【感想・ネタバレ】ムーン・パレス(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

人類がはじめて月を歩いた夏だった。父を知らず、母とも死別した僕は、唯一の血縁だった伯父を失う。彼は僕と世界を結ぶ絆だった。僕は絶望のあまり、人生を放棄しはじめた。やがて生活費も尽き、餓死寸前のところを友人に救われた。体力が回復すると、僕は奇妙な仕事を見つけた。その依頼を遂行するうちに、偶然にも僕は自らの家系の謎にたどりついた……。深い余韻が胸に残る絶品の青春小説。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

主人公が愛する伯父を失って泣き腫らし、泥酔・嘔吐し、行きずりの娼婦にホテルに連れ込まれた挙句、脚を開く彼女に子守唄を歌ってあげた一幕は感に堪えなかった
頁を急く衝動と、ずっと終わらなければいいのに、という一抹の寂しさを胸に同居させられた傑作

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2025年12月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

最高。これがロマンチック。

ムーンパレスという名前のままに、何度も月に関するものが出てくる。叔父さんが「金がないからこれ以外送れないんだよ」と送ってくれた1000弱の本とそれを包むダンボールを家具にするという発想。叔父さんが亡くなりそのダンボールを本を読み売ることで悲しみと同時に消費し、叔父さんの本来の「役に立てる」を実行する。売る本もなくなってからは路上生活をするようになりその中でキティと出会い親友とキティに救われる。

次に盲目で車椅子に乗った気の狂った振りをする変わり者のおじいさんエフィングのところで働くことになる。エフィングが急に死を悟り、エフィングの隠された壮絶な物語が開けて行く。最後の目的に強盗を殺して奪い取った金を返すべく、エフィングがエフィングになってから唯一感動した「貧乏人に金をやる」という所業を成し遂げる。最終日、大雨が降り弱っているエフィングが外に出るのは危険だが、そんなことも顧みずエフィングは、昨日出会った晴れの日に壊れた傘を持ち雨が降っているように振る舞う謎の男から貰った傘を持って外に出る。そのうち大雨が降り主人公は雨宿りするようエフィングに言うが、エフィングはそれを無視してズタズタに破れた傘を持って「雨は降ってない」と言い切り壊れたように笑い続ける。最初は唖然としていた主人公も「本当だ、降ってない」とノリ、2人ともびしょ濡れになりながら金を配る。その後からエフィングは主人公を息子のように扱う。人生を肯定されたような気になったんだろうな。
結果、エフィングは肺炎になってしまい「12日」に死ぬという宣言は破られてしまうかと思ったが、エフィングの過去の機械的なまでに規則正しい生活が残っており、エフィングは主人公が気を使って嘘の日を教えたのにも関わらずきっかり12日に死亡した。
それに対する主人公の反応が大笑いなのは少し釈然としなかったけど、エフィングと大笑いしたことを考えれば不自然ではないと無理やり納得した。

次はエフィングの息子、巨漢の歴史学者バーバーと出会う、何度か出会う中ですごく好意的に接してくれる知識人だとしか思っていなかったが、キティが妊娠し中絶したことで別れた時に行先が無くなりバーバーの家にすませてもらうことになった。
なんやかんやあり、2人でエフィングのいう洞穴を探しに行くことにした。その道中母と叔父の墓へ行くと、バーバーが泣きながら母の名を呟き、父親だということがバレてしまう。主人公は感情の行き場がわからなくなったのか、今更でてきたことによる憎しみか、混乱か、激怒しバーバーを後ずさりさせることになった。そしてバーバーは墓穴へ落ちてしまい脊柱と頭蓋骨を割ることになってしまった。が、3ヶ月入院するも回復へ向かっていっていた。
そんな中主人公はまだバーバーが父親だという衝撃の事実を「母が他の男ともやってる可能性がある」という防壁を立てて受けいられれずにいる中、痩せていくバーバーに自分の顔との共通点を見つけてしまう。その直後元々あったバーバーの肥満による不健康が祟りバーバーはもって2週間となってしまった。主人公はバーバーの最期に母親の得意料理を食べさせてやろうと注文しようとしたが売り切れていた。その3日後にバーバーは死亡。
キティも数ヶ月放置してる間に寝盗られてた。
絶望した主人公は闇雲に車を走らせていく中エフィングの言う洞窟を探しに行くことにしたが、砂漠は湖になってしまったらしく見つからなかった。と、捜索している間に100万ドルを乗せた車が盗まれていた。主人公は絶望の末に「これは神による罰だ」と思い込むことにして、中国方面へとひたすら歩いていくことにした。何ヶ月もかけて海まで歩き、海に反射する月を眺めて話は終わる。


とにかくエフィング編が面白かった。純粋な意味での"面白い"変に混み入っていたり、奇を衒ってたり、社会風刺的な面白さではなく、ワクワクする本本来の楽しみを提供してもらった。
終わり方は釈然としなかったし何が伝えたいのかわからなかった。絶望ごっこはやめろ?人生は不条理だ?「何事も真に受けるな」?
でも、エフィングが最高だったので、全てよし!
ポール・オースター、またよもう!キティはよくわからない、いいや。

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2024年11月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

それは人類がはじめて月を歩いた夏だった。という美しすぎる書き出しがいい。音楽的とも評される文章は比喩表現含めてとても綺麗かつ、自嘲と自虐の目立つ語り口ながらニューヨーカーらしい軽快さもあるアメリカ現代文学らしいオシャレさがあった。

内容としては自伝的な青春小説でありながら、これは家族小説でもある。特に第二部の余命いくばくもない富豪の老人と、第三部の息子がそれぞれ主人公の父であり祖父だったという「偶然」と、それが連なって物語となる「必然」は非常に面白く、いずれも互いが関係性を自覚して双方向になったのは束の間で、死による離別となるのはたまらなく切ない。結局ひとりぼっちとなるラストも含めてかなり薄暗い小説ではあるものの、主人公は間違いなく出会った人間のほぼ全員に愛されており、悲しい物語でありながらそこの部分で奇妙にバランスが取れているなと思った。

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2025年05月13日

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