてるんだなぁと。笑
いゃーおもしろかったー!壁の話よかったなー!
Posted by ブクログ
仏経を信じ続けたインディアンが語る救済やVR世界で一生を過ごす少数民族、『未来の私』を名乗る人間との交流など6つの短編が収録されていて、どれも民俗学×SFという他に類を見ない独自の世界観で難解な部分がありつつも読み応えがあった。
Posted by ブクログ
タイトル買いジャケ買い!
好きな話しはタイトルにもなってるアメリカンブッダ。
オススメポイントは、なんといっても二方向からの面白さで、科学的分野からの面白さ、それは実際におこるかもしれないという不安と、実際にできるようになるかもしれないネット上の理想郷への期待感、哲学的分野からの面白さは、あの理想郷は本当に理想郷なのか?時間も苦しみもほぼない世界とは本当に幸せなのか?
そんな、科学と哲学というちょっと距離がありそうだけれどもペアリング抜群の材料を同時に摂取できて、お腹いっぱい幸せな読後感でした。
Posted by ブクログ
柴田勝家…柴田勝家?!
戦国武将の?となるけど、もちろんペンネーム。
評判が良かったから読んだけど、凝ったSFだった。
私は「鏡石異譚」が好き。
未来の自分が時々「警告」をしに来てくれる少女。
人生で出会うはずの事故を回避して成長し、大人になった時に今度は幼い自分に会える。
遠野物語とSFを絡めるってアイデアが凄いし、首元のアザを見つけた時のゾッとする感じも最高!
タイトルになった「アメリカンブッダ」も面白いけど、バーチャル世界から現実に戻った時に、世界的有名人のミラクルマンが主人公を「待っていたよ」と受け入れたのがよくわからなかった。
あと、巻末の解説を有名声優の池澤春菜さんが書いていて驚いた。
Posted by ブクログ
柴田勝家、ずっと気になってたのがやっと読めた。がっつり民俗学の雰囲気。SFで擬似数学的科学的な発想の世界観のものは多いけど歴史社会的なアプローチで語るとこういう感じになるのか、と興味深かった。設定は全てが新鮮で、スー族のVR技術、邪義の壁、アメリカンブッダあたりが展開としても面白かった。
Posted by ブクログ
表題作をはじめ6本の短編が収められている
私の好みでは表題作であるアメリカン・ブッダが面白かった
仏教の教えを訥々と語るミラクルマンとそれを仮想世界で聴く主人公の視点で描かれている
仮想世界は現実世界と体感時間の速度が異なっており、ブッダの教えを聞きながら世界が一巡する
現実で語るミラクルマンに仮想世界が追いついて入れ子の構造となる
それにより現実と仮想の壁を曖昧にした幻想性を仄かに感じた
私達の現実も今あるルールや常識に確固とした礎はない
そんな当たり前を感じさせてくれた作品
Posted by ブクログ
すっかりはまってしまった柴田勝家。短編集は「アメリカン・ブッダ」。
すべての村人がVRの中で生きている世界を描く「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」、ブラッドペリの名作(華氏451度)にインスパイアされたであろう、物語というものがすべて禁止された世界を描いた「検疫官」など尖った設定の数々で楽しませてくれた。
中でも表題作「アメリカン・ブッダ」。アメリカを襲った大厄災に際し、肉体をコールドスリープし、脳から意識だけが取り出されバーチャルの世界で生き続ける人々に対し、ある日突然大災害後の世界に取り残された仏教徒のインディアンがコンタクトを取り、仏教の教えを述べる。バーチャルでほぼ不死の何不自由ない生活と、現実世界から語りかけられる仏教の教えの中で浮かび上がってくる「果たして生きるとは何か」という問い。
この人はわかりやすく哲学的な問いを投げかけてくるのが好きで、そして我々SF者の多くはそういう問いを好物としているのだけれども、この人はその問いのあぶり出し方が大変に極端(村人全員がVRゴーグルをかけていたりするのもそう)でダイナミックでわかりやすくて良い。
Posted by ブクログ
民俗学✕SFは面白いと教えてくれた短編集。発想力の勝利。
哲学も科学も宗教も宇宙も混ざり合った世界を浮遊する楽しさが詰まっている。
著者の他の作品も読んでみたい。
Posted by ブクログ
短編ひとつ読んだ後に、ぼーっと取り留めもなく考えてしまう余韻に襲われて楽しい。民俗学の薄ら寒い感じ、VRに生きる部族、物語が病原体、で仏陀を信じるインディアン。やー面白かった!他のも読む!
Posted by ブクログ
初・柴田勝家作品。
民族的な匂いのするSFってのは面白いな。柴田勝家、面白作家だな!
どの作品も面白かったけど、「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」が特に気に入った。
VRのR(Reality)が指すものは、一生VRゴーグルをつけた一族と、一般とではそりゃあ大きく乖離するよな。異文化・異星人交流モノなんだから、SF好きは好きな話だわな〜。
「鏡石異端」は、テッドチャンの「あなたの人生の物語」を想起。この感じも好き。小川一水もILCをお題に作品を書いているようなので、そっちも読みたい。
コロナ禍を経験している現代だからこそ、「検疫官」「アメリカン・ブッダ」も楽しめた。
Posted by ブクログ
短編集。ガチガチのSFもあれば、オカルトチックなものもある。なにより発想が素晴らしい。1話目の生涯VRヘッドセットをつけて仮想空間に生きる少数民族とか。「ヒト夜の永い夢」の主人公、熊楠先生に再会できるのもうれしいです。
表題作は、インディアン、仏教、加速された仮想世界などなどをミックスした作品。ちょっと思いつかない組み合わせです。
Posted by ブクログ
民俗学とSFの融合。技術が人々の生活に入り込んでも、根本にある人間の性質は変わらないというところが描かれている。さまざまな読み味の作品が多く、長編も読んでみたい。
Posted by ブクログ
北米全土を襲った〈大洪水〉のあと、肉体を冷凍睡眠させて精神世界に逃げ込んだ白人たちに現実世界のアメリカから〈仏教徒のインディアン〉が語りかける表題作ほか、六篇を収録するSF短篇集。
〈未来の民俗学SF〉とでも呼べばいいのか、現在や近未来の最先端技術が市井の人びとの生活にまで根づき、ハレとケに溶け込んで民俗学の研究対象になった世界を描いているのが面白い。かと思えば、19世紀末のロンドンで南方熊楠が人工知能の元祖みたいなマシンに遭遇したり、〈物語〉が検疫対象になった『華氏451度』みたいな国が登場したり。「邪義の壁」はド直球の民俗ホラーだし、さまざまに品を変えて楽しませてくれる。
巻頭の「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」と表題作「アメリカン・ブッダ」はどちらも現実を見ることをやめVR空間で生きることを選んだ人びとの話だが、スー族の在り方はシャマニズムの延長として肯定的に描かれ、アメリカの白人たちの在り方は現実逃避として描かれる。この二作の対比が短篇集の構成を引き締めていると思う。ミラクルマンと白人富裕層の関係性はジョン・クロウリー『エンジン・サマー』の〈しゃべる灯心草〉と天使によく似ていて、テーマ的にもオマージュかと思ったのだけどどうなのだろう。
Posted by ブクログ
本の帯の推薦文にあるように「柴田勝家は面白い」と思わせてくれる作品集です。
デビューしたての頃の半村良さんの要素を更にポップな文体で仕上げたような気がしました。
Posted by ブクログ
柴田勝家のSF短編集。柴田勝家は初めて読んだけど、武将のような名前だなぁと気にはなっていた。いや、どれも面白い。なかでも好きなのは鏡石異譚と表題作アメリカン・ブッダ。鏡石異譚は量子加速器付近で転落した少女がその後未来の自分を見るようになる話。記憶子は未来と過去を繋ぎ、世界の記憶を作り替える。しかし現実は変わっていない。想像が膨らむ感じ。表題作は加速した電子世界と荒廃から復活しつつある現実世界のアメリカの話。時間はいくらでもあり、数千年単位で暮らしている電子世界は気が遠くなる。
Posted by ブクログ
全6篇SF短編集
SFが読みたい2021版2位
大変ふざけた筆名だが中身は正統派作家
冒頭の
「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」
と最後の表題
「アメリカン・ブッダ」
が鏡合わせのような構造になっているのがいい
生まれた時から現実を見ることなく
VRヘッドセットをつけ生涯を終える少数民族
とても短いが認識という今こそ見直さなきゃいけないテーマがある
なんだその設定はとも思うが2016年初出のこの話はやがて現実に新型コロナウイルスにより場合によっては世界の何処かで有り得たかもしれない物語と読めてしまう
これだけ真面目な作品なのに筆名がもったいないなと思ったが、作者の画像見たら本当に柴田勝家だった すいませんでした
Posted by ブクログ
雲南省スー族におけるVR 技術の使用例
端童の女性が語った「全ての人が同じものを見ていると信じこんでいるだけ」
皆それぞれの見ている世界に生きていてそれは決して同じではない
最後にはスー族の存在、報告をする教授の存在さえも不確かであるとされる
鏡石異端
記憶子によって書き換えられる過去
自分を守るため過去の記憶を無意識に改ざんすることもある
もはや過去さえ確かなものではない
邪義の壁
ウワヌリ、罪を上塗りし表面はきれいに磨かれた壁
人もまた然り
龍動幕の内
南方&逸仙
ホームズ&ワトソンみたい
検疫官
少年はその存在が物語をうむ
アメリカン・ブッダ
脳を凍結しコンピュータ上に生きることで星の人々になったアメリカ
ミラクルマンの登場によって対立と分断が起こりまた争いが始まる
宇宙にのがれ平和なアメリカを創生しようとしても未来を変えることはできない
ミラクルマンは弥勒菩薩
人類を救ってくれるのだろうか?
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SFと民俗学の融合のような話が多い。
以下ふたつが特に好きだった。
古い実家の壁が崩れ、そこにあったものにどんどん狂わされていく『邪義の壁』。
主人公が壁に魅了され、おかしな方向に傾倒していくホラー感が好き。
物語は悪いものであり感染するものなので、物語を国内に持ち込ませないようにする『検疫官』。
検疫官である主人公が少年と出会い、数十年後に……という話でオチがとても良かった。
Posted by ブクログ
なにかの書評で見かけてからずっと読んでみたかった小説。
なにより作家の名前が「柴田勝家」さんというのが忘れがたくて(笑)。
久しぶりに日本のSF読んだなぁ。
仮想空間にまつわる話が多かった。
”仮想空間のSFもの”というと、ウィリアム・ギブスンの「モナリザオーバードライブ」なんかを思い出しちゃうけど、本作の仮想空間は、なんていうか、植物的な?穏やかな涅槃的世界観。リアルと仮想の狭間で緊迫した戦いなんてない。
モナリザの頃は、サイバーパンクなんて呼ばれてたけど、あれから40年超。仮想空間の世界はパンクから緩やかな死へ向かっているみたい。
当時はどこまでも広がる無限の空間だった電子世界は、閉塞感とともに平和すぎて死の匂いがするよう。
Posted by ブクログ
民俗学とSFの融合、概念を覆しに来る感じ、ケン・リュウとかテッド・チャンを思い浮かべた。劣らず話もまあまあややこしいのが多く、イメージし切れないことも多々。個人的には、鏡石異譚の考え方なんか凄いなと思った。ついていけんのだけど。スー族とかアメリカン・ブッダも、同様に凄いと思いつつも若干引く程の世界観。あと、やっぱりSF自体が苦手かなって思い知った。
Posted by ブクログ
民俗学×SFは面白い視点だなぁと思って読んだ。でもどっちも分野×分野なので、物語の中でそういうものを読者に分かるよう説明しつつ掛け合わせるのは難しいことだなぁと表題作読みながら思いました。
「雲南省〜」と「検閲官」、表題作の「アメリカン・ブッダ」が好き。個人的には最後に驚きや伏線回収がもたらされる話が好きなんだけど、そういうものは少ないように感じた。
Posted by ブクログ
民俗学SFが6篇。人々が人口冬眠して意識だけVR世界に移し平和に暮らしている世界に、リアル世界からブッダの教えを説くインディアンが語りかけると大混乱。最後は「百億の昼と千億の夜」を思い起こさせる壮大な展開になっていきます。
Posted by ブクログ
『アメリカン・ブッダ』は2回読んだら良かった。
常に分断は発生し同じ方向に進化は進むということや、悟りが中庸にあるということは2回目の方がすんなり入ってきた。